特殊部隊の訓練基地にある病院。そこの最年少外科部長、長谷川美羽(はせがわ みう)は海外帰りの天才だ。その手は数えきれない大手術を成功させてきた、まさに神の手だった。しかし今、彼女の手は、無情にも誰かの足元で踏みにじられていた。それをするのは彼女の夫であり、訓練基地の責任者でもある長谷川竜也(はせがわ たつや)だ。竜也は椅子に静かに腰かけ、きちっとした制服姿で、平然とした顔をしていた。彼の背後にある部屋からは、美羽の妹・二宮紬(にのみや つむぎ)が男たちにベッドへ押し倒される音が聞こえる。助けを求める紬のか細い声が、美羽の心をえぐるように響いていた。「美羽、さっさと楓のお母さんの手術をしろ。さもなければ、今すぐ紬の部屋のドアを開け放ってやる。あいつのみだらな姿を、街中の人たちに見せてやろう」美羽は歯を食いしばり、血走った目で竜也を睨みつけた。「竜也、どうして、私にこんなひどいことをするの?楓が母をひき殺したって、あなたも知ってるでしょ!彼女の母親が脳腫瘍になったなんて、当然の報いよ。それなのに、私に仇の母親の手術をしろって言うの?」1ヶ月前、美羽の母親・二宮凛(にのみや りん)は商店街で買い物をしている最中、舞踊団に所属する中野楓(なかの かえで)の車にはねられて亡くなった。美羽はすぐに彼女を告訴した。しかし、3日と経たずに、身代わりの人物が出頭して罪を認めたのだ。真犯人が罪を逃れるなんて、美羽には到底受け入れられない。高等裁判所に上訴しても繰り返し棄却され、挙句の果てには病院の部長職が解かれ、無期限の停職処分になってしまった。美羽が絶望に打ちひしがれていた矢先、楓の母親・中野遥(なかの はるか)が病に倒れたのだ。腫瘍ができた場所のせいで手術は極めて難しく、N市で執刀できるのは美羽をおいて他にいなかった。その話を聞いた美羽は、即座に断った。殺人犯の母親を手術するなんて、死ぬよりも辛いことだったからだ。だが、その直後、彼女は何者かに拉致され、あるホテルの一室に閉じ込められてしまった。そこに現れた竜也の顔を見て、美羽はすべてを理解した。自分を命がけで愛してくれていると思っていた夫の心には、ずっと別の女性がいたのだ。「美羽、もう時間がないんだ!」竜也の声で、美羽はハッと我に返った。「最後のチャン
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