翌日15時。 昴は約束通りマンションの前に現れた。冬の陽光を弾く漆黒のリムジンのドアが静かに開き、白い手袋をした運転手が恭しく頭を下げる。車体の艶めいた曲線が、昨日までの真琴の陰鬱な日常を嘲笑うほど非日常へ誘っていた。 昴は微笑みながら真琴の前に立った。 成熟した余裕のある微笑みだったが、傷ついた人間を包む温度があった。 真琴は昴に腕を預け、ドレスショップへ向かった。そこで彼は言葉通り、豪華なドレスにアクセサリーを買ってくれた。深い紺と雪の白を織り込んだドレスは、真琴自身の光と影を象徴するようにドラマチックで、切なくも気高かった。鏡に映る自分は、昨日の泣き腫らした女性と同一人物とは思えないほど別人だった。 その後、美容室で髪が整えられ、香水がそっと肌に纏わされる。準備は「着飾る」行為ではなく、「武装」の儀式に近かった。失恋という戦場から出てきた女が、新たな戦場で笑うための支度だった。 そして再びリムジンへ。 最上階の会場へ向かう車窓に、宝石のような東京の夜景が流れていく。真琴は感情を押し殺していたはずなのに、ネオンが川のように走るたび、心の傷跡が別の光で上書きされていく錯覚を覚えた。 「オーロラ・エンタテインメント・ホールディングス」のクリスマスパーティーの会場は、豪華絢爛だった。 ホテル最上階に降り立った瞬間、空気は甘く、熱く、眩しかった。天井の高いホールには、無数のガラスオーナメントが照明を散らし、まるで星屑を人工的に再現したかのように輝いていた。照明はあえて光度を落とされ、濃い青の影がホール全体を覆っている。そこに金と白の光だけがスポットのように浮かび、現実よりも鮮やかな「祭り」の舞台を作り上げていた。 場所が街の一番豪華なホテルの最上階という事実が、まず幻想だった。 窓一面の夜景は、街そのものが祝祭のために光を灯しているように見える。眼下に広がるビル群の灯は、雪の代わりに降る光の粒。失恋の涙で濡れた真琴の視界に、それは優しい幻の炎となって揺れていた。 会場中央には特大のクリスマスツリー。濃緑の枝に散りばめられた光が、真琴の心の内側で微かに鳴動した。ツリーの下には、装飾用ではない存在感を放つ、プレゼントの山。中身が入っているのかどうかなど誰にもわからないはずなのに、確かな重みが感じられた。未来の可能性が「箱」という形を持ってそこにある
Last Updated : 2026-02-05 Read more