スポンサー側からの「アークライト社に不安材料がある」という声は、想像以上の速度で広がっていた。フェス運営の信頼に関わる噂は、関係企業の会議や電話の端々に混ざり込み、ついに天ヶ瀬昴の耳にも届いた。年始特有のゆるんだ空気は、いつの間にかピリついた危機管理の空気へと変わっている。 昴は動いた。即座に、迷いなく、躊躇なく。 アークライト社の役員の一人を、オーロラ社ビルへ呼び出し、応接会議室の中央席に座らせた。座らせたというより、招かれた側が“尋問席”に案内されたような構図だった。「その、城里茜という社員は、どういった仕事を担当しているのですか?」 昴の声は冷静だった。感情ではなく論理で切り込む声。だがその静けさの奥に、会社を守る男の剣のような鋭さが潜んでいる。 オーロラ社の役員はハンカチを取り出し、額とこめかみの汗を拭った。スーツの襟元もわずかに湿っている。暖房のせいではない。精神の圧力だ。「御社の仕事には関わっておりません。城里は主に、『黒川アルアセットグループ』の担当をしております」「なるほど」 昴は腕を組んだ。指先を軽くトントンと叩きながら、目線を落とさず役員を射抜く。「ではなぜ、弊社の妨害行為を行っているのですか?」 その問いに、役員の喉がわずかに鳴った。答えられない。昴はその沈黙すら“確認済みの証言”として扱い、さらに踏み込む。「今回のフェスは、社の娯楽案件ではない。業界全体の信頼で動くプロジェクトです。社員一人の暴走で揺らいでいい規模じゃない」 役員が口を開く前に、昴は言葉を重ねた。「機密草稿のリーク、クレーム誘発、匿名メモでの疑念拡散――すべてこちらは把握しています。しかもあなた方の社内から発信された形に偽装されている。証拠の残し方が巧妙すぎる。個人の犯行で片付けるには、社内管理の穴が大きすぎる」 役員はさらに汗を拭く。拭っても拭っても出る。 昴は敢えて断定した。「弊社への妨害行為です」 空気が凍る。「断定されると…その…困りますが」「困るのは我々です!」 昴は声量を上げた。机に両手をつき、立ち上がるでも怒鳴るでもなく、“相手の退路を奪う低い強さ”で押し込む。「あなた方が困るかどうかではない。プロジェクトが困っている。スポンサー企業が困惑し始めている。現場スタッフの秋山チーフが誹謗中傷の標的になっている。あなたの会
最終更新日 : 2026-02-12 続きを読む