地震が起き、私と小林小夜(こばやし さよ)という女は一緒にがれきの下に閉じ込められた。「この方は胸腔を鉄筋が貫通しています。直ちに処置が必要です」救助隊員が私のほうへ来ようとしたその時、夫の島崎方之(しまざき まさゆき)が飛び出してきた。「先に小夜を助けてください。小夜は妊娠しています!」私は、小夜をじっと見つめる方之の目を見つめた。その目は焦燥感に満ちていた。だが彼は、私も妊娠しているということを知らない。その時、そばで私の止血をしていた医師が叫んだ。「しかし血が止まりません。この患者さんは血液凝固障害の可能性があります!」私は必死にうなずいたが、方之は私の懇願する視線の中で、こう言った。「俺は月葉(つきは)の夫だ。何かあれば、俺が責任を取る」方之の言葉を聞いて、救助隊員は一瞬ためらったが、結局は反対側へ向かった。夫の方之が責任を負うと言っている以上、誰を助けても同じだという判断だった。大量出血している私は瓦礫の上に横たわり、方之の言葉のせいで頭がぼんやりしていた。そばにいた医師と看護師はその様子を見て、思わず愚痴をこぼした。「今時の人は本当にひどいわ!明らかに奥さんのほうが重傷なのに、別の女を先に助けるなんて!」「しかもあの女、たいした怪我もしてないじゃない。ちょっと擦り傷があるだけなのに、こんな重症患者たちと救急車を取り合うなんて」「結婚は慎重にしないとね。奥さんの胸が鉄筋に貫かれてるのに、あの旦那さん、ずいぶん余裕だわ」その言葉ははっきりと私の耳に入ってきた。私は顔を横に向けると、方之が小夜という女を大事そうに腕に抱いているのが見えた。その表情は、緊張と心配と罪悪感に満ちていた。結婚して7年になる私ですら、一度も見たことのない顔だ。彼は余裕なわけではない。その心はすでに小夜でいっぱいで、妻である私の居場所など最初からなかったのだ。体はどんどん冷えていき、私はこのままでは子どもさえ守れないかもしれないと気づいた。私は必死に息を保ち、止血してくれている看護師の手をつかみながら、震える声で言った。「お願いです……先に私を助けてくれませんか。私のお腹にも子どもがいるんです……」その時、小夜を抱えた方之がこちらへ来て、私の言葉を聞くと、露骨に嫌悪の表情を浮かべた。
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