時間だけが、音もなく過ぎていく。廷治は、自分の心臓が刻む一秒一秒を数えていた。力の入らないまぶたを、廷治は一度閉じた。これが壇将なら、とっくにあの合図に気づいて、自分を見つけてくれているはずだ。やっぱり悠斗は朴念仁だ。こんな合図も分からないなんて……そのとき、轟音が響いた。船室の扉が、外から力任せに蹴り破られる。薄暗い光の中、逆光を背負った大きな影が、廷治の前に現れた。廷治は一瞬固まり、心の中で思わず叫んだ。助かった!「Jさん……」その影が素早く動いた。背後から追ってきた黒服の護衛が、鋭い回し蹴りを受けて吹き飛ぶ。そこでようやく、廷治は相手の顔を見た。悠斗だ。壇将ではなかった。悠斗は無表情のまま廷治の前まで歩み寄り、片膝をついた。血の匂いに気づいた瞬間、わずかに顔色が変わる。掌が迷いなく廷治の腹部へ伸び、傷の位置を探り当てた。悠斗は、失血で青白くなった廷治の顔を見据えた。「襲われてから、どれくらい経っていますか?」そう尋ねながら、悠斗はスマホを取り出し、すぐに電話をかけた。廷治は悠斗を見た。悠斗は、「何があったのか」などと悠長なことは聞かなかった。最初から、すでに非常事態が起きていることを前提に行動している。なぜか、その淡々とした冷静さがひどく頼もしく感じられた。廷治も少しだけ落ち着きを取り戻し、必要なことだけを短く伝えた。「僕たちが乗船して三分ほど経った頃です。向井さんが洗面所へ行ったきり戻らず、僕は外で不意打ちを受けました」悠斗は電話越しに承也へ報告した。廷治の言葉が、そのままスマホの向こうにいる承也の耳へ届いていく。電話を切ると、悠斗は廷治の服を裂いた。船の上で銃を使えば音が目立ちすぎる。廷治の腹の傷は、鋭利な刃物によるものだった。船室の外から、乱れた複数の足音が近づいてくる。悠斗の耳が、かすかに動いた。悠斗は立ち上がると同時に、廷治の頭をポンと軽く叩いた。「ここで待っていてください」そう言って、悠斗は船室の扉を閉めた。外では、すぐに激しい乱闘の音が始まった。拳が肉を打つ鈍い音。骨が軋むような音。短い悲鳴。けれど、悠斗の声だけは一度も聞こえない。廷治の全身に、ぞわりと鳥肌が立った。子どものように自分の頭を軽く叩いた悠斗のさっき
Read more