夜の終わりは、いつも同じ音から始まる。店の裏口の鉄扉が軋んで閉まり、鍵が回り、遠くのネオンの明かりが一段だけ薄くなる。充はその音を背中で聞きながら、肩に残った笑いの熱をゆっくり冷ましていった。仕事のテンションは、皮膚の表面に張り付いた膜みたいに残るのに、身体の芯はもう先に寝たがっている。笑顔の筋肉だけが遅れて動いている感じが、最近増えた。夜風が首筋を撫でる。タバコの煙が服に染みついたままでも、外に出ると少しだけ匂いが薄まる気がする。気がするだけで、消えない。消えないものが増えていくほど、どこに行っても自分の後ろを追いかけてくる。コンビニの明かりがやけに白い。レジ横の揚げ物の匂いに、胃が一瞬だけ反応して、それからすぐ沈黙する。腹は減っているはずなのに、食欲は身体の深いところまで降りてこない。充は水と栄養ドリンクを一本ずつ取り、ついでに湿布も棚から抜いた。いつから湿布を買うのが自然な動作になったのか、思い出そうとしても分からない。分からないのに、手が勝手に知っている。レジ袋の持ち手が指に食い込み、細い痛みが走る。あの程度の痛みなら、今の疲れに混ぜてしまえば消える。消えるのに、わざわざ感じてしまう。感じてしまうのは、身体がもう誤魔化しにくくなっている証拠みたいで、腹が立った。ぼろアパートの外階段は、夜中ほどよく喋る。誰もいないはずなのに、金属の軋みがやけに大きく響いて、歩くたびに自分の重さを知らされる。三階までの段数は変わらない。変わらないのに、途中で息がひとつ余計に必要になる日がある。必要になった息を、充はわざと乱暴に吐いた。丁寧に吐くと、自分が弱っていることを認めるみたいで嫌だった。踊り場で、壁に手をつく。塗装の剥げたコンクリートが冷たい。指先の冷たさが、頭の中を少しだけクリアにする。クリアになったところへ、今日一日の疲れの重さが落ちてくる。重さは、腰のあたりに一番先にたまる。腰を庇うように少し姿勢を変えると、膝が小さく笑った。身体が勝手に音を立てる。そういう瞬間が増えるたび、胸の奥が焦っていく。部屋の前に立つと、鍵束の金属がじゃらりと鳴った。その音を小さくするために指で押さえる。押さえる癖も、もう長い。起こしたくない、というより、顔を合わせたくない。顔を合わせたくな
最終更新日 : 2026-03-23 続きを読む