東安市へ戻るヘリコプターの中で、悠斗は膝の上のノートパソコンに表示された、不審な口座情報を見つめていた。悠斗は一語ずつ区切るように告げた。「この口座の名義人は、バトゥです」バトゥ。遠い過去の名でありながら、骨の髄にまで刻みついたその響きが浮かび上がった瞬間、承也の黒い瞳に凍るような冷気が走った。指の間に挟んでいたタバコが、強い力で無惨にへし折られた。火種が床に落ち、ほぐれた葉がぱらぱらと散る。バトゥは、かつて文彦と手を組んでいた境界地帯の頭目だ。手段を選ばない残忍さで、周辺の者たちに恐れられていた。文彦が承也の両親を死に追いやった後、彼はバトゥと椎名家の周辺事業を分け合った。だがバトゥは利益を独占するために文彦を裏切った。境界地帯の後ろ盾を失った向井家の事業は支えを失い、航空会社まで煽りを受け、向井家は破綻へと追い込まれた。十二年前、承也が志願してエージェント組織に入り、境界地帯で潜入任務についたのは、バトゥを殺すためだった。だが、一歩遅かった。承也が潜入する二か月前、バトゥは病死していた。人が亡くなったからといって、銀行口座が自動的に凍結されるわけではない。問題は、十年以上も前に死んだ男の口座が、今になって何者かに動かされていることだった。悠斗は続けた。「風牙はバトゥの商売を引き継ぎましたが、彼の口座までは動かせません。口座の資金を扱えるのは、法的な相続人か配偶者に限られます。ですが、バトゥには妻も子もいませんでした」バトゥに関する情報は、承也の手元に十分すぎるほど揃っている。バトゥが結婚していなかったことも、確かな事実だ。そして、この口座はバトゥの死後、長いあいだ一度も動いていない。いったい誰がバトゥの口座を動かし、莉奈の命を狙っているのか。今の風牙の資産は、すでにバトゥのそれを大きく上回っている。バトゥの残した金など、風牙が欲しがるはずもない。これまでの動きから見ても、風牙は執念深く、陰険で、狡猾ではある。だが、やると決めれば隠れずに仕掛けてくる男だ。ならば、この人物は風牙ではない。承也は部屋の窓に浮かぶ霜の模様を見据えたまま、低く言った。「バトゥは権力と金で女を支配する遊びを好んでいた。結婚はしていなくても、こちらが把握していない隠し子がいる可能性はある」隠し子にも、相続
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