翌日。アークライト・コミュニケーションズのオフィスは、年末特有の浮ついた空気で満ちていた。出社した社員たちは普段よりも数段テンションが高く、デスクには小さなミニツリーや赤いリボン、雪を模したオブジェなどが飾られ、季節感が容赦なく仕事場に侵入している。朝のコーヒーの香りすら、どこかシナモンやチョコレートの甘さを連想させるほど錯覚を誘う。真琴がエントランスを抜け、オフィスへ足を踏み入れた瞬間、待ち構えていたように質問の集中砲火が始まった。「昨日はどこへ行ったんですか?」「天ケ瀬社長は何でチーフだけ誘ったんですか?」「ホントに仕事の用事だけ?」「告られちゃったとか……?」声の主は一人ではない。四方八方から矢のように飛んでくる言葉は、好奇心という名の追跡弾だ。悪意はない。だが逃げ場もない。真琴は上着をロッカーにしまう間もなく、質問の波に飲まれていた。口を開けば全部が事実になる。そう本能が警告している。だから、あえて何も答えない。沈黙は肯定にも否定にもなる万能の盾だ。すると社員の一人が、ふと思い出したように声を上げた。「そういえば、今度の週末、チーフのお誕生日ですよね?」その一言は導火線だった。即座に火花が散る。「え!?じゃあ、天ケ瀬社長と約束が!?」「クリスマスも一緒に祝えちゃうじゃないですか!!羨ましい……」一人が言えば、全員が妄想を増幅する。会議室よりも結束力が高い。真琴はその連帯感に思わず苦笑した。慌てて否定する気持ちも、どこか楽しんでしまっている自分もいる。だが真琴は肩をすくめ、きっぱりと言った。「天ケ瀬社長とは何でもないわ。」すると、落胆のため息がオフィスに薄く積もる。だがすぐに温度は戻る。「チーフ、私たちがお祝いしましょうか?」真琴は笑った。仕事の世界では「祝う・祝われる」の循環が減っていく。だが仲間の申し出は素直に嬉しい。だが誕生日は自分のためだけのページではない。慎一との“先約”が既に栞のように挟まっている。「誕生日は他に約束があるの」そう言った途端、再び爆発。「まさか本命ですか!? 二重で羨ましい!!」照れた顔で真琴は足早に歩き出し、いつもの仕事モードの声を作って言い放った。「もう!仕事するわよ!」号令というより照れ隠し。社員たちも笑いながら散っていく。戦場の後の撤収は早い。質問よりも早い。しかし
Last Updated : 2026-02-02 Read more