Semua Bab 月灯りの花嫁。: Bab 51 - Bab 60

82 Bab

7話-3 運命の人。

「書面に記した通りだ。前皇帝の仇を討ったのち、正式な婚姻の是非を決める。相違ないな」「はい。前皇帝を失い、貴方のお心がどれ程深く傷つかれたか……その痛みは、わたくしにも痛い程分かりますもの。貴方の支えになれるのであれば、これ以上の喜びはございませんわ」ラズエラの慈しむような言葉すら、今のルファルには空虚な響きでしかなかった。ラズエラが羽ペンを手に取り、魔術語で綴られた契約書に、流麗な筆致で自らの名を刻んでいく。 ラズエラが静かにペンを置くと、ルファルは凍てつくような沈黙の中で、そのペンを握った。ただ感情を押し殺し、隣へ署名を走らせる。インクの跡が刻まれる度、逃れられぬ運命の鎖がその身に絡みついていく。ふたりの間に交わされたのは、呪いにも似た愛など一片も存在しない契り。リリシアの面影を心の奥底に封じ込め、ルファルは冷たい沈黙の中に身を浸した。* * *そうして、ラズエラが去った後。静まり返ったリリシアの部屋にルファルが訪ねてきた。「リリシア、少し良いか」ソフィラから聞いた話では、ラズエラはルファルと婚約を交わした後、満足げに微笑んで手を振り、上機嫌で邸宅を後にしたという。今更、自分のような「役立たず」の元へ何の用があるのだろうか。けれど、自分は花嫁候補の身。拒否など許されるはずもない。リリシアは重い体を引きずるようにしてベッドから立ち上がると、わずかな隙間を作るようにして扉を開けた。「……何か、御用でしょうか」薄暗い部屋で、リリシアは俯きながら消え入りそうな声で尋ねる。「……先程は、あのような振る舞いをして、すまなかった」「……いえ、わたしなどにお気遣いなく」リリシアの卑下するような態度に、ルファルは苦く目を伏せた。「頼む。少しでいい、部屋の外へ出て、話を聞いてはくれないだろうか」促されるまま、リリシアは微かに吐息を零して廊下へ出ると再び俯く。するとルファルは絞り出すような声で続けた。
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7話-4 運命の人。

* * *静寂が邸宅を包み込む、翌日の夕食後。2階の奥の休憩室に続くバルコニーで、ルファルは独り、夜空に懸かる月を眺めていた。月紐で一つに束ねられた髪が、夏の夜風にさらさらと微かに揺れる。朝、宮殿入りした折にシャイン皇帝へラズエラとの婚約を報告すべく皇帝の間へと出向いたが、シャイン皇帝は公務により不在であった。言付けは残してきたものの、果たして正しく伝わっただろうか。拭れぬ一抹の懸念が、ルファルの胸をかすめては消える。「ルファル様」背後から、衣擦れの音と共に控えめな声がした。振り返れば、開け放たれた扉の向こう側にリリシアが立っていた。「どうした」「いえ……昨日は、その、心休まる休日とはなりませんでしたから……。わたしに何か、ルファル様のお役に立てることはないかと思いまして……」伏せられた視線が、バルコニーと休憩室の境目で、ためらうように揺らいでいる。イーグルの怪異を目の当たりにして以来、リリシアには外出を禁じているが、この邸宅の中でまで、怯えさせる必要はない。ルファルは静かに歩み寄ると、その細い手首を引いて境目を飛び越え、バルコニーの月光の差す場所へと誘った。「え、あ、あの……」「……少しだけでいい。共に月を眺めてくれないか」「は、はい。かしこまりました」ふたりは並んで、冷ややかな感触の欄に手をかけた。初めて出会ったあの日と同じ場所で、同じ月を眺める。だが、隣にリリシアがいるというだけで、今宵の月はこれまでにない程、澄み渡って見える。その時だった。静寂を切り裂くように、闇の向こうから一羽の伝書鳩がこちらに向けて飛んでくる。「……っ」「案ずるな」肩を震わせたリリシアを短く制し、ルファルは捕まえた鳩の足に括り付けられた筒を取り出した。広げた薄紙には、魔術語を用いた皇帝シャインの峻烈な筆致が綴ら
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7話-5 運命の人

別邸へと発つ朝。リリシアは、揺れる馬車の窓から遠ざかっていくハクヴィス邸を眺めていた。車輪が立てる軋み音に混じり、外からはカイスとソフィラが駆る馬の蹄音(ていおん)が絶え間なく響いてくる。ラズエラ側の動向を警戒しての、物々しいまでの厳重な護衛。その静かな緊張感が、かえってリリシアの胸を痛い程に締め付けた。「……そのような装いをさせて、すまない」隣に座るルファルが、沈痛な面持ちで口を開いた。美しく、冷酷なまでに整った彼の瞳には、隠しようのない申し訳なさが色濃く滲んでいる。「いえ、お気になさらないで下さい」リリシアが今纏っているのは、華やかなドレスではない。世話係としての、質素で簡素なメイド服だ。煌びやかな馬車の内装にはおよそ似つかわしくない、地味な身なり。それはまるで、かつての下働きに逆戻りしてしまったかのようで――。けれど、皮肉なものだ。着飾った花嫁候補としての装いよりも今のこの地味な身なりの方が、ずっと心が落ち着くのだから。「リリシア。……手を握っても良いだろうか」不意の申し出にリリシアの肩が小さく跳ねた。「なっ……。なぜ、そのようなことを、わざわざお聞きになるのですか。わたしは今、ルファル様の世話係としてここに控えている身です。ですから、その……」「まだ別邸には着いていない。今のお前は、私の花嫁候補だ」ルファルの低い、だが拒絶を許さない声。「……着くまでの、間だけなら」リリシアが消え入るような声で零すとルファルはその大きな掌でリリシアの細い手を上から優しく包み込んだ。先程まで冷え切っていた指先が、ルファルの体温でじんわりと熱を帯びていく。つい先程まで落ち着いていたはずの心が、今はひどく騒がしい。(このまま、時が止まってしまえばいいのに。この手を、ずっと離さないでいて欲しい)そんな、叶うはずのない不遜(ふそん)な願いを抱いてしまう自分をリ
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7話-6 運命の人

その瞬間、リリシアの胸を言いようのない切なさが通り抜けた。だが、リリシアはその感情を一欠片も表に出すことはなく、凛と背筋を伸ばし、馬車を降りる。そのままルファルの背を追うようにして歩みを進め、背後に続くカイスとソフィラの靴音を耳にしながら玄関へと向かう。するとそこには、すでにラズエラの姿があった。専属の執事やメイドを背後に控えさせ、そわそわと手持ち無沙汰に周囲を窺っていたラズエラは、ルファルの姿をその瞳に捉えるなり、ぱっと花が咲いたように表情を輝かせた。「あ、ルファル様!」弾んだ声が、静かな森の空気を震わせる。「……待たせたようだな」ルファルの声は低く、事務的で、どこまでも冷ややかだ。甘さを排したその響きは、まるで氷の刃を鞘に収める時のような鋭さを含んでいる。「いいえ、わたくし共も先程着いたばかりですわ。ルファル様、わたくしの為にこれ程素晴らしい別邸をご用意下さって……。なんとお礼を申し上げればよいか、言葉もございません」「礼には及ばない。当然の配慮をしたまでだ。気にするな」突き放すような物言いに、ラズエラは一瞬だけ瞬きをしたが、すぐにその視線を傍らに控えるリリシアへと移した。今日のラズエラは、以前の婚約の時よりも更に磨き抜かれた美しさを放っている。装飾のない地味なメイド服に身を包むリリシアとは、あまりにも対照的であった。(不自然に思われたかもしれない……)「あ……あの……」リリシアが戸惑いに言葉を詰まらせると、ラズエラは慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、しとやかに歩み寄ってきた。「リリシア様。今日からルファル様の身の回りのお世話をなさると、執事から伺っております。わたくしの事情で、貴女のようなお方にまでこのような不便を強いてしまい……本当に申し訳ありません」「い、いえ、滅相もございません……。わたしに出来ることがあれば、何なりとお申し付け下さいませ
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8話-1 世界が終わるとしても。

* * *別邸での初めての夜。リリシアは、慣れない食事室でルファルとラズエラの夕食をお出しした。ハクヴィス邸を離れ、この別邸へと足を踏み入れてからは息をつく暇もなかった。自身のささやかな荷物を部屋へ運び入れるや否や、ルファルの命に従ってソフィラと共に書斎とラズエラの部屋の掃除を済ませ、昼食は立ったまま軽食を口にする。午後からは書斎にカイスと重い荷物を運び、ようやく書類を整え終えた頃には、空はすでに薄闇に包まれていた。「ルファル様、やっと落ち着いてお食事が頂けますわね」食卓についたラズエラが、春の陽だまりのような微笑みを浮かべる。「……そうだな」ルファルの返答は短く、その声音からは感情を読み取ることは出来ない。「なんだか、こうしてふたりきりで向かい合っていると、新婚生活が始まったようで気恥ずかしくなってしまいますわ」「せっかくの料理が冷める。頂こう」ルファルは淡々とフォークを手に取り、ラズエラもそれに倣(なら)った。ルファルが呼び寄せた料理長の下、ソフィラが頼んでくれたおかげで、自分も一品だけ料理を――鴨肉の蒸し焼きを添えることが出来た。どうやらそれは、ラズエラの口にも合ったようで、リリシアはほっとする。けれど、つい昨日まで。リリシアはルファルの隣で、同じ温もりを分け合いながら食事をしていた。だが、今はソフィラやカイス、そしてラズエラ専属の執事とメイドの隣に立ち、水を注ぎ、空いた皿を下げる立場だ。手の届くところにいるはずのルファルが、酷く遠い存在に思えて胸が疼く。それでもリリシアは、己の役割を果たすべく、零れそうになる想いを伏せ目がちな瞳の奥へと静かに沈め、ただ凛として、その場に立ち尽くし務めた。* * *ルファル達の食事が終わった後、リリシアを含め、使用人達の夕食が始まった。ラズエラ側の専属執事とメイドが料理長と賑やかに談笑する傍らで、リリシアはただ、手元の皿を見つめている。「……あまり、食が進んでいないようですが」右隣のカイスが、気
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8話-2 世界が終わるとしても。

リリシアは血の気が引く思いで、ラズエラ側に聞こえていないかと周囲を仰ぎ見る。すると、カイスが低く、芯の通った圧を孕んだ声を落とした。「……ソフィラ様、滅相もないことを。そのような発言は困ります」「……申し訳ございません。以後、ある程度は、配慮致します」ソフィラは感情の起伏を見せず、ただ淡々と冷めた紅茶を啜(すす)った。* * *夜も更け、眠りに就く前のこと。リリシアは、ルファルの寝室に隣接する控えの間へと呼び出された。着替えの手伝い——。それはリリシアにとって、この別邸での初めての務めであり、扉の前で指先が震えるのを止められなかった。「ルファル様、リリシアでございます……」『入れ』短く、重厚な声。「……失礼、致します」リリシアは意を決して、重い扉を押し開けた。「……っ!?」目に飛び込んできたのは、ソファーに腰掛け、上半身を露わにしているルファルの姿だった。――バンッ!リリシアは考えるより先に、勢いよく扉を閉めていた。今は夏。神魔隊長である彼が、暑さゆえに室内で肌を晒すのは決しておかしなことではない。邸宅で見かけたことだって、一度や二度ではないはずだ。けれど、この静まり返ったふたりきりの空間では、あまりにも刺激が強すぎる。高鳴る鼓動が、耳の奥でうるさい程に鳴り響いた。『なぜ閉める』扉越しに、呆れたような声が届く。「……も、申し訳ありません! ですが、ラズエラ様のお心を考えますと……やはり、着替えはカイス様に頼まれた方がよろしいかと……」中から衣擦れの音と近づいてくる足音が聞こえる。直後、扉が音もなく開いた。「ひゃっ……!」驚いて顔を上げると、そこには薄い上着を羽
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8話-3 世界が終わるとしても。

ルファルはゆったりとした足取りで、ソファーの端へと静かに身を沈める。リリシアはその斜め後ろに立ち、震える指先を隠すようにしてルファルの上着に手をかけた。そのまま肩の線に沿って、滑り落ちるように脱がせていく。続いて、薄い夏用の就寝着を羽織らせると、リリシアはルファルの正面へと回り込み、腰のリボンに手を伸ばす。だが、至近距離で見つめるルファルの存在感が、リリシアの冷静さを容易く奪っていく。(落ち着いて……しっかりしなくては。わたしはルファル様の世話係なのだから)心の中で自分を叱咤するものの、焦れば焦る程指先は思うように動かない。何度も結び直しても指の間をリボンがさらりと解けて落ちていく。「……大丈夫か?」不意に降ってきた、低く、深いルファルの声。リリシアの心臓が、跳ねる。(時間を取らせるどころか、ルファル様に気を遣わせてしまうなんて……。わたし、世話係失格だわ)「あ、ルファル様、申し訳、ござい……」謝罪の言葉を紡ぎきる前に頭の上にぽんと温かい手のひらが置かれた。「私は少しも急いでなどいない。だから気にせずゆっくりやれば良い」「は、はい……」その手の温もりに凍えていた心まで解けていくようだった。ようやく深く息を吐き、リリシアの手は魔法が解けたかのように、リボンをきゅっと綺麗な形に結び上げた。リリシアは再び斜め後ろへと下がり、ルファルの髪にそっと触れる。結んでいた月紐を解けば、まるで上質な絹糸のような髪が指を滑り降りた。それを櫛で一本一本丁寧に、慈しむように梳かしていく。「ルファル様、お召し替えが整いました。鏡をご覧になりますか?」「いや、必要ない。――リリシア」ルファルは隣の空いた座面を軽く叩いた。促されるまま、戸惑いながらもそこに腰を下ろしたリリシアの膝にルファルはふわりと頭を預ける。「え、ル、ルファル様!? 髪が乱れてしまいます&hellip
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8話-4 世界が終わるとしても。

* * *その日の午後。柔らかな陽光が射し込む回廊で、リリシアはラズエラの傍らを通りかかった。ラズエラはただひとり、中庭に面した2階の窓辺に佇んでいる。その横顔には、どこか翳りがあった。「ラズエラ様、いかがなさいましたか?」リリシアが控えめに声をかけると、ラズエラは弾かれたように顔を上げた。「……あ、リリシア様。ご覧になって、中庭に落ち葉が散っているのです。本当はわたくしの手で綺麗にして差し上げたいけれど、このようなドレスでは……」ラズエラの視線の先には、一階に広がる、美しく整えられた中庭。愛するルファルの為に何かがしたい。けれど、高貴な令嬢という鎖が、そのささやかな献身すら許さない。開け放たれた窓から流れ込む夏の湿った風にラズエラのそのやり場のないもどかしさが乗って、リリシアの肌をなでた。「では、わたしが後程掃除をしておきましょうか?」リリシアの申し出に、ラズエラの表情がぱっと花が綻ぶように明るくなる。「本当ですか? ああ、ありがとうございます。よろしくお願い致しますわ」安堵の溜息をつくラズエラ。その時、リリシアはラズエラの髪を飾るシルクリボンの端が、わずかに解(ほつ)れていることにふと気づく。「あ……ラズエラ様、髪のリボンが解(ほつ)れております」「えっ……? ど、どうしましょう」動揺するラズエラにリリシアはそっと微笑みかけた。「宜しければ、わたくしがお直し致しましょうか」「是非……。ありがとうございます。では、部屋へご案内致しますわ」案内された先は、真の貴族令嬢にふさわしい優美な私室だった。「失礼致します」リリシアは断りを入れ、ラズエラの髪から慎重にリボンを外す。指先に触れるその布地は、上質ではあるが、どこか使い込まれた跡があった。「随分と大切になされているのですね」「……ええ。実はそのリボン、
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8話-5 世界が終わるとしても。

リリシアの肩が微かに震える。(ルファル様膝枕を……。けれど、あれは命に従っただけで……わたしに選ぶ余地など、最初から……)「わたしは世話係としての務めを果たしていただけです」「果たして、本当にそれだけかしら? 貴女にルファル様の花嫁候補としての自覚や欲が一片もないとでも? 」「っ……」言葉に詰まるリリシアにメイドは一歩歩み寄り、耳元で残酷な事実を突きつける。「これだけは忘れないことです。ルファル様の花嫁に相応しいのは、ラズエラ様ただお一人。……あの方の幸せを壊すような真似をすれば、この私が、決して許しませんから」リリシアは溢れそうになる感情を抑え込むように、ぎゅっと拳を握り締める。ただ、静かに、深く。一度だけ頭を下げると、リリシアは凛とした足取りでその場を辞した。* * *やがてリリシアは、中庭の清掃に取り掛かった。ザッ、ザッ……と乾いた音を立て、箒で芝生の落ち葉を掃いていく。雲間から覗く陽光は、先程までの柔らかな温もりを完全に失っていた。今はただ、肌を灼くように執拗(しつよう)で、じりじりと暑い。(……それにしても)この中庭は本来、ソフィラやラズエラの専属メイドが、塵一つ残さぬよう管理しているはずの場所だ。それなのに、なぜこれ程までに落ち葉が積み重なっているのか。気付かぬうちに、夏の嵐でも吹き荒れたのだろうか――。そう自分を納得させるように、一つ、小さく頷く。時折、右手の甲で額の汗を拭い、ふう、淡い吐息を零しながら、ひたすらに箒を動かし続ける。そうして、ようやく清掃を終えた頃、空には夕闇が静かに迫っていた。リリシアは箒を抱え、中庭の隅に佇む蔵へと足を向ける。(……古く、重厚な造りの立派な蔵……)重い扉を開けると、そこには外の世界
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8話-6 世界が終わるとしても。

* * *別邸へと帰還したルファルが、馬から地へと降り立った。吹き抜ける夏風にマントをなびかせ、逸(はや)る心に急き立てられるような足取りで玄関へと進む。そこには、自身の専属執事とメイドを控えさせたラズエラが出迎えていた。ラズエラは恭しく頭を垂れ、ゆっくりと顔を上げる。「ルファル様、お帰りなさいませ」(……妙だな)ルファルは微かに眉をひそめる。そこに居るべきはずのリリシアとソフィラの姿が見当たらない。何より、別邸を包む空気が、今朝送り出された時とは決定的に異なっていた。「朝と雰囲気が違うようだが」「あ、実は、リリシア様にお力添えを頂き、このように結い上げて頂いたのです。……いかがでしょうか?」リリシアの手によって整えられたラズエラの髪をルファルは感情の読めない瞳で見つめた。「……似合っているのではないか」淡々としてはいたが、確かなルファルの肯定の言葉に、ラズエラは頬を染めてはにかむ。だが、ルファルの関心は既にそこにはなかった。ラズエラの専属執事が音もなく扉を開けるとルファルはラズエラへ問いを低く静かな声で投げかける。「それで、リリシアとソフィラはどうした」「ソフィラさんなら、先程リリシア様をお呼びに部屋へ向かいましたけれど……」「ルファル様!」鋭い叫び声と共に別邸の奥からソフィラが必死の形相で駆けてくる。「ソフィラ、何事だ」「リリシア様の姿が見えないのです! お部屋にもおられず、中庭の掃除を終えたら戻ると仰られていたので、そちらも探しましたが……どこにも……っ」「どうしましょう……もしかして、わたくしのせいでは……」ラズエラが怯えたように肩を震わせる。「髪だけでなく、リボンの解(ほつ)れまで直して頂いて……その上、中庭
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