漆黒で冷え切ったリビングルームで、高坂遥香(こうさか はるか)はソファに身を縮めていた。真正面のテレビ画面には、かつての結婚式の映像が流れている。純白のウェディングドレスをまとい、背伸びをして新郎の伊織玲司(いおり れいじ)に口づける遥香。当時、彼女は二十四歳だった。会場は賓客であふれ、祝福の声が途切れることはなかった。だが、目の前に立つその美青年は、終始、感情の波一つ見せなかった。時が経つのは早い。気づけば、また二人の七周年の結婚記念日が巡ってきている。遥香はふと視線をずらし、少し離れた場所にある仏壇を見やった。壇上の灯明が放つほのかな光が、遺影の中の玲司の面差しをくっきりと照らし出している。記憶の中と寸分違わぬその姿。玲司は、いつもこうだった。結婚した時でさえ、感情らしい感情を表に出すことはなかった。遥香は黙って三本目の煙草に火を点けた。しかし一口も吸わないまま、ぼんやりと灰皿の上でゆっくりと燃え尽き、消えていくのを見つめていた。一年になる。玲司がこの世を去って、ちょうど一年。かつて執着するほど大切に祝っていた結婚記念日は、今や玲司の命日に塗り替えられていた。うつむいたまま、遥香は自嘲気味に笑う。テレビの中では、結婚式の映像も終盤に差しかかっていた。遥香は手を伸ばしてリモコンを掴み、何度も繰り返し見たこの映像を消そうとする。その瞬間、賑やかな音楽は突如としてざらついたノイズにかき消され、続いて、聞き慣れない、酒に酔った男の声が響いた。「……お前が『死んだふり』をして姿をくらましてから、もうすぐ一年だな。どうだ?本当に、後悔は一切ないのか?噂じゃ、高坂家の令嬢はいまだに引きこもって、お前のことを悼みながら暮らしているそうだが」リモコンを握る遥香の手が、宙で凍りついた。まるで時間そのものが、この瞬間に封じ込められたかのようだった。遥香の瞳がわずかに動き、無意識のうちに画面右下の記録日時を追う。そして、この音声が一年前のものではなく、昨日のものだと悟った。しばらく無音が続き、衣擦れの微かな音がしたあと、遥香にとってあまりにも馴染み深く、骨の髄にまで刻み込まれた男の声が、ついに流れ出した。ただしそれは、記憶の中よりもずっと弛緩しており、隠す気もない倦怠を帯びていた。「後悔?」玲司
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