悠斗は2時間並んで、ようやくパンプキンケーキを手に入れた。やっとの思いで買ったパンプキンケーキを、大切そうに胸に抱きしめる。今は胸の傷口が痛んでも、全く気にならない。しかし、傷口の鈍い痛みは、胸を刺されたときに彩花が言った言葉を思い出させる。「あなたの血は、これで絶えるのよ」と。それに、子供に先天的な異常があるとされた、海外の検査報告書は偽造されたものだと、彩花が泣きながら訴えていたことも同時に思い出した。あの時は、彩花が悲しみのあまり取り乱しているだけで、責任逃れのため泉に濡れ衣を着せようとしているのだとさえ考えていた。しかし、一度彩花の妊婦健診に付き添った時のことを思い出す。その時、医者はエコー写真を指差しながら、にこやかにこう言っていた。「お子さんは順調に育っていますよ。どの数値もとても健康的です」あの時の彩花は、嬉しそうに目を細めて笑っていた。そして、自分の手を彼女のお腹に当てて、胎動を一緒に感じさせてくれたんだ。自分も、この子が生まれてくるのを心から待ち望み、父親になる喜びを心待ちにしていた。もし、本当に子供が健康だったとしたら……もし、あの報告書が本当に偽造されたものだとしたら……悠斗の心臓がどくんと重く沈む。いや、そんなはずはない。泉は時々、我儘なところはあるけれど、根は悪い人間じゃないんだ。様々な考えが頭を駆け巡り、割れるように痛む。悠斗は深呼吸をして、心に芽生えた疑念を必死に押し殺した。今はこんなことを考えている場合じゃない。彩花が、パンプキンケーキを待っているんだから。自分と彩花はまだ若い。また子供を授かることはできるはずだ。悠斗は車を家へと走らせた。雨足がどんどん強くなっていく。悠斗の車が西山霊園のそばを通りかかった時、一台の黒い車と山道ですれ違った。スモークガラスの向こう、後部座席にぼんやりと見えた横顔は、なんだか見覚えがあるような気がした。悠斗の心臓が一瞬どくんと跳ねた。訳のわからない不安が彼を襲う。彩花?なぜあんな車に乗っているんだ?いや、違う。彩花は今、家でパンプキンケーキを待っているんだから。彩花に会いたい。今すぐに会いたい。そんな思いが、悠斗を焦らせる。悠斗は、さらにアクセルを踏み込んだ。雨で滑りやすくなった山道を、車は加速していった。もっと
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