歯の根が震えて、柔らかいパンでさえうまく噛み切れなかった。昨夜、承也をひと目見た時から、彼が眼鏡をかけていないことには気づいていた。何度か聞こうとしたが、そのたびに言葉を飲み込んだ。本当に、眼鏡がいらなくなっていたのだ。あの事故で承也が光を失ってからというもの、莉奈はつきっきりで世話をした。毎晩、椎名邸の祈りの間へ足を運び、彼がもう一度光を取り戻せるようにと祈り続けた。一日たりとも欠かさずに。飽きっぽい莉奈にしては珍しく続いたその祈りが天に届いたのか、やがて承也は視力を取り戻した。ただ、目に後遺症が残ったせいで、眼鏡だけは手放せずにいた。欲をかけば罰が当たる。莉奈はそれを知っていたから、それ以上の贅沢は願わないようにしてきた。それでも心の底には、彼の目が事故の前の状態にまで治ってほしいという切実な思いが沈んでいた。そして今、その目は完全に治っている。長いあいだ胸の奥に押し殺していた願いが叶った喜びと、それとは裏腹な、どうしようもない苦さが、喉の奥から込み上げてきた。本当によかった。莉奈は悠斗に背を向けると、顔をぬぐうふりをして、手の甲で乱暴に涙を拭き取った。「あなたたちが私を捜しに来る前に、廷治には会えた?彼は無事なの?」「腹部を刃物で刺されて負傷していましたが、幸い命に別状はありません。しばらく安静にしていれば回復するでしょう」悠斗は、莉奈の目元が赤くなっていることには気づかないふりをしてくれた。そして視線を横へ流すと、こちらへ歩いてくる男の姿を認め、静かに脇へ退いた。「食べ終わったら、二階へ戻ってもう少し寝てろ」温かいミルクの入ったマグカップが、トンと莉奈の手元に置かれた。頭上から降ってきたのは、いつもと変わらない、低く冷たい承也の声だった。莉奈は、カップを置いたその骨ばった手から視線を逸らし、パンを口に押し込みながら、つい文句をこぼした。「あの寝袋、なんか死体袋みたいで寝心地悪いし……」承也の動きがピタリと止まった。眉間に不快げな皺が寄る。この女は、本当に……自分が縁起でもない言葉を口にしたことなどまるで気づいていない莉奈は、承也の険しい顔を見て、慌てて話題を変えた。「ねえ、この嵐って、あとどれくらい続きそう?今日、直哉が撮影を終えて戻ってくるから、空港まで迎えに行かな
閱讀更多