視聴覚室の時計の針が、九時を少し回っていた。窓の外はすっかり暗くなり、ガラスには中の蛍光灯の光と、自分たちの姿がぼんやり映っている。プロジェクターはすでに切られていて、残っているのは編集用のノートパソコンと、テーブルの上に散らばったメモ数枚だけだった。タイムライン上のバーが、画面の端から端へと行ったり来たりする。片岡がマウスを動かしてカット位置を微調整すると、そのたびに小さなクリック音が鳴る。「……よし、とりあえずここまでで一回書き出すか」片岡が椅子の背もたれに体を預け、ぐっと伸びをした。ポキポキと肩のあたりで音が鳴る。「おつかれ」「お疲れ様です」陸斗も、丸めていた背中を伸ばした。長時間同じ姿勢でいたせいで、腰のあたりが固まったように重い。視線を上げると、ディスプレイの隅に出ている時間が、じわじわと現実感を持って迫ってくる。そろそろ、普通の学生なら家に向かっている時間だろう。食堂もとっくに閉まり、キャンパスの明かりも半分くらいは落とされているはずだ。「腹減ったな」片岡がぽつりと呟いた。お腹の中で鳴ったらしい音が、自分でも聞こえたのか、苦笑している。「なんか食ってく?」「そうですね……」途端に、自分の胃袋が意識に上がってくる。夕方にコンビニおにぎりを一つだけかじったきりだ。頭を使ったあと特有の、空腹なのか疲労なのかよく分からないだるさが、身体の隅々に広がっている。「近くのファミレス、まだやってるよな。終電までは平気でしょ」「多分」「じゃ、行くか。書き出しボタン押しといて、終わったら電源落とせばいいし」あっさり決められて、陸斗は頷いた。今日は充も夜勤で、帰りは遅い。多少食べてから帰った方が、家に着いてからの空腹に悩まされずに済む。パソコンに書き出しのコマンドを入力しながら、ファイル名の末尾に日付をつけ足した。画面上でパーセント表示がゆっくり進んでいくのを確認してから、二人は視聴覚室の電気を半分落とし、鍵を掛けて部屋を出た。夜の
Last Updated : 2026-02-21 Read more