オーロラ社の大会議室の扉が開いた瞬間、空気の密度が一気に軽くなった。長時間の企画会議特有の緊張感と集中の糸がほどけ、参加者たちが一斉に息をつくあの瞬間だ。その開放感を皮切りに、アークライト・コミュニケーションズの若手たちは急に色づき始めた。「SNSの第一報、ティザーは30秒に収めたいですよね!」「いや、むしろ15秒で刺した方が拡散しません?」「会場のオーロラ演出を見せないで“匂わせ”だけの方が期待値上がりますよ!」口々にアイデアが飛び交う。ホワイトボードもないのに、空中に図が描かれているような勢い。初めての大きなイベントに携わる者もいる。彼らの瞳は驚くほど明るい。それは“仕事が好き”というより、“この規模の仕事に自分の名前を刻める”という手応えの光だった。真琴はその輪を少し離れた位置から眺め、フッと笑った。そう、この高揚感がこの仕事のいいところだった。頭の中に、かつての自分の姿がスライドのように浮かぶ。会議が終わった瞬間から、終電ギリギリまでファミレスに居座り、カフェラテ片手にネオンを見上げながらコピー案を練り、上司の目を盗んで企画書を“もっとヤバい方向”に書き直し、「絶対採用されるって!」「それ言うのもう10回目!」と笑いながら戦った同僚たち。あの頃の自分も、怖いもの知らずで、アイデアの速度だけで生きていた。企画の善し悪しよりも、言い切る勢いが企画の価値を作ると信じていた。無鉄砲だったが、間違いなくあの瞬間の自分は“強かった”。そんな思い出に浸っていたが、ふと我に返り、真琴は資料を小脇に抱え直した。「今日は直帰。明日の朝イチに会議よ」声のトーンはいつもと同じはずなのに、どこか温度があった。若手たちは返事をしたのかしてないのかも分からないほど喋り続けている。皆、まだ自分の思いついたアイデアについて喋りながら、会場を出ようとしていた。真琴も資料を持って歩いて行く。しかし出口の前に、見慣れたシルエットがあった。大崎慎也が腕を組んで立っていた。廊下の照明を背にしているのに、妙に存在感だけがくっきり浮かんで見える。現場で叩き上げた企画屋特有の“黙ってても何か仕掛けてきそうな空気”を纏っている。「真琴、直帰か?」「うん」その一文字に、互いの距離の近さが滲んだ。ビジネス上の関係だけならもっと説明的な返答になるはず
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