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All Chapters of 月灯りの花嫁。: Chapter 41 - Chapter 50

50 Chapters

6話-4 月のお方と、初めての帝都。

歩みを進める度に周囲の視線が集まってくる。その中心にいるのは、常にリリシアの隣を凛と歩く、冷酷無慈悲な月のお方だ。「まあ、ご覧になって。ルファル様よ」「本当だわ。なんてお美しいのかしら……」貴婦人達の囁く声が耳に届き、リリシアはいたたまれず肩を少しだけすぼめた。人々が目を奪われるのは無理もない。ルファルは月の光を透かしたような、うるわしき髪を持つ絶世の美青年なのだから。リリシアは、はぁ……と小さく息を吐く。気後れから自然と視線は落ち、控えめに自分の足元を見つめるようにして歩く。「……どこを見ている。前を向け」不意に降ってきたのは、ルファルの低く、けれど拒絶を許さない声だった。「私の隣にいるのであれば、凛としていろ」「は、はいっ」リリシアは弾かれたようにすぐさま顔を上げ、背筋を伸ばす。そうして視界が開けた先には、眩いばかりの賑わいが広がっていた。ルファルに導かれたそこは、帝都名物の露店街の真っ只中。所狭しと並ぶ出店は、まるで迷路のようにひしめき合っている。香ばしい食べ物の香りに、見たこともない異国の日用雑貨から、冷たく光る精緻(せいち)な武具に至るまで、此処に来れば見つからないものはないとでも言いたげな、この世のすべてがここに集められたかのような光景だ。「名物のハンバーグサンドですって」ふと耳に届いた令嬢の声と、美味しそうなお肉の焼ける香りに誘われ、リリシアは思わず視線を引かれた。(ハンバーグサンド……パンに平たく丸められたお肉が挟まっているようだけれど初めて見るわ……)物珍しさに、つい視線を奪われていたその時。「それを、ふたつ貰おう」「えっ……」唐突なルファルの言葉と行動に、リリシアは目を丸くした。店主もまた、驚きに目を見開く。「こりゃあ、ルファル様ではありませんか! こんなにたくさん頂くのは…&h
last updateLast Updated : 2026-03-10
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6話-5 月のお方と、初めての帝都。

「……見て。ルファル様の傍らにいらっしゃるあの方が恐らく、ユエリア様を病に伏せるように追いやった『月影』よ。なんて不吉な……」耳を刺すような令嬢の冷ややかな囁きに、リリシアの心臓がどくん、と跳ねた。姉の噂がこの帝都にまで届いていたなんて。呪いについては知られていないようだが、かつて父に連れられ、華々しくこの地を訪れていた姉の知名度を考えれば、それも仕方のないことかもしれない。けれど、“呪い月”と忌み嫌われる自分が隣にいては、いずれルファルの名にまで消えない泥を塗ってしまうのではないか。そんな卑屈な考えが胸を過(よぎ)った、その時だった。「――消えろ、この月影め!」叫び声と共に、何かがリリシアを目掛けて飛んでくる。が、身をすくめるリリシアよりも早く、隣に立つルファルの右手が動き、パキン、と硬質な音が響く。石礫は目の前の空中で粉々に砕け散った。砕けた石の粉さえも、ルファルの力に弾かれ、リリシアの頬に触れることなく流れていく。隣に視線を移すと、ルファルの表情は氷点下まで凍てついたように強張っていた。ルファルの周囲を圧する程の冷酷な威圧感に、人々のざわめきが一瞬で静まり返る。すると2名の警備隊員がすぐさま駆け寄り、石を投げた青年を組み伏せた。「ルファル様、お怪我はございませんか!」「……問題ない」低く、突き放すようなルファルの声。取り押さえられた青年は「くそっ!」と毒づいた。帝都の裏路地で貧しい暮らしをしているのだろうか。  ボロボロに汚れた服を纏った青年にリリシアは憎しみに満ちた瞳で睨みつけられる。「お前のせいだ! ユエリア様が病に伏せったのは! どうしてお前なんかがルファル様の隣にいるんだ! ユエリア様は、俺のような者にもパンを分け与えてくださる慈悲深いお方だったのに……!」「黙れ、無礼者が!」「大人しくしろ、これより連行する」2名の隊員が青年の腕を取り立ち上
last updateLast Updated : 2026-03-11
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6話-6 月のお方と、初めての帝都。

「……ようやく、落ち着いて食事が出来るな」 「は、はい……そうですね」 格式の高そうなレストランの窓際、ルファルが事前に手配していた特等席で、リリシアは緊張に身を固くして答え、小さく頷いた。 けれど先程の鮮烈なヴァイオリンの演奏の余韻も相まって辿り着いたこの場所でもやはり、周囲の客達の視線が痛い程に突き刺さる。 だが、目の前で静かにナプキンを広げるルファルの、どこかほっとしたような穏やかな眼差しを見ていると、不思議と胸がキュンとして、周囲の雑音などどうでもよくなってしまう。 運ばれてくる料理は、どれもリリシアが目にしたことのないものばかりだった。 前菜の透き通った海老のジュレ、絹のようになめらかなクリームポタージュ、黄金色に輝くソースを纏ったパスタ。 次々と運ばれる帝都の美食に、リリシアの心は騒がしく揺れる。 そんな自分に呆れたのか、ルファルが、ふっ、と微かに唇を綻ばせた。 「そんなに珍しいか?」 (わたしったら、料理に見惚れてルファル様を蔑ろにしてしまうなんて……。これでは花嫁候補としてあまりに子供っぽくて、恥ずかしい……) 「あ……申し訳ありません。邸宅や宮殿のお料理も素晴らしいのですが、それともまた違う、こんなにも美しく芸術的で美味しいものは初めてで……」 「そうか。お前の口に合ったのなら、それでいい」 ルファルに導かれるように、ふと、窓の外へと視線を移す。 吊るされたハンギングバスケットから零れ落ちた夏の花びらが、ひらりと自分達をそっと見守るかのように陽光を透かし、宝石のような煌めきを帯びて風に舞っている。 そのひとときは、静かな昼下がりの光の中に溶けていった。 * * * 穏やかな食事の時間が過ぎ、レストランを後にしたふたりは、次なる場所へと向かう。 数段の短い石階段を上り、その先に待ち構えていたのは、お洒落な黒を基調としたステンドグラスの扉だった。 ルファルの手がまるで宝石のような取っ手にかけられ、静かに押し開かれる。 そこは、帝都で最も名高いと謳われる仕立て屋だった。 「ルファル様、お待ちしておりました」 洒落た気品ある女性店主が、深く腰を折ってリリシア達を迎える。 「すでに出来上がったものが何着かございますが、いかが致しますか?」 「仕上がっているものは後で確認する。まずは店内を見せてもらおう」 「承
last updateLast Updated : 2026-03-12
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6話-7 月のお方と、初めての帝都。

ルファルは店主と共に奥へ下がり、何やら低い声で打ち合わせを始めた。 時折、ルファルがこちらに視線を向けるのが分かり、リリシアは居心地が悪そうに自分の髪を撫でる。 「……彼女の為に、いくつか新調してくれ。それから、あのブローチと……あのドレスを特注で」 「……承知致しました。ルファル様のご意向のままに」 密談の内容までは聞き取れなかったが、やがて戻ってきたルファルは、流れるような動作でリリシアの胸元へ、先程のブローチを留めた。 「え、ルファル様!? こんな高価なもの……」 「これは月の魔術を込めてある。私の目の届かぬところで、お前に何かあっては困るからな。肌身離さず持っておけ」 不器用な程ぶっきらぼうな言い回し。けれど、その指先は驚くほど優しくリリシアの肩に触れた。 リリシアは頬に熱を感じ、そっとドレスの隠しポケットを確かめる。 そこには、これまでのわずかな給金で買った小さな「お守り」が入っていた。 ルファルがヴァイオリンを奏でた、あの広場。そこにもささやかな店が出店して並んでおり、ルファルがヴァイオリンを返却しているわずかな合間を見計らい、「少し、身なりを整えて参ります」と不慣れな嘘を付いてまで手に入れたものだ。 「……ルファル様、わたしからも、これを。お守りに、お持ち頂けませんか?」 差し出したのは、細いチェーンがしなやかに揺れる、白銀の輝きを纏う枠に小さな満月のような水晶がはめ込まれただけの、安価なブローチだ。 この仕立て屋にある何よりも安っぽく、けれどリリシアが精一杯の心を込めて選んだもの。 ルファルは一瞬、意外そうに目を見開いたが、やがてそれを大きな掌で包み込んだ。 「……ああ。……お前に付けてもらいたいのだが、構わないか?」 「は、はい……」 ルファルが少し背をかがめ、リリシアはその胸元に、震える手でブローチを留めた。 * * * その後、リリシアはルファルの約束があるという、涼やかな風が吹き抜けるカフェへと足を向けた。 帝都の喧騒から程よく離れたその通りは、道幅こそ広いものの、耳に届くのは心地よいさざめきばかり。 時折、石畳を叩く馬車の蹄の音
last updateLast Updated : 2026-03-13
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6話-8 月のお方と、初めての帝都。

ハノの口から聞かされた「任務」という、場にそぐわない無機質な響き。その言葉が耳に触れた瞬間、リリシアの胸の奥で、言いようのない不安が小さく波立った。先程までの、甘く、溶けるような幸福な時間が、急速に現実味を帯びて引き剥がされていく。「え……、ルファル様のお約束というのは……その、任務のことだったのですか……?」困惑に揺れるリリシアの瞳を見つめ、ルファルはわずかに眉を寄せた。申し訳なさそうに、けれど神魔隊長としての威厳を崩さぬまま、静かに口を開く。「……黙っていてすまない。シャイン皇帝より、本件は秘匿せよとの伝令を受けていた……任務の前に、帝都で睦まじく時を過ごせ、とな」最後の一節を口にする際、ルファルはわずかに視線を逸らした。「睦まじく」という言葉が耳に触れた瞬間、リリシアの頬に熱が灯る。シャイン皇帝直々の伝令が、まさか自分達のデートを指していたなんて……。微笑むシャイン皇帝の顔が脳裏に浮かぶようで、リリシアはたまらず視線を落とした。「そ、そうだったのですね……。では、これからすぐに、その……任務へ?」リリシアが問いかけると、ルファルはハノと一瞬だけ音のない会話を交わすように見つめ合った。「――いや。まずは一息つこう。同席しても構わないか?」「勿論だ。こちらへ」ハノに促され、リリシアはルファルと共に椅子へと向かった。エスコートされるままハノと向き合う形で席に着くと、ハノが柔らかく問いかける。「今は任務ではありませんから、普段通りに接しても?」「ああ、好きにしろ」ルファルの許しを得て、ハノはふっと表情を和らげた。その瞳には、旧知の友に向ける揺るぎない信頼が宿っている。「今日のルファルは、真実(まこと)の皇子(おうじ)のように見える。……いや、そのものかな。先程のヴァイオリンでも腕は少しも鈍っ
last updateLast Updated : 2026-03-14
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6話-9 月のお方と、初めての帝都。

* * *ハノが優しく皿を差し出そうとした、その時。ルファルの周囲の空気が、一瞬で氷点下へと叩き落とされた。(……チョコレートケーキの方が感動しているだと? 私が見せた景色やあのブローチよりも、ハノと囲むこの菓子に心を奪われているというのか……?)内心の動揺を冷酷な仮面で隠し、ルファルは強引に割り込んだ。「ハノ、自分の分は自分で食べろ。――リリシア、足りないのなら私の分を分ける。私のを食べれば良い」「え、ルファル様!? そんな、お気遣いなく……っ」慌てるリリシアをよそに、ルファルの独占欲が静かに現れ、穏やかな表情を見せるハノとの間に、奇妙な均衡が流れる。だが、そんな流れを破ったのは、唐突に吹き抜けた不気味で冷ややかな「風」だった。その怪異の気配を感じ取った2人の魔術師の顔つきが、神魔隊の騎士のそれへと変貌する。「……来たか」ハノが座ったまま鋭い視線を向けると、海風のような清涼な気配が渦を巻き、街の隅に潜んでいた淀んだ影を一掃した。「じきに日も暮れる。任務を急いだ方が良さそうだ」ルファルはハノの言葉に頷く。「……ああ。では行こうか」* * *やがてリリシアはふたりとこの場を離れ、帝都の喧騒から巨大な並木道へと足を踏み入れた。そこは、先程までの賑わいが嘘のように静まり返り、鳥のさえずりさえも聞こえない。リリシアが不安に駆られ、後ろを振り返ろうとしたその時、ルファルの鋭い声が飛んだ。「決して振り返るな。……いいな」その厳かな響きに背筋を正し、リリシアは前だけを見つめる。一歩、また一歩と進むにつれ、辺りには濃い霧が立ち込め、白く、白く、白、白に。まるで包み込まれるように視界を白銀の世界へと染め上げていった。いつしか霧が晴れた瞬間、リリシアは息を呑む。そこは、まるで時が止まり眠りについた永遠の揺りかごのような、世界の境界が消失した異界の極致だった
last updateLast Updated : 2026-03-15
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6話-10 月のお方と、初めての帝都。

不意に、音もなく巨大な樹木の幹から、白き影のような怪異が姿を現す。半透明の白い体、顔を覆う禍々しい黒の仮面、そして背に広がる不吉な程に美しい翼。かつて邸宅の庭に現れた怪異とは一線を画す、上位の気配を纏う圧倒的な威圧感。その出現に呼応するかのように、樹木から零れた花びらが吹雪のように舞い上がり、飛散した。「っ……!」反射的にリリシア達が身構えた瞬間、世界から一切の光が消失する。気づけば、そこは底知れぬ静寂の暗闇だった。肌を刺す凍てつくような冷気、逃げ場のない閉塞感。ここはまるで――かつて実家で冷たく閉じ込められていた夜の「鳥籠の部屋」のようだった。(また、あそこに戻ってしまったの……?)記憶の奥底に澱(おり)のように沈んでいた、あの絶望の記憶が一人きりのリリシアの孤独な心を闇に染め上げるかの如く這い上がってくる。「……はぁ、はぁ……っ」耳元でうるさく打ち鳴らされる鼓動。浅くなる呼吸。恐怖が指先から心臓へと、まるで冷たい毒のように回っていく。「リリシア、惑わされるな」闇を切り裂く、峻厳でいて柔らかな響き。その凛とした声に弾かれたように、リリシアは正気を取り戻す。顔を上げれば、そこには月光を背負ったかのような、冷酷で美しいルファルの姿があった。「……ルファル、様……」「無事か」その短い言葉に、リリシアは震える胸を抑えて深く頷く。「はい……ルファル様も、ご無事で……本当に、良かったです……」安堵に喉を震わせ視線を巡らせると、数歩先で向こう側を見つめ立ち尽くすハノの姿が見えた。「良かった、ハノ様も……」言いかけて、リリシアは息を呑む。ハノの様子はどこか異様だった。足元はどろりとした黒い霧に絡め取られ、
last updateLast Updated : 2026-03-19
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6話-11 月のお方と、初めての帝都。

「……ルファル様。申し訳ありません。私としたことが不覚を取りました」静かに頭を垂れるハノに、ルファルはそれ以上の追及はせず、ただ鋭く命じた。「良い。……行くぞ」ルファルが鞘から剣を抜き、同時にハノもまた、腰に差した柄のようなものに手をかける。その瞬間、大気中の水分が渦を巻き、吸い込まれるように柄へと集い、透き通るような「水の刃」が形成された。「海の名において……還れ」詠唱後、一閃。ハノの剣が怪異を両断した。だが、切り離された翼が元の姿の怪異へと戻っていく。それを許さず、ルファルは冷酷な追撃をし、剣で間髪入れずに斬り落とす。怪異は浄化され光となり、すうっと異空間ごと霧散していった。辺りは巨大な並木道へと戻り、静寂を取り戻す。しかし、それも束の間。遥か上空を巨大な影が横切る。旋回しているそれは紛れもなく、かつて自分と姉に呪いをかけた、あの忌まわしいドラゴンに似たイーグル如き影。リリシアはその恐怖から眩暈に襲われ、ふらつきそうになるもぐっと堪える。「イーグルの怪異、来たか……!」「ここは私がお引き受けします。ルファル様はリリシア様を連れて、至急宮殿へ。……お急ぎ下さい」ハノは海風を纏うような速さで地を蹴り、空の影を追って姿が見えなくなっていく。リリシアは気分が優れないのを隠し、ルファルと共にカイスの待つ馬車へと戻った。そうして宮殿に戻る帝都への帰路に就く道すがら、リリシアはルファルに連れられ、ひっそりと広がる秘密の園のような花畑へと立ち寄る。「綺麗な場所……」「心を鎮めたい時に寄っている……少し、風に当たれ。ここは雑音が届かない。気分はどうだ?」不器用なまでの気遣いに、リリシアの胸が熱くなる。(ルファル様、わたしの為に……?)「もう、大丈夫です。ありがとうございま
last updateLast Updated : 2026-03-22
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7話-1 運命の人。

* * *「急ぎ、失礼致します」静寂に包まれた宮殿に、ルファルの硬質な声が低く響き渡った。程なくして宮殿入りした彼は、リリシアを伴い、重厚な装飾が施された皇帝の間へと足を踏み入れる。玉座へと続く階段の前でふたりが深々と跪くと、そこに座るシャイン皇帝が、すべてを見透かすような威厳に満ちた眼差しを向けた。「我は先程側近と共に公務から戻ったばかりだが……ルファルよ。帰還早々、いかがした? その様子では、ただの報告ではあるまい」「はい。任務である怪異の浄化を終えた直後、帝都の巨大な並木道、その遥か上空を旋回するイーグルの怪異を目撃致しました」「……そうか。降りてきた日の光により帝都で何かが起こることは分かっていたゆえ、任務を命じたのだが――やはり、我の予感は当たっていたようだな」シャイン皇帝の端整な顔に凍てつくような敵意が宿る。「イーグルの怪異、ついに姿を現したか」シャイン皇帝の瞳の奥で、光の炎が揺らめく。その圧倒的な威圧感に、ふたりの背筋に冷たいものが走った。「案ずるな。至急、他の魔術師達も向かわせよう」シャイン皇帝が日の魔術を使うと、光の粒子に導かれるように側近が姿を現した。「お呼びでしょうか、陛下」「魔術師ら全員に通達せよ。帝都の巨大な並木道の遥か上空にイーグルの怪異が出現した。直ちに追え、とな」「承知致しました」側近は恭しく一礼すると、すぐさま外へと出て行った。するとシャイン皇帝の視線がルファルの傍らで控えるリリシアへと移る。「して、リリシアよ。これよりルファルと直に話すべき儀がある。カイスと共に、しばし外で待っていてもらえるか?」「は、はい。かしこまりました」リリシアは深く頭を下げると、静かに皇帝の間を後にした。残されたルファルは、シャイン皇帝を見上げる。「それで、シャイン皇帝、お話とは?」ルファルの問いに、シャイン皇帝は一層深刻な面持ちで口を開く。「ラズエラ・セレスティアのことだ。お前も昔馴染みゆえ、良く知
last updateLast Updated : 2026-03-26
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7話-2 運命の人。

リリシアの思考は、氷の檻に閉じ込められたかのように凍結した。(ルファル様が……あの方と婚約……?)私室から姿を現したルファルが、月紐で一本に結った髪を微かに揺らし、長靴の音を重厚に響かせて階段を降りてくる。「ルファ様!」「ラズ」親密に呼び合うふたりの姿。リリシアはただ、石のように硬直してそれを見つめることしか叶わない。「あ、の……ルファル様……」消え入るような声を絞り出したリリシアをルファルの冷たい視線が射抜く。「茶も花も不要だ。お前は下がっていろ。……私は彼女を部屋へ案内する」有無を言わさぬ拒絶。ラズエラは満足げに深く頷き、ふたりはリリシアを置き去りにして、静まり返った階段を上がっていく。「……嘘でしょう?」「……リリシア様がいらっしゃるというのに、あんまりですわ」「……婚約をなさるということは、ラズエラ様を選んだということかしら……」周囲で渦巻く使用人達の囁き声すら、まるで遠い異国の言語のように意味をなさない。もしかしたら、ルファルと心を通わせられるのではないか。もしかしたら、ルファルと幸せになれるのではないか。もしかしたら、ルファルの花嫁になれるのではないか。ルファルへの恋を自覚して以来、胸の奥底で静かに抱いていた淡い期待。しかし、現実はあまりに非情だった。自分は“呪い月”という忌むべき宿命を背負った、ただの花嫁候補の一人に過ぎないのだ。だから。(……初めから、叶うはずなどないに決まっていた。それなのに、わたしは……)リリシアはただ立ち尽くしたまま、逃げるように視線を床へと落とした。* * *重厚な扉が閉まり、書斎はふたりきりの静寂に
last updateLast Updated : 2026-03-28
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