私は橘真央(たちばな まお)。高坂恒一(こうさか こういち)と結婚して四年目で、約束どおり離婚届を出した。息子の高坂悠真(こうさか ゆうま)の親権は、高坂家に渡した。私は黙って、それを受け入れた。恒一は口の端を歪めて鼻で笑った。「真央、子どもまで手放して、金しか要らないのか。思った以上に薄情だな」私は聞こえないふりをして書類に目を通し、落ち着いて言った。「悠真に会う権利も放棄する。その分、もう少し上乗せできる?それに、悠真が母親だと思ってるのは私じゃない。三浦里奈(みうら りな)のほうでしょ」私は薄く笑って、固まった恒一を置いて背を向けた――「里奈との式には行かない。どうせ呼ぶ気もなかったでしょ。まあいい。どうせ一生、二度と会わない」金も手に入れた。離婚の手続きも終わった。SIMカードを捨て、キャッシュカードと身分証明書だけを持って、私はひとり、白見原行きの便に乗った。今いる街から辿れる限り、最も遠い場所へ。出発前、執事からメッセージが届いた。坊ちゃんがずっと泣いていて、ママに会いたがっている、と。私は一瞬だけ指が止まり、そのまま返信した――【里奈に連絡して。あの子が父親と一緒に、「母親」だと決めたのは里奈だから】送信して画面を閉じ、そのまま電源を切った。悠真には、好きなママがいる。でも、それは産みの母である私じゃない。四年育てたのに、まるで敵を育ててしまったみたいだった。レシピを漁って栄養まで考えたご飯を作っても、「里奈さんが買ってくれるケンタッキーのほうがうまい」と言われた。運動のレッスンを入れて、何か一つでも趣味を持たせようとすれば、ゲーム機を抱えたままわんわん泣いて、「里奈さんは一緒にゲームしてくれる」と駄々をこねた。宿題を一文字も書かないから、堪えきれず、私は手のひらを二度叩いた。悠真は私を睨みつけて言った――「里奈さんのほうがずっといい!ママはぜんぜん優しくない!みんな言ってる。ママは金目当てでパパと結婚したんだって!そんな女、ママになってほしくない!」三日前も、里奈が渡したゲーム機を取り上げて、宿題をやりなさいと言ったときのことだ。悠真は警戒した目で私を見て、こう聞いた。「もしママが死んだら、里奈さんを新しいママにしていい?」子どもらしい発想だ。私が死な
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