拝殿を後にした私はその後、優さんの指示通り巫女長さんの元へと向かい、彼女と共に授与所で参拝客にお守りやお札の授与をすることになりました。 「努めて笑顔で、愛想良く。分かった?」 「はい──分かりました、巫女長さま」 こくりと頷く私を見て、巫女長さんはたいへん満足した様子でくすっと微笑みます。 「うん、良い返事ね──県外から来たって言うから、正直不安だったのだけれど……思っていたよりも、しっかりしてそうで安心したわ。こんな風に考えてしまうなんて、私も結局は、鳴神山地に生きる人間なのね……」 どうやら、巫女長さんは村社会さながらの陰湿さを持つ地元に対し、何か思うところがあるようでした。二十代後半と立派な大人世代ではありますが、それはそれとして、若者世代と非常に近しい感覚をお持ちのようです。 積もり積もった雪が何れは解けて消えてゆくように、鳴神山地に蔓延る村社会的風潮も、少しずつ変わってゆくのだろう。巫女長さんに横髪を優しく撫でてもらいながら、私はそのようなことを考えました。 授与所に居るのは、私と巫女長さんの二人。和さんは御朱印の練習をしており、この場には居ません。巫女長さんが特務機関【敷島】の工作員である可能性も、現状ゼロではありませんが、そこまで高くもありません。適度な距離感を維持して接すれば、仮に【敷島】の工作員だったとしても、不意打ちを受けることはないでしょう。 背乗りは【敷島】の十八番《おはこ》ですから、勿論参拝客や敷地内で作業している氏子の方々にも要注意です。何処にでもいて、何処にもいない蜃気楼のようなもの……それが、彼ら【敷島】の在り方ですから。 昼間でも太陽が大地を照らす時間より、雲に覆われている時間の方が多い此岸町……ちらほらといらっしゃる参拝客の殆どが、陰鬱なる空模様と瓜二つのどんよりとした表情をした、中高年の方々です。 彼らは、此岸町出身者である巫女長さんには愛想良く接するのですが……見慣れぬ余所者である私とは、頑なに目を合わせようとすらしません。私がお守りやお札を授与しても唇を尖らせて小さく頷くだけで、後は巫女長さんと他愛もない世間話をしていました。 若し、授与所にいるのが私一人だったなら、彼らは息をするように陰湿な嫌がらせをしてきたことでしょう。今の私は、巫女長さんという抑止力がいて下さるお陰で、精々無視さ
Last Updated : 2026-04-27 Read more