私は笑いをこらえながら彼に近づき、その手から洗剤のボトルを奪い取った。 「貸して。いい? この洗濯物の量なら、水は四十五リットル。洗剤は、キャップのこの一番上の線の少し下くらい。柔軟剤は、こっちの小さい引き出しに入れるの」 私は一つ一つ、指差し確認をするように教えていく。 湊は、私の手元を食い入るように見つめ、一つ一つの動作を脳内にインプットしているようだった。 「……なるほど。柔軟剤の投入タイミングは、すすぎの工程で自動で処理されるのか。それは及第点だな」 「で、最後にこの『スタート』ボタンを押す。はい、やってみて」 湊は、まるで何か重大な決断を下すかのように、人差し指をピンと伸ばし、慎重に『スタート』ボタンを押し込んだ。 ピーッ、という電子音が鳴り、洗濯機の中に水がジャバジャバと注ぎ込まれる音が響き始める。 続いて、底のパルセーターが回転し、ゴウン、ゴウンと重たいモーター音が狭い脱衣所に響き渡った。 「よし……稼働した」 湊は、蓋の透明なプラスチック越しに、中の水流が渦を巻く様子をじっと見下ろしている。 「……しかし、振動が大きすぎないか? 脱水時の遠心力で、機体が転倒するリスクは?」 「壊れないから大丈夫。ほら、終わるまで四十分くらいかかるから、こっち来て」 私は、洗濯機から離れようとしない湊の腕を引き、無理やりリビングへと連れ戻した。 彼の大きな手は、洗濯機の冷たいプラスチックの感触から一転、私の指先の熱をしっかりと掴み返してきた。 午後四時。 私たちは、マンションから徒歩五分の場所にある、地元密着型のスーパー『ヤオトク』へと向かった。 今日は火曜日。週に一度の、特売日だ。 自動ドアを抜けると、「本日限りの大奉仕!」という威勢の良いアナウンスと、軽快なオリジナルソングが入り混じった、独特の喧騒が鼓膜を打つ。 蛍光灯の白い光に照らされた店内は、夕飯の買い物に来た主婦たちでごった返していた。 湊の右肩には、私が持たせたカーキ色のエコバッグが掛けられている。 シンプルな白いTシャツに黒いパーカーを羽織っただけのラフな格好
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