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第3話

Author: 炭酸が抜けたコーラ
心愛は古い町並みに戻り、通りを何度も行き来しながら文子の姿を探し続けた。

どれほど時間が経っただろうか。社長補佐の隆から電話が入った。

「街の監視カメラはすべて故障しており、文子様の行方は確認できません」

その冷ややかな口調は、貴臣と驚くほどよく似ていた。夜中まで人探しに駆り出されていることへの不満が滲んでいるのだろう。

心愛は再び文子のスマートフォンに電話をかけた。呼び出し音が虚しく鳴り続けるだけで、誰も出ない。その単調なコール音が、不安をいっそう掻き立てた。

やがて空が白みはじめ、あたりがぼんやりと明るくなってきた。

心愛は警察に通報する決意を固め、タクシーを拾って警察署へ向かった。文子の特徴を説明すると、警察官は「ついさっき、裁判所の前で高齢の女性が倒れたという通報がありました。あなたのお祖母さまかもしれません」と告げた。

心愛の胸がひやりと冷えた。文子が俊輔のことを知って家を飛び出したことが脳裏によみがえる。俊輔に判決が下されたのは昨日。倒れた老人が文子である可能性は、あまりにも高かった。

パトカーがサイレンを鳴らしながら裁判所の前に滑り込むと、心愛はすぐにそれを目にした。

文子が、そこにうずくまっていた。白髪交じりの頭部には痛々しい裂傷があり、周囲に広がった血だまりはすでに暗赤色に凝固している。

心愛はよろめきながら駆け寄り、勢い余って膝を地面に強く打ちつけた。血と埃に汚れた文子の顔を見た瞬間、指先が小刻みに震えだす。

「救急車……早く、救急車を呼んで!」

心愛は振り返り、震える手でバッグからスマートフォンを探し出し、119番にかけようとした。

その様子を見た警察官が、二人を病院まで送ると申し出てくれた。心愛は文子の手を強く握りしめながら、何度も頭を下げた。

……

市立中央病院。

救急処置室の赤いランプが灯っている。心愛は文子の血が服に付着したままだったが、休む間もなく会計窓口へ向かわなければならなかった。

廊下の向こうにある高級病室では、葵が鏡に向かい、不満げに唇を尖らせていた。

「先生、まだ頭がふらふらするし、胸も苦しいんです」回診に来た医師に、甘えるような声で訴える。「もう少し入院して様子を見させてください。貴臣も、後遺症が残らないか心配してくれてるんです」

医師はやれやれという様子で頷き、病室を後にした。

葵は得意げに鼻を鳴らし、ベッドに横になろうとした、その時だった。視界の端に、見覚えのある人影がドアの外をさっと横切った。

――心愛?

なんであいつがここに?しかも、あんなみすぼらしい格好で。

葵は何かを思いついたようにスマートフォンを取り上げ、すぐに貴臣へ電話をかけた。か弱い声を作る。「貴臣、今ね……心愛さんを見かけた気がするの。この病室の前で。心愛さん……やっぱり俊輔くんのことで、まだ私のことを恨んでるのかしら……?」

受話器の向こうで数秒の沈黙が流れ、やがて宥めるような声が返ってきた。「心配するな。今からそっちへ行く」

ほどなくして病院に到着した貴臣は、会計窓口で魂が抜けたように立ち尽くす心愛の姿を見つけた。眉間に深い皺を刻み、人を寄せつけぬ冷たい気配をまといながら、大股で近づく。

「心愛、また何を企んでいる。病院までつけてくるとはな」

氷のように冷たい声が、心愛の耳に突き刺さった。

心愛がゆっくり顔を上げると、目は赤く充血していた。

その悲痛な表情を見ても、貴臣の胸に憐れみは一切湧かなかった。どうせまた同情を引くための芝居だろう――そう思うだけだった。

「警告しておく。葵に近づくな」

彼は心愛の前に立ちはだかる。

「俊輔は殺人犯だ。証拠は揃っている。葵は善意で弁護を引き受けたのに、逆に面倒に巻き込まれた。これ以上、お前は何をするつもりだ?」

そして見下ろすように、反論を許さぬ口調で言い放った。

「今すぐ葵に謝罪しろ。そして、ネット上のデマを払拭するための謝罪動画を公開するんだ」

心愛は、悪趣味な冗談でも聞かされたかのような気分になった。視線は貴臣の肩越しに立つ葵を捉え、胸の奥に鈍い痛みが広がる。

「謝らないわ」声は小さいが、はっきりとしていた。「俊輔は無実よ。貴臣、私が必ず証拠を見つける。そして、あの子の無実を証明してみせる」

貴臣の表情が一瞬で険しくなる。

この期に及んで、まだそんな口を利くとは思わなかった。

「身の程知らずが」

冷たく吐き捨てると、彼は葵の方へ向き直り、二度と心愛に視線を向けなかった。

心愛はその場に立ち尽くした。鼻を突く消毒液の匂いに吐き気を覚える。深く息を吸い込み、弟が事件に巻き込まれたバーへもう一度行かなければ、と心を決めた。

証拠映像が欲しい。俊輔を陥れた人間を、必ず見つけ出さなければならない。

支払いを済ませて救急処置室の前に戻ると、ほどなく医師が文子をストレッチャーに乗せて出てきた。一時的に容体は安定していること、そして高齢のため、これ以上の精神的衝撃には耐えられないだろうと告げられる。

心愛は文子を病室へ移し、付き添いの看護師を手配すると、すぐにバーへ向かった。

だが店主は、事件のあった数日間の防犯カメラは故障していて映像は残っていないの一点張りで、調べても無駄だと言い切った。心愛がどれほど懇願しても、うんざりした様子で手を振るばかりで、ついには警備員を呼んで心愛を追い出した。

心愛は疲れ切った体を引きずり、病院へ戻った。

祖母の病室の前に立ち、ドアノブに手をかけた瞬間、ドアが半開きになっていることに気づく。

押し開けると、中はもぬけの殻だった。

ベッドの布団は、まるで誰も横になっていなかったかのように、きれいに整えられている。

心愛の心臓がどくんと鳴った。彼女はナースステーションへ駆け寄り、看護師を捕まえて必死に問いかけた。「この病室の患者さんは?さっき救急処置室から出てきたおばあさんです!」

看護師は記録を確認し、事務的に答えた。「ああ、その方なら、ご家族が転院手続きをされましたよ」

「家族……?」心愛は呆然とする。「どなたですか?」

「桐生と名乗る男性です。患者さんのお孫さんのご主人だとおっしゃって、すべての手続きを済まされました」

桐生貴臣。

その名が、焼けた針のように心臓へ突き刺さった。

心愛はすべてを悟った。

踵を返し、狂ったように葵の病室へ走り、ドアを勢いよく開け放つ。

病室では、葵がベッドにもたれ、貴臣がその傍らの椅子に腰掛けていた。果物ナイフを手に、葵のためにリンゴを剥いている。皮は一本の長い紐のように、途切れることなく落ちていく。

大きな物音に、彼の手がぴたりと止まった。冷たい視線が、ドア口に立つ心愛へ向けられる。

心愛の両目は真っ赤に染まり、声は歯の隙間から絞り出された。「おばあちゃんはどこ……!私のおばあちゃんをどこへやったの!」

貴臣はすぐには答えなかった。

ゆっくりとリンゴを切り分け、爪楊枝に刺して葵の口元へ運ぶ。

葵は得意げに心愛を一瞥し、口を開けてそれを受け取った。

すべてを終えてから、貴臣はナイフを置き、ナプキンで手を拭うと、ゆっくり立ち上がった。

歩み寄り、その長身で心愛を影の中に包み込む。

「知りたいか?」薄い唇から落ちた言葉は、真冬の氷よりも冷たかった。「説明動画を撮れ。葵の潔白を証明しろ。俺が満足したら、お前の祖母がどこにいるか教えてやる」

文子を人質に取り、彼女に葵に頭を下げさせようとしているのだ。

心愛の体が激しく震えだした。怒りと、憎しみで。

三年間愛した男の顔が、今はただの獰猛な他人にしか見えない。

爪が掌に深く食い込み、走る痛みだけが、かろうじて理性をつなぎ止めていた。

貴臣の目に浮かぶ隠しもしない軽蔑と、その背後で葵が浮かべる勝ち誇った微笑みが、はっきりと映る。

長い沈黙の後。

心愛は顔を上げ、貴臣の冷たい視線を真正面から受け止めた。喉の奥に血の味が広がる。

歯を食いしばり、一言一言を叩きつけるように言った。

「……いいわ!」

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