乾杯の音が店内に広がる中、真琴はグラスを口に運ぶことなく、そっとテーブルに戻した。 胸の奥がざわついて仕方がない。 ここにいること自体が、もう限界だった。「すみません、少し外します」 そう言って立ち上がる声は、驚くほど落ち着いていた。 誰の顔も見ない。 慎一の方も、見ない。 慎一は、その背中を見てはっきりとわかった。 ――拒絶だ。「真琴」 名を呼びかけるが、真琴は振り返らない。 そのまま、店の出口へ向かって歩いていく。 慎一が追いかけようとした、その瞬間だった。「先生!!」 茜が、袖を掴んだ。「行かない方がいいと思います」 慎一は、はっとして茜を見る。「今の真琴、先生に話しかけられたくない顔してましたよ?」 その言い方に、慎一の眉がわずかに寄る。「それに……」 茜は一歩近づき、声を落とした。「私と一緒に来たの、あれ、真琴に誤解されてますよね」 まるで、確信しているかのような口調だった。「誤解なら、このままにしておいた方が楽じゃないですか?」 慎一の中で、何かが音を立てて崩れた。「……違う」 低く、はっきりとした声。 茜は一瞬、言葉を失う。「先生?」「オレは、真琴に誤解されたままでいいなんて思ってない」 それは、これまで一度も口にしなかった本音だった。 茜の手を、慎一はそっと、しかし確実に外す。「今日は、もう帰ります」 茜の目が見開かれる。 拒絶されたことを、はっきりと理解した表情だった。 慎一はそれ以上何も言わず、店の外へと走り出した。 夜風が、頬を打つ。 通りの向こうに、真琴の背中が見えた。「真琴!」 思わず、声を張り上げる。 真琴は足を止めた。 だが、すぐには振り返らない。 慎一は息を切らしながら、距離を詰める。「……話をさせてくれ」 真琴は、ゆっくりと振り返った。「なにを?」 静かな声。 感情を抑え込んだ、その響きが胸に刺さる。「さっきのは違う。オレは、自分の意思であそこに行ったわけじゃない」「見てたよ」 真琴は短く言った。「茜と一緒に来た。それが、私の見た事実」 慎一は一瞬、言葉に詰まる。 だが、もう逃げないと決めていた。「オレが一緒に居たいのは、真琴だ」 夜の空気が、凍りつく。 真琴の目が、わずかに揺れた。「……そんな
最終更新日 : 2026-01-26 続きを読む