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第6話

Author: 時庭夕夏
父の会社に問題が起きてからというもの、遥香は母と弟にめったに会えなくなった。

あの突然の事故さえなければ、遥香が一夜にして、かけがえのない二人の家族を失うことなどなかったはずだ。

ましてや、父に隠し子がいたなど、知る由もなかった。

そして今、その隠し子は、彼女の父を、人生を、そのすべてを奪っただけでは飽き足らず、夫までも連れ去った。挙げ句の果てには、たった一人の弟にまで危害を加えようとしている。

だが、どれほど怒ったところで、何になるというのか。

遥香にできることは、ただ卑屈に雨音に懇願することだけだった。相手の慈悲にすがり、弟を見逃してもらえるよう祈るしかない。

自分は、世界で一番役立たずな姉だ。

両親を守れず、自分自身も守れず、今では、たった一人残された家族さえ守れない。

遥香は雨音に向かって、何度も何度も頭を地面に打ち付けた。

やがて視界が真っ赤に染まり、額が血にまみれた頃、ついに力尽き、玲司の足元へとばったり倒れ込んだ。

朦朧とする意識の中で、その男がわずかに眉をひそめるのが見えた。

「雨音……」

「お姉さん」雨音は玲司の言葉を遮るように口を開いた。「智哉を見逃してほしければ、一つ約束して」

「……何なりと」

「三日後、私と玲司の結婚式があるの。智哉と一緒に式に来て、私たちを祝福してくれたら……智哉のしたことは、水に流してあげる」

「……わかりました」

遥香は拳を固く握りしめ、痛みをこらえ、歯を食いしばって頷いた。

……

雨音と玲司の盛大な結婚式は、P市で最も大きな教会にて、華々しく執り行われた。

多くの著名人が招待されていたが、メディア関係者は一切排除されていた。

遥香は地味なワンピースに身を包み、智哉を連れて、この幸福で壮大な式を、ただ静かに見守っていた。

雨音と玲司が牧師の前に立ち、神聖な誓いの言葉を交わすのを見ていた。

玲司が片膝をつき、雨音の指に指輪を通すのを見ていた。

二人が神の見守る中で口づけを交わす、その瞬間を見ていた。

……本当に、よかった。

玲司は、ついに心から愛する人と結婚するのだ。

今回の結婚式で見せる彼の表情は、かつての無感動なものではなく――

柔らかな笑みに満ちていた。

ふと、手の甲に温かいものが落ちてきた。

ポタッと。

涙だった。

録音の中の会話が脳裏をよぎり、遥香の心臓が、また一瞬、鋭く痛んだ。

賓客で埋め尽くされた教会の中で、誰もが新郎新婦に祝福の言葉を贈っている。

遥香はしばらく黙っていたが、やがて一歩、前へと進み出た。

「雨音……玲司。おめでとうございます。末永く、お幸せに……いつまでも」

「きゃあああーっ!」

甲高い悲鳴が、和やかな空気を一瞬にして切り裂いた。

耳をつんざく叫びに続き、教会の中に黒い煙が立ち上る。

式に参列していた人々は、目の前の異変に怯え、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

そして、遥香とずっと手を繋いでいた智哉も、混乱する人波の中で、一瞬にして引き離されてしまう。

「智哉!智哉!?」

遥香は必死に名を叫んだが、出口へとなだれ込む狂乱の波が、逆らう彼女を無情にも外へ押し流していく。

「智哉、とも……」

パン、パン、パンパンパンッ――!

突然、くぐもった銃声が教会内に響き渡った。

その瞬間、時が止まったかのように感じられた。

「……ねえ……さん」

智哉の体が、遥香の目の前で崩れ落ちた。その背後には、おろおろと狼狽える雨音の姿があった。

「全員、その場で遮蔽物を探して伏せろ!」

玲司の怒鳴り声が響いたが、遥香には、そんな指示に従う余裕などなかった。

ありえない……

どうして、智哉が撃たれなければならないの?

どうして、智哉なの!?

遥香は虚ろな目で智哉のもとへ駆け寄った。

だが、すでに血に染まったその手では、彼の体に穿たれた、血が止めどなく溢れ出す穴を、どうしても塞ぐことができなかった。

周囲の喧騒は、いつの間にか遠のき、静まり返っていた。

はっと顔を上げた遥香の視界に、雨音をなだめる玲司の姿が飛び込んでくる。

「玲司!玲司――!」

遥香は、必死にその名を叫んだ。

「智哉を助けて!早く……人を呼んで、助けてあげてよ!!」

涙に覆われた視界の中で、彼女の目に映ったのは、無表情で立ち尽くす、冷え切った人影だけだった。

「お前は、俺と雨音の幸せを、その目で見ただろう」

玲司の声が、不意に遥香の頭上から降り注ぐ。

「俺と雨音は両想いだ。お前さえいなければ……七年前、とっくに雨音と結婚できていたんだ。

遥香、さっさと諦めて、弟を連れて国へ帰れ。俺と雨音の人生に、二度と関わるな……できるだけ遠くへ消えてくれ」

その瞬間、遥香の全身を血の気が引き、凍りついた。

それでも彼女は、気丈に顔を上げる。

「玲司、私は見たわ。雨音が智哉を引っ張って、自分の盾にしたのを!

智哉は重傷で、むやみに動かせないの。私のパスポートも雨音に奪われた。今、医者を呼べるのは……あなたしかいないのよ!」

遥香は、泣き崩れるように叫んだ。

「遥香……いつまで、俺を騙し続けるつもりだ?」

玲司の声には、隠そうともしない嫌悪が、はっきりと滲んでいた。
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