充は言葉の続きを探すのをやめた。探せば探すほど、喉の奥が砂を噛んだみたいに乾いていく。陸斗の目が、逃げ場のない場所に釘を打ってくる。あの目の前で、慎一の名前を盾にして立ち続けるのは、息が苦しい。息が苦しいのに、息を止めるわけにもいかない。充は視線を外した。段ボールの山の向こう、まだカーテンの付いていない窓の黒い四角がある。外の街灯の光が薄く滲み、ガラスに自分たちの影を映している。床に座った二つの影が、距離だけを誇張して、伸びている。充は立ち上がった。膝が少し軋んだのが自分で分かる。床に残ったコンビニ弁当の匂いが、急に生々しく鼻に刺さる。脂と醤油と、さっきまでの言葉の熱が混ざって、胃のあたりがむかついた。充は口を開く。出す言葉は、逃げでもいい。とにかくこの場を終わらせる。終わらせないと、自分が壊れる。壊れたら、慎一の預かりものとして立っていられなくなる。「……もう寝る」言った瞬間、陸斗の呼吸が少しだけ乱れた。乱れたのは、怒りではない。追いかけたいのに追いかけられない、そういう微細な揺れだ。充はその揺れを見ないふりをして、段ボールの角を避けながら廊下へ向かった。新居の廊下は、まだどこか無臭だった。古いアパートの、湿気と洗剤と油とタバコが混じった匂いがない。匂いがないぶん、音が浮く。自分の足音が、床の板に当たって、すぐに壁に跳ね返る。跳ね返って戻ってくる音が、やけに自分を追いかけてくる。寝室のドアノブは冷たい金属だった。手を掛けると、指先が一瞬だけ迷う。迷う理由は分かっている。ドアを閉めたら、溝ができる。溝を作るのは自分だ。けれど、溝を作らないと、溺れる。充はドアを開けて入り、振り返らないまま閉めた。ドアが閉まる音は、想像よりも重かった。古いアパートの薄い壁なら、音は向こうへ抜けていく。抜けていって、どこかに消える。ここは違う。新しい壁は音を吸わない。吸わないまま、響きを返す。閉めた音が、廊下に残り、廊下からリビングへ伝わり、リビングからまた廊下へ戻ってくるみたいな錯覚があった。自分が作った溝が、反響して増幅されていく。充は背中をドアに預けた。板越しに、向こう側の気配を探ろうとする
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