「私はこれまで、結婚式という一生に一度の極度の緊張感に包まれたお客様に寄り添ってまいりました。不安や痛みは、必ず身体のどこかにサインとして表れます。それを見逃さないのが、私の仕事ですから」 私が真っ直ぐに答えると、マダム・リウはふっと口元を緩め、声を出して笑った。 「ははっ……なるほど。これが、あなたの言う『愛のある空間』の正体ですか、ミスター九龍」 彼女の視線が、湊へと移る。 湊は、私の隣で、誇らしげに、そして深く静かな熱を帯びた瞳で頷いた。 「はい。彼女が、M&Aホールディングスの『A』です。彼女のこの目と、心そのものが……私が何百億という資金を投じても創り出したい、新しいホテルの心臓部です」 湊の迷いのない言葉に、私の顔がカァッと熱くなる。 マダム・リウは、百合根の蒸し物を一口味わい、満足げに目を閉じた。 「……システムや管理は、お金を積めば誰にでも構築できます。ですが、人の心を読む目と、それを自然に行動に移せるホスピタリティは、どんな高度なAIにも、莫大な資本にも生み出すことはできない」 マダムは、テーブルの上で両手を組み、湊を真っ直ぐに見据えた。 「九龍の看板を捨てた理由が、よくわかりました。あなたには、それ以上の価値を持つパートナーがいる。……よろしい」 マダム・リウが、ゆっくりと顎を引いた。 「出資しましょう。あなたの描く、その『愛のあるホテル』の第一号店に。……ただし、彼女の意見を全面的に取り入れることが条件ですよ」 その言葉が個室に響き渡った瞬間、湊の喉仏が大きく上下に動いた。 彼の膝の上で強く握りしめられていた拳が、ゆっくりと解けていく。 「……感謝いたします、マダム・リウ。必ず、ご期待以上のものをお見せします」 湊は、深々と、額がテーブルにつくほど深い角度で頭を下げた。 私もそれに倣い、頭を下げる。 胸の奥から、熱いものが込み上げてくる。 実績も、看板もない私たちが、たった今、巨額の資金調達という奇跡をもぎ取ったのだ。 二人三脚で挑んだ初めての大きな戦いに、完璧な形で勝利した瞬間だった。 ◇
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