ホワイトボードの白は、春の光を跳ね返して、やけに目に刺さった。「卒論テーマ提出期限:5月末」青いマーカーで書かれたその一行の下に、赤で太く二重線が引かれている。ゼミ室の前方、プロジェクターのスクリーンを少し持ち上げた隙間から、その文字がくっきりと見えた。前列の方では、何人かがすでにノートを開いて、テーマ候補らしき単語を箇条書きしている。ページをめくる紙の音と、ボールペンの芯をカチ、と出す小さな音が、窓から吹き込む風に混ざって、教室の空気をざわざわと揺らしていた。教卓に寄りかかるようにして立っている教授が、ホワイトボードの前にマーカーを持ったまま、教室をざっと見渡す。「そろそろテーマ固めて来いよ。就活もう終わってるやつも、ロースクール狙うやつも、逃げんなよ」かすれ気味の声に、クスクスと笑いが起きる。「『卒論、司法試験の勉強で忙しかったんで』は、言い訳にならんぞ。両方やれ。両方中途半端にして後悔したやつ、俺何人も見てきたからな」また笑いが広がる。前の方に座っている女子が、隣の友達と顔を見合わせて肩を揺らした。陸斗は、三列目の端、窓際の席でノートを開いていた。手の中のシャープペンシルは、まだ何も書いていないテーマ欄の上を、行く先を迷うようにうろうろしている。「契約法における消費者保護なんかは、例年人気あるな。会社法のガバナンスも、就活するやつには鉄板だ。あと労働法と非正規雇用、とか。最近だと…」教授が列挙するキーワードに合わせて、教室のあちこちでペン先が走る気配がする。黒や青のインクが、真新しいノートの白いページを埋めていく。陸斗も、言われた単語をとりあえず書き出してみる。「契約法」「会社法」「ガバナンス」「労働法」「非正規」文字にしてみると、それぞれがいかにも「役に立ちそう」な顔つきをしているのが分かる。企業法務、知財、国際取引。司法試験予備校のパンフレットでも、何度も見た単語たちだ。ページの右上、教授が指定した「テーマ案」と書かれた欄は、まだ真っ白のまま空いている。そこに書くべき言葉が浮かばない、
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