寧々は上体を起こし、首だけで絵里をちらりと見た。何も言わないまま、今度は艶めいた身体をもう一度かがめ、和也の頬へ息を吹きかける。「和也、絵里……あなたが命の恩人じゃないって、気づいちゃったみたい。どうする?」和也は意識が朦朧としていた。だがその言葉だけには、過剰なほど反応した。「ありえない……あいつが……気づくはずがない……十年だぞ。十年も気づかなかったんだ……俺が成りすましてたなんて、わかるはずが……」声は荒くなったが、意識が戻ったのはほんの数秒。すぐ薬に呑まれ、意識はまた沈んでいく。身体は焼けつくように熱く、炉の中で炙られているみたいだった。寧々の指が頬を撫でる。ひやりとした感触が、火照った胸の奥へ沁み込み、和也は堪らなくなる。彼はその手をがしっと掴んだ。「絵里……行くな。俺と…しよう……俺が命の恩人じゃなくても……俺、俺だって……ちゃんとお前に……」絵里は目を見開いた。頭から冷水をぶちまけられたみたいに、全身が一気に冷え切る。彼は、本当に。あの時、助けてくれた人じゃない。じゃあ、助けてくれたのは……いったい誰?我に返った絵里は、すぐさま詰め寄った。「どうして成りすましたの?あなたが救ったんじゃないなら、どうして私を騙したの?」絵里は昂ぶったまま、和也の襟元を掴んで揺さぶる。「私を助けたのは誰?誰なの!」和也は揺さぶられて、さらに眩暈を深くした。夢か現実かも判然としない。苦しげに眉根を寄せ、呻く。「誰……?誰が助けた……?それは……」「絵里、離してあげて。今、どれだけ苦しそうか見えないの?」寧々は、肝心な言葉を聞かれるのを恐れていた。慌てて割って入り、和也の掠れた声を強引にかき消す。絵里の目は真っ赤だった。滅多に見せない怒りが剥き出しになる。「確かめたいの。あの時、私を助けたのが誰なのか!」「もうわかったでしょ。和也は命の恩人じゃない。それで十分じゃない」寧々は立ち上がって絵里の前に立ちはだかり、苛立ちをぶつけた。「それに見なさいよ、今の状態で答えられると思うの?」「どいて」絵里はただ、答えが欲しかった。十年前、自分を救った人の名を。寧々を突き飛ばし、なおも和也へ食らいつく。「言って。助けたのは誰?答えてよ!」「……」絵里の
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