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28 Chapters

第二章 第21話 邂逅、星を司りし邪神

「さぁ……此方《こち》へ、此方へ……」 胸に杭が打ち込まれた、生気が感じられない血塗れの巫女……彼女に導かれるままに着いていった先、山の中腹の開かれた場所に、その神域はありました。 香々星之宮──星を司る神・天津甕星を祀る場所。まつろわぬ神々の長たる者が、安らかなる眠りについているとされる場所。 「……っ!?」 噎せ返るような血の匂いに、私は思わず顔を顰めました。金剛さんも匂いを嗅ぎ取ったようで、忌々しげな舌打ちの音が隣から聞こえてきます。 「ここ、が……香々星之宮……何て、禍々しい……」 何て禍々しい──それが、私が香々星之宮に辿り着いて最初に抱いた感想でした。 黒塗りの巨大な社は香々星神社のものよりも更に大きく威圧感があり、社務所や手水舎、神楽殿に至るまで建築物の造りは全て、麓の香々星神社に勝るとも劣らない立派なものでした。 ですが……それが余計に、香々星之宮という場所を禍々しいものにしているのです。見た目のインパクト、そして噎せ返るような血の匂い。暗雲に覆われた空、雲の隙間から漏れ出る雷の光……それらの要素が組み合わさり、香々星之宮という神域を呪われた場所へと変えていました。 「ようこそ、御陵 奏──我らが主の坐す神域へ」 私たちをこの場まで案内してくれた巫女が、軽やかな動きでくるりと振り返り、目許や口端から真っ赤な血を滴らせながらにこやかに笑います。 ──ふふっ…… 巫女の笑い声に呼応するように、無数の少女たちの笑い声が四方八方から聞こえ始めます。嫌な汗が背筋を伝うのを感じながら、私は小さく息を呑みました。 何故、私の名前を知っているのでしょうか。彼女たちの言う主とやらは、私の到来を予期していたとでも言うのでしょうか。 若し、そうだとするならば……私が歩む道の末路も、彼の者にはお見通しだと言うのでしょうか。私の辿るであろう結末が、彼の者には既に見えているのでしょうか。 ──ふふっ……あははっ……! 平静を装いながらも、その実は言い表しようのない恐怖に震えている。そんな私の様子はさぞ、滑稽に映っていることでしょう。徐々に数を増やし、大きくなってゆく少女たちの笑い声が、そのことを如実に物語っていました。 やがて── ポツリ、ポツリと、胸に杭を打ち込まれた、巫女服姿の
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第二章 第22話 其は呪いか、祝福か

暗澹たる射干玉の闇の中、底なし沼を彷彿とさせる深く昏い泥濘の中に私は居ました。 目や鼻から溢れていた血は止まったようで、真っ赤に染まっていた視界も今は正常……痛みと呼べるものも全く感じられません。「…………」 此処は一体、何処なのでしょう。言葉にならぬ怨嗟の声に満ち満ちた真っ暗闇。頭も身体も何処かふわふわとしており、現実味がまるでありません。 まるで、夢の中に居るかのようです。前に進んでいるのか後ろに進んでいるのか、浮いているのか沈んでいるのかも分からない。兎に角、決して心地のよい場所ではありませんでした。「…………」 出口を求めて、私は射干玉の闇の中を彷徨います。少しでも前に進んでいるという感覚を欲しました。そうしなければ孤独に苛まれ、気が狂ってしまいそうだったから。 暗闇に終わりは見えず、喩えるなら無限に続く回廊を進んでいるような気分です。怨嗟の声が絶え間なく響き渡る果てしない回廊、という表現がしっくりきます。 一人でこの空間を抜け出すのは至難の業……暫く彷徨してみた後、私はそう結論を下し、彼女に心の中で助力を求めました。 ──ミコト、お願い。私の願いに応えて。この暗闇から抜け出すために、貴方の力を借りたいの。 刹那──「…………!」 ミコトから御守りとして貰った勾玉が一筋の光を放ち、暗闇の先……遥か遠方にある一点を指し示しました。「ふふっ……ありがとう、ミコト。若し貴方が居てくれなかったら……私は未来永劫、この暗闇の中を彷徨い続けることになったかもしれないもの」 ミコトに対する礼を口にしながら、私は光の指し示す方へと只管に歩を進めます。当てもなく独りで彷徨い続けた先程までとは違い、今はミコトが一緒にいて、私を暗闇の出口へと導いてくれている。その事実が私を安心させ、精神的な余裕を与えてくれました。 出口が近付くにつれ、怨嗟の声は遠のいてゆきます。代わりに、誰かが啜り泣く声が聞こえてきました。 声からして、私と同年代くらいでしょうか。綺麗なソプラノボイスであることから察するに、女性……それもまだ年端もいかない少女のものでしょう。 進めば進むほどに怨嗟の声は遠のき、啜り泣く声が大きくなってゆきます。 やがて── 暗闇を抜けた先に広がっていたのは、無数の星々が瞬く幻想的な空間でした。無限
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幕間 第23話 敗残兵の集まりにて

御陵 奏たちが現地入りし、星降山へと立ち入る準備を進めていた頃……御陵 清もまた、米軍の横田基地を経由して東京入りしていた。 与党第一党たる自由保守党……彼らが主催する、政治資金パーティーに招かれていたためである。 招待状が届いた当初、彼女が属する御陵本家は参加を見送る方針であった。ところがそこへ、特務機関【敷島】の創設者たる御上こと、神代 大和が招待に応じパーティーに参加するとの報告が、各所に放たれている間者たちによって齎された。 神代 大和……保守界隈から御上と呼ばれ畏怖されている彼と穏便に接触を試みるには、政治資金パーティーというイベントは正に最適と言えた。 裏御三家に対して敵対行動を取る理由、そして総理の座に居座る国賊・因幡に助力した目的。それらを彼の口から直接聞くまたとない好機にして、事故や病気に見せかけて暗殺する絶好のチャンスでもあったからだ。 何より……これは御上の正体を知る、良い機会でもあった。 裏御三家の要人たちが知る限りでは、神代 大和という男は大日本帝国海軍所属の中尉であり、忌まわしき"高天原計画"に深く関わっていた人物である。 御上の正体は神代 大和その人なのか、将又《はたまた》神代 大和の名を騙る別人なのか。この機を逃さず確かめるべきだ……御門本家の当主代理を除き、裏御三家の要人たちの意見はほぼ一致していた。 斯くして、裏御三家側は、前世で神代と面識のある清を賓客として、自由保守党の政治資金パーティーへと送り込む決断を下したのである。"日ノ本の裏御三家"……一族の最高傑作と呼ばれる清らかなる少女を、御上という怪物に対抗するための切り札として。 「────」 車から降りると、清はパーティー会場である高級ホテルを見つめて小さく溜め息を吐いた。身に纏う白のカーディガンや濃紺のワンピースの裾が、ハーフアップにセットした長い黒髪と共にゆらゆらと夜風に靡く。 「──行ってきます」 笑顔で手を振って車を見送ると、清はコツコツとパンプスの踵の音を響かせながらホテルの中へと入り、パーティー会場の受付へと向かった。 「──はい。御陵 清さまですね」 チケットを受付の男性に渡す。彼からパーティーの大まかな流れについて書かれた用紙を受け取り、清は礼を述べて会場へと足を
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幕間 第24話 決して交わることのない道

政治資金パーティーという名の、自由保守党の敗残兵の集まり……何処までも惨めなその集会が、何とも重苦しい雰囲気で幕を開けてから、凡そ小一時間が経過した頃。 御陵 清はパーティー会場を抜け、迎えのヘリを要請すると、ホテル屋上にあるヘリポートへと向かった。 ホテルは貸切となっているため、会場を抜けると人の気配はなく、静寂に包まれた廊下に、清の履くパンプスの踵の音のみが虚しく響く。 そのまま真っ直ぐエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押すと、清はぐったりとした様子でエレベーターの壁にもたれ掛かりながら、黒のストッキングに包まれた自身の白い膝頭を見つめて溜め息を吐いた。 顔色は悪く、呼吸は浅い。今にも倒れてしまいそうであったが、彼女は気力で何とか持ち堪えているようだった。 「…………」 パーティー会場に漂っていた、主催者たちの醜い願望や悍ましい悪意を含む澱んだ空気は、清の決して丈夫とは言えない身体を蝕むには、十分過ぎる程に効果があった。 一族の最高傑作と謳われる夢見鳥、御陵 清。御堂本家の当主にして現人神《うつしおみ》、御堂 清治に拮抗する実力と彼を遥かに凌駕するポテンシャルを有している彼女であったが、それ故に消耗が激しく、体質の弱さに悩まされてきた。 特に悪意、敵意、害意に弱く、それらが満ちた空間に長時間身を置くと寿命が削られてしまうという致命的な弱点を抱えていた。たとえ悪意、敵意、害意が自分に向けられたものではなかったとしても消耗してしまう程に、生命体としての彼女は脆く儚い存在であった。 今回の政治資金パーティーも、彼女の体質の弱さを考えたならば本来は兄の宗一、或いは御堂 清治が参加すべきであり、対まつろわぬ神々の切り札たる清を無理に消耗させてまで送り込むべきところではなかった。 そう──本来であれば、だが。 特務機関【敷島】の創設者、日本の政財界を牛耳る御上こと神代 大和。彼の素顔を知るのは、一族の中で清ただ一人であった。そのため、彼女に白羽の矢が立ったのである。 エレベーターが止まり、扉が開く。どうやら、最上階へと辿り着いたようだ。清は覚束ない足取りでエレベーターを出ると、ヘリポートへと続く非常階段を登る。 果たして……彼はそこで待っていた。旧き友人がやって来るのを、今か今か
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幕間 第25話 凶報、二つ

「────」 机の上に置かれた白黒写真を見つめながら、御陵 宗一は東京より帰還した清の応急処置に向かった彼女が執務室に来るのを待っていた。 戦時中に撮られたその写真には、三人の若い男女が写っていた。黒い着流し姿の宗一と、巫女装束の清……そして清とお揃いの格好をした、満開の花を思わせる無邪気な笑顔が可愛らしい少女。 御陵 静《しず》──それが、少女の名だった。清が生まれた三年後に誕生した、宗一とは十五も歳が離れている三兄妹の末っ子。天真爛漫という言葉がよく似合う愛らしい少女であり、類い稀なる人たらしの才能を持っていた。 一族の最高傑作たる清ほどではないにせよ、彼女もまた夢見鳥として高い評価を得ており、特に神々と心を通わせる能力に長けていた。 そう……ちょうど今、鳴神山地に赴いている奏のように。 ──宗一。 不意に、耳許で少女の透き通った声が聞こえ、宗一は写真を見るのを止めてゆっくりと顔を上げた。見ると、扉を音もなくすり抜けて、白の小袖と緋袴の上から純白の打掛を羽織ったアルビノの少女が、正に今、執務室内へと入ってくるところだった。「……来ましたか、我らが御祭神。早川の瀬に坐す姫君」 宗一は少女に対し、丁寧に一礼した。少女もまたそれに応えるように、無表情ながらも軽く会釈をする。 ミコト。清をそのままアルビノにしたような外見の、神秘的な少女。名も力もある強大なる国津神。本来、清と奏以外の者が安直に触れ合ってはならぬ存在。「……清の容態は? 如何でしたか?」 ──今は、安定している。彼女と軽く接吻して、口からその身を蝕む穢れを全て吸い上げたから。衰弱しているけれど、言葉は話せるし、命に別状はない。 声には出さず、唇の動きだけでミコトは律儀に答えた。 実際ミコトの言葉を裏付けるように、彼女の首筋には黒い痣のようなものが浮かび上がっており、時折それが寄生虫のようにうねうねと不気味に蠢いていた。「……命に別状はない、か。良かった……それを聞いて安心しました。あの子の体質の弱さを考えると、下手をすれば命を落とす可能性もありましたから。あの子が生きて帰ってきてくれて、何よりですよ」 特務機関【敷島】の創設者、通称"御上"の正体を知るために必要だったとはいえ、清には辛く苦しい思いをさせてしまった。そのよう
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幕間 第26話 戦友

政治資金パーティーの会場を後にし、某所にある自邸へと舞い戻った御上こと神代 大和は、軽くシャワーを浴びた後、書斎で冷えた麦茶を飲みつつ、先刻の御陵 清とのやり取りをゆったりと思い返していた。 時刻は既に午前一時。秘書の如月も流石に、今は夢の中である。人ならざる者へと変容した神代にとって、睡眠という行為は最早不要。故に彼は、暇さえあれば書斎に篭もり、独り思索に耽る習慣を確立していた。「────」 嘗ての命の恩人である、御陵 清。先刻彼女から、自分たち特務機関【敷島】の方針や最終目標に対して、明確な拒絶の意を示された訳だが、神代は彼女に対し怒りを覚えることはなかった。 御陵 清が自分たちを拒絶したのは、彼女個人の意思ではなく、あくまで裏御三家の代表としての意思である。神代はそのことを鋭敏に察していた。清個人の意思はまた別にあり、それらは自分たちに近しいものであると、彼女とのやり取りを通じて、彼は強く確信していたのである。 如何に強大なる裏御三家とて、決して一枚岩ではない。清のような夢見鳥──人ならざる力を有する選ばれし者もいれば、そうでない力持たざる者もいる。後者が多数を占めているのは、言うまでもないだろう。故に、清たち選ばれし者は、妥協や迎合を余儀なくされる。 その結果……清たちは自らの意思を押し殺し、組織としての意思を示す他なくなる。そう──特務機関【敷島】と敵対し続ける道を選ぶという、持たざる者たちの意思を。「……やはり"高天原計画"は、腐敗した日本を浄化するのに必要不可欠。直に分かりますよ、清さん。貴女たち夢見鳥が自我を殺し、心の奥底に秘めている想い……腐敗した日本国を浄化せねばならないという切なる想いが、間違いなどではなかった……と、ね」 煙草に火を点けながら、神代はニヤリと笑う。裏御三家に拒絶されたからと言って、"高天原計画"を白紙撤回するつもりなど、彼には毛頭なかった。夢見鳥の意思が介在していない、持たざる者たちの下らぬ意思など、彼にしてみれば端から聞くに値しない。「籠の中の鳥で居続けるのにも、流石にもう疲れたでしょう。我々が枷を外し、楽にして差し上げますよ。夢見鳥……誇り高き日本の防人たちよ」 神代が吸い終えた煙草の火を灰皿の上で揉み消し、新しい煙草に火を点けた、ちょうどその
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第三章 第27話 憂鬱な目覚め

どうやら、泣き疲れてそのまま眠ってしまったようです。重い瞼を開くと、私は何度か頭を軽く振り、ゆっくりとソファーから身を起こしました。 左手首に嵌めている腕時計に目をやると、時計の針は凡そ午前四時半頃を指し示していました。鳴神山地周辺の梅雨明け頃、正に今の時期ならば丁度日の出の頃合いです。 「…………」 腕時計で時刻を確認する際、視界に映りこんだものを見て、私は陰鬱な気持ちになりました。 左手の甲に刻まれた、正五芒星状の大きな傷。出血も痛みも特にありませんが、今のように時間を確認しようと腕時計へと視線を向けると、否が応でも視界に入り込み、存在を主張してくるソレは昨夜、星降山の香々星之宮にて星を司る神・天津甕星《アマツミカボシ》によって刻まれたものでした。 「────」 泣きたいと思う反面、泣いたところで今更どうしようもないという諦念もあり、私は左手の甲を見つめたまま小さな溜め息を一つ吐くと、裸足のまま草履を履いてすっと立ち上がりました。 脱がされて床に置かれていた白足袋はどうやら、私が泣き疲れて眠っている間に誰かが洗濯するために持っていってくれたようです。代わりに、タオルに包まれた保冷剤が幾つか、私の足許に置かれていました。私の両足首の内出血を、夜通し金剛さんたちが処置してくれた証です。 お陰で、鈍い痛みこそ感じはするものの、歩行する分には何ら問題はなさそうです。金剛さんたちには、感謝しなければならないでしょう。後でお礼を言わなければ。 疲労とショックで思考能力は平時よりもやや鈍っていましたが、何とか私は今自分が置かれている状況を把握することが出来ました。 その時でした。 「…………?」 烏のけたたましい鳴き声が、私の思考を遮りました。一羽や二羽どころではありません。結構な数の烏たちの鳴き声が、外の方から聞こえてきました。 外の様子を探るべく窓際まで歩を進め、カーテンをほんの少しだけ開けてみます。暗雲に覆われて太陽光が遮られているためか、幸いにも逆光で目をやられることはありませんでした。 私の視線の先には、注連縄が巻かれた、御神木と思しき立派な大木が一本。その枝に無数の烏たちが留まっており、此方を見ながら次々に鳴き声を発していました。 嘴の形状から、どうやらハシブトガラスのようです。私の生まれ故郷や、第二の
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第三章 第28話 洗礼、そして忠告

シャワーと着替えを済ませた私は、ちょうど起床してきたと思しき金剛さんたちと顔を合わせ、一人一人に足首の内出血の処置をして下さったことや、意識を失っている間介抱して下さったことへのお礼を述べ、彼ら一人一人と固く握手を交わしながら、深々と頭を下げて回りました。 そのまま流れで、巫女装束の着替え方を習得し切れていない和さんの着付けを手伝い、皆で談話室にて軽めの朝食を摂りました。 食事中は何故か、各々が今朝に至るまでに経験した怪奇現象の話で盛り上がりました。曰く、和さんは消灯直後に部屋の片隅に浮かぶ生首を見て、周防さんは私と金剛さんが星降山に立ち入っていた頃に巫女装束の女の子を社務所内で目撃し、鈴木さんは入浴中に曇りガラス越しに小さな人影を見たとか。 この神社は実は曰く付きの場所なのではないか、と皆さん疑っていらっしゃる様子でしたが、事情を知る私と金剛さんはそうかもしれない、と言うのみに留めました。 宮司の平坂さんの奥さんと娘さんが、特務機関【敷島】の秋津に殺され、生首だけの状態で神社の鳥居前に見せしめとして置かれていたという痛ましい事件。それを不用意に話す訳にはいきませんでしたから。 朝食を摂り終えた後、私たちは各々歯磨きを済ませ、朝拝が始まるまで神社の敷地内とその周辺を掃除することにしました。 表向き、私と和さんは巫女、金剛さんたちはアルバイトです。平坂さん以外にも禰宜《ねぎ》や巫女長、神主に巫女といった関係者の方もいらっしゃいますので、彼らにだけでも好印象を抱いて貰わねばなりません。 竹箒を手に、私と和さんは神社の鳥居前の落ち葉を掃いて集めながら、目の前を行き交う此岸町の人たちに笑顔で挨拶をします。 時刻は午前七時半──通学中の小学生たちや、自転車に乗った中学生、高校生といった所謂《いわゆる》子供世代の方たちは、見慣れない二人の若い娘が巫女装束を纏って鳥居前を掃除している光景を物珍しそうに見つめながら、元気よく挨拶を返したり、挨拶を返さずとも笑顔で会釈してくれたりします。 閉鎖的且つ排他的と言っても、若者世代は必ずしもそうではないのだと、少し心が温まるのを感じました。 その分、大人世代の反応は冷ややかでした。私と和さんを横目で見やりながら、これ見よがしにひそひそと小さな声で陰口を叩いて、私たちの挨拶には耳を貸しません。無表
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