* * *翌朝。夏の柔らかな日差しが差し込む中、リリシアは荷物をまとめ、ルファルと共にラズエラの見送りに立っていた。「ルファル様、リリシア様。ひとつきの間、至らぬわたくしを温かく迎えて下さり、心より感謝致します……それでは」ラズエラはしとやかに微笑むと、馬車の窓を閉めた。リリシアが深く頭を下げると同時に、ラズエラを乗せた馬車はゆっくりと遠ざかっていく。「リリシア。私達も行こう」「……はい」促されるまま、リリシアはルファルと同じ馬車に乗り込んだ。だが、この別邸へやってきた日とは決定的に違っていた。隣同士に座っていても、ルファルは決して自分と目を合わせようとはしない。(……きっと、あの月夜に口にしてしまった、わたしの告白のせい)返事などという大それたものを望んでいた訳ではなかった。例え言葉が返ってきたとしても、それはきっと拒絶に違いないのだから。ラズエラがその身に宿す『天の願い』は、天変地異引き起こし、世界を破滅へと導く強大な力。皇国を守る義務を負うルファルが、ラズエラを花嫁に選ぶのは、あまりに当然の帰結だった。(世話係から花嫁候補に戻ったところで、ルファル様の隣に立つべきお方は、ラズエラ様お一人……)それでも、捨てられなかっただけ幸せだと思わなければ。この呪いが解けるその日まで、自分に出来る限りの務めを果たそう。リリシアは膝の上で、指をぎゅっと握り締めた。* * *そうして、邸宅での日常が、再び静かに流れ始めた。胸の奥に、もやもやと溜まった気まずさに蓋をし、何事もなかったかのように振る舞う日々。別邸での騒がしさが嘘のような、穏やかで、けれどどこか寂しさの漂う夜が過ぎていく。そんな日々が一週間程続いた、ある夜のこと。リリシアはルファルに呼ばれ、休憩室へと足を運んだ。「……5日後、任務により遠出をすることとなった」(季節が
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