肺がんの末期。私、白石一花(しらいし いちか)は最後となった誕生日に息を引き取った。厳冬のさなか、大きな牡丹雪が空からひらひらと舞い落ちる。私は冬が好きだ。そして、この季節に永眠できることを、どこか幸運だとも思っている。人生の最期の瞬間。頭に降り積もる雪を見つめながら、私はようやく、佐藤時安(さとう ときやす)と「白髪を共にする」という願いを叶えたような気がした。私の方へと駆け寄ってくる時安を視界に捉え、私は微かに唇を動かした。「さようなら」来世では、あなたに出会わないように。そして、あなたを愛したりしないように。……静まり返った家に取り残され、時安が元カノの成瀬乃愛(なるせ のあ)にかかりきりで、正月だというのに私の元へ戻ってこないのがこれで何度目か、もう数えることさえ止めてしまった。たとえ私たちが肌を寄せ合い、どれほど甘く切ない時間を過ごしていようとも、乃愛から電話一本あれば、彼は迷うことなく私を振り切って彼女の元へ駆けつけてしまう。そのたびに彼が口にする理由は、「彼女が怖がっているから」あるいは「彼女は一人きりだから」というものだった。でも、彼は忘れている。私だって一人なのだし、一人きりで家にいる夜を、心底恐れているということを。「いつになったら、私だけを見てくれるの?時安」テレビで毎年恒例の新春スペシャル番組が放送されていた。画面から溢れ出す華やかな笑い声は、今の私にはあまりに空々しく、自分だけが不協和音のようにそこから浮き上がっているのを感じた。まるで、私を取り巻くこの空間ごと、世界から置き去りにされてしまったかのようだった。そう思った瞬間、肺を引きちぎらんばかりの激しい咳が込み上げてきた。あまりの勢いに、このまま内臓を吐き出してしまうのではないかという錯覚さえ覚えた。だが、私はそれをただの風邪か何かだと思い込み、大して気に留めることもなかった。テレビに没頭していたせいか、あるいは彼の足音がそれほどに静かだったのか。不意に隣のソファが沈み込むのを感じ、気づけば時安が私を後ろから抱き寄せていた。彼は幾度となく口づけを強請るように顔を寄せてきていた。首筋の敏感なところに熱い吐息が吹きかかる。私は体の不調を理由に、彼を拒んだ。甘い情熱を湛えていたはずの彼の瞳が、一瞬にして凶暴なまでの険しさを帯びた。隠そ
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