「……被告人を、無期懲役に処する」裁判官の宣告が、鼓膜を震わせた。ブーン、と耳鳴りがする。深水心愛(しみず ここあ)の体がぐらりと揺らぎ、危うくその場に崩れ落ちそうになった。無期懲役……そんな……深水俊輔(しみず しゅんすけ)は、自分がずっと見守り、手ずから育ててきた弟なのだ。あの子が人を殺めるなど、あり得るはずがない!開廷前、桐生貴臣(きりゅう たかおみ)は何と言ったっけ?「わがままはよせ、心愛」眉をひそめ、苛立ちを隠そうともせず、彼はそう言った。「葵は海外から戻ったばかりで、専攻は法学だ。これは、彼女が帰国後に名を上げるための初陣だ。勝てば今後のキャリアにも箔がつく。お前の弟の弁護は、葵に任せておけば間違いない」弟の命運を、明石葵(あかし あおい)などに託してたまるものか。心愛は、即座に反論した。「貴臣、これは弟の命がかかっているのよ!葵が経歴に箔をつけるための踏み台じゃないわ」しかし、彼は聞く耳を持たなかった。その眼差しは次第に冷え、脅しにも似た色が浮かんだ。「だからこそ、葵に任せるんだ。お前はただ、俺を信じていればいい」――俺を信じろ、と。心愛は、そんな彼の言葉を受け入れてしまった。だが、その結果がこれだ。法廷での葵は、冒頭陳述を読み上げたきり、その後は俊輔のために弁護らしい弁護をほとんどしなかった。宇佐美紘(うさみ ひろし)側の弁護士が提示した証拠に対し、葵は反論するどころか、あろうことか相手の主張を認めるかのような素振りさえ見せたのだ。紘のたった数言の告発に対しても、葵は異議さえ申し立てなかった。そして、俊輔が無期懲役を宣告されるのを、ただ黙って見ているだけだった。それも当然だ。俊輔は葵の弟ではない。自分の弟なのだから、彼女が同じ痛みを感じるはずもない。心愛は、よろめきながら法廷を出た。廊下の冷気が肺を刺し、激しい咳が込み上げる。前方に、二つの人影が見えた。葵が貴臣に寄り添い、肩を細かく震わせ、涙をぼろぼろと零して泣き崩れている。「貴臣、ごめんなさい……私、本当に精一杯やったの。でも相手側の証拠の連なりが……あまりにも完璧で、どこにもつけ入る隙がなかった。もしかしたら……俊輔くんは、本当に有罪なんじゃないかって……」「もういい。お前のせいじゃない」
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