礼は、夢乃の無事をこの目で確かめてから、ようやくその場に崩れ落ちた。全身を真っ赤に染める血を見た瞬間、夢乃の頭の中は真っ白になった。彼女は礼の手をつかみ、涙をぼろぼろこぼしながら、震える声で繰り返した。「礼、寝ちゃだめ……ねえ、起きてよ。お願いだから、目を開けて、私を見て……」その瞬間、夢乃は、母を失ったあの日の、あのどうしようもない痛みと絶望を、もう一度突きつけられたような気がした。彼女は、拠り所のない子どもみたいに、救急救命室の前でしゃがみ込み、ひたすら彼の無事を祈り続けた。けれど、やがて医者が出てきて告げたのは――「手術自体はうまくいきました。ただ、弾丸が心臓にあまりにも近くて……いつ目を覚ますかは、本人の生きようとする意思次第です」その言葉を聞いた途端、夢乃は膝から崩れ落ち、あふれ出した涙が止まらなくなった。佐藤家の祖父が、ひとりの孫は終身刑、もうひとりの孫は重体で目を覚まさない、との報せを受けたとき。たった一晩で、彼は十歳も老け込んだように見えた。誰もが「礼はもう目を覚まさないかもしれない」と思い始めたころ。ただひとり、夢乃だけは、「彼はきっと戻ってくる」と信じて疑わなかった。……礼が昏睡状態の間、夢乃は、彼の体を自分の手で拭いてあげることにした。そのとき、ふと彼の背中に、古い傷跡があるのを見つけてしまった。夢乃は、その場で固まった。震える指先でそっと触れると、目尻からじわりと涙がにじみ出る。記憶が一気に蘇る。まだ子どもだった頃、うっかり罠穴に落ちたことがあった。あの日、どしゃ降りの中、自分を助けに飛び込んできて、鉄筋に肩を貫かれた人がいた。――あれは、礼だったのだ。けれど目を覚ましたとき、ベッドのそばにいたのは風雅だけ。大人たちは、礼は母親と一緒に海市の夏目家に戻った、としか説明してくれなかった。そのあとも、風雅の身体には、それらしい傷一つ見当たらない。だから夢乃は、あの雨の中の光景は、自分が混乱して見た夢か何かだと思い込んでいた。いま、礼の背中の傷跡を指先でなぞりながら、視界は涙でにじんでいく。……その後、どうしても自分が付き添うと言い張る祖父に病室を任せ、夢乃は一度家に戻り、礼の着替えを用意することにした。荷物を整理しているとき、う
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