喫茶店の個室で、莉奈は静かに座っていた。取り乱しているようにも、怒りに呑まれているようにも見えないよう、必死に自分を抑えていた。莉奈の経歴と専門性を考えれば、選考から外されるはずがなかった。だからずっと、E国へ行くものだと思って準備していた。そのために壇将に格闘術と銃の扱いまで習っていたのだ。けれど今日、確認してみると、名簿に莉奈の名前はなかった。和夫に電話をかけて会う約束を取り、事情を尋ねて初めて、それが承也の差し金だと知った。一瞬、怒ればいいのか、絶望すればいいのか、莉奈には分からなくなった。承也はいったい何がしたいのだろう。それに、自分が海外支局の選考に申し込んだことを、承也はどうして知っていたのか。自分は承也の前で一度もその話をしていない。承也も一度も触れなかった。まさに、承也はずっと陰で人を使い、自分を見張らせていたのか。最後の最後で絶望させるために、あえて黙っていたということなのか。頭の中で、松風レジデンスの並木道で承也が言った言葉が響いた。美月が手首を切ったと聞いて車に乗り込む直前、承也は莉奈にこう言った――「莉奈、よく聞け。君はどこにも行けない。この先ずっと、俺のそばにいろ。俺が死なない限りな」莉奈は茶杯を取り、一息で飲み干した。承也は自分を一生東安市に閉じ込め、憎しみの影の中で生きさせるつもりなのだろうか。以前の自分なら、すぐに電話をかけて承也を問い詰めていたはずだ。けれど今は、その必要すらないと思った。どうせ何も変わらない。「今回は縁がなかっただけだ。次の機会を見よう」和夫は莉奈の顔色の悪さに気づき、低い声で慰めた。けれど莉奈は、もうこれ以上待つつもりはなかった。E国へ行けないのなら、今の仕事を辞めて、別の国で一からやり直せばいい。千鶴はもういない。東安市に、自分の家族はもういない。直哉は一番の親友で、真央もいる。将来どこへ行っても、連絡さえ取れれば同じだ。「先生、年始早々お時間をいただいてすみません」莉奈は和夫に茶を注いだ。和夫は手を振り、茶杯を受け取った。「師弟の間で、そんなことを言うものじゃない。どうせ私は一人暮らしだ。年始も普段と何も変わらないよ。それより君のほうが……」彼は眉をひそめた。「椎名家のおばあ様が亡くなった時、承也が君の立場を認めなかったと聞いた。
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