「書面に記した通りだ。前皇帝の仇を討ったのち、正式な婚姻の是非を決める。相違ないな」「はい。前皇帝を失い、貴方のお心がどれ程深く傷つかれたか……その痛みは、わたくしにも痛い程分かりますもの。貴方の支えになれるのであれば、これ以上の喜びはございませんわ」ラズエラの慈しむような言葉すら、今のルファルには空虚な響きでしかなかった。ラズエラが羽ペンを手に取り、魔術語で綴られた契約書に、流麗な筆致で自らの名を刻んでいく。 ラズエラが静かにペンを置くと、ルファルは凍てつくような沈黙の中で、そのペンを握った。ただ感情を押し殺し、隣へ署名を走らせる。インクの跡が刻まれる度、逃れられぬ運命の鎖がその身に絡みついていく。ふたりの間に交わされたのは、呪いにも似た愛など一片も存在しない契り。リリシアの面影を心の奥底に封じ込め、ルファルは冷たい沈黙の中に身を浸した。* * *そうして、ラズエラが去った後。静まり返ったリリシアの部屋にルファルが訪ねてきた。「リリシア、少し良いか」ソフィラから聞いた話では、ラズエラはルファルと婚約を交わした後、満足げに微笑んで手を振り、上機嫌で邸宅を後にしたという。今更、自分のような「役立たず」の元へ何の用があるのだろうか。けれど、自分は花嫁候補の身。拒否など許されるはずもない。リリシアは重い体を引きずるようにしてベッドから立ち上がると、わずかな隙間を作るようにして扉を開けた。「……何か、御用でしょうか」薄暗い部屋で、リリシアは俯きながら消え入りそうな声で尋ねる。「……先程は、あのような振る舞いをして、すまなかった」「……いえ、わたしなどにお気遣いなく」リリシアの卑下するような態度に、ルファルは苦く目を伏せた。「頼む。少しでいい、部屋の外へ出て、話を聞いてはくれないだろうか」促されるまま、リリシアは微かに吐息を零して廊下へ出ると再び俯く。するとルファルは絞り出すような声で続けた。
Baca selengkapnya