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未来より長い、あの日の記憶

未来より長い、あの日の記憶

Por:  年々Completado
Idioma: Japanese
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松浦彩花(まつうら あやか)は妊娠七か月の身で、陣痛促進剤を混ぜられたジュースを飲んでしまい、その影響で早産となった。 そして、かなり早く生まれてしまった子どもは、すぐさま病院の集中治療室へと搬送されたのだった。 しかし、この悲劇を引き起こした犯人は今、平然とした顔で被告席に座っている。 証拠は十分だった。河内泉(かわうち いずみ)が彩花に渡したジュースからは薬が検出されたうえに、監視カメラにも泉が薬を入れる姿がしっかり映っていた。 だが勝訴を目前にして、彩花が長年愛してきた夫が、彼自らの手で示談書にサインしてしまったのだ。 裁判官の声が響く。「被害者側から示談書が提出されたため、被告人はこれをもって釈放とする」 法廷が一瞬にして騒めいた。 彩花は傍聴席の最前列にいる松浦悠斗(まつうら ゆうと)の方へと勢いよく振り返った。 悠斗は端正なスーツに身を包み、表情は落ち着き払っていて、その全身からは長くトップに立ち続けてきた者だけが放つ威厳が滲み出ていた。 「悠斗!」 彩花は彼の名前を叫びながら駆け寄り、その腕を力一杯掴む。「なんで河内さんを許しちゃうのよ!あの女せいで私の子は大変な目に遭っていると言うのに!」 泣き叫ぶ彩花は、悠斗をめちゃくちゃに叩いた。「人でなし!どうしてこんなひどいことができるのよ!」 しかし悠斗は、そんな涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、髪を振り乱す彩花の姿を、冷たい目で見つめた。 「そのみっともない姿はなんだ?お前は松浦グループ社長夫人で、俺の顔でもあるんだぞ。もっとその自覚を持って、品位ある行動を心がけろ」 彩花は呆然とした。 品位?こっちは赤ちゃんの命に関わることだというのに、犯人を野放なんて。それでいて、まだ体裁を気にして、品位ある行動をしろというのか…… いろんな記憶のかけらが、頭の中に蘇る――

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Capítulo 1

第1話

松浦彩花(まつうら あやか)は妊娠七か月の身で、陣痛促進剤を混ぜられたジュースを飲んでしまい、その影響で早産となった。

そして、かなり早く生まれてしまった子どもは、すぐさま病院の集中治療室へと搬送されたのだった。

しかし、この悲劇を引き起こした犯人は今、平然とした顔で被告席に座っている。

証拠は十分だった。河内泉(かわうち いずみ)が彩花に渡したジュースからは薬が検出されたうえに、監視カメラにも泉が薬を入れる姿がしっかり映っていた。

だが勝訴を目前にして、彩花が長年愛してきた夫が、彼自らの手で示談書にサインしてしまったのだ。

裁判官の声が響く。「被害者側から示談書が提出されたため、被告人はこれをもって釈放とする」

法廷が一瞬にして騒めいた。

彩花は傍聴席の最前列にいる松浦悠斗(まつうら ゆうと)の方へと勢いよく振り返った。

悠斗は端正なスーツに身を包み、表情は落ち着き払っていて、その全身からは長くトップに立ち続けてきた者だけが放つ威厳が滲み出ていた。

「悠斗!」

彩花は彼の名前を叫びながら駆け寄り、その腕を力一杯掴む。「なんで河内さんを許しちゃうのよ!あの女せいで私の子は大変な目に遭っていると言うのに!」

泣き叫ぶ彩花は、悠斗をめちゃくちゃに叩いた。「人でなし!どうしてこんなひどいことができるのよ!」

しかし悠斗は、そんな涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、髪を振り乱す彩花の姿を、冷たい目で見つめた。

「そのみっともない姿はなんだ?お前は松浦グループ社長夫人で、俺の顔でもあるんだぞ。もっとその自覚を持って、品位ある行動を心がけろ」

彩花は呆然とした。

品位?こっちは赤ちゃんの命に関わることだというのに、犯人を野放なんて。それでいて、まだ体裁を気にして、品位ある行動をしろというのか……

いろんな記憶のかけらが、脳裏に蘇る――

5年前の結婚式。悠斗は目を潤ませながら言っていた。「一生大切にする。絶対に悲しませない」と。

結婚してから彩花は、子供を授かるために何度も病院に通った。しかし検査の結果、不妊の原因は悠斗にあると分かった。

彩花は悠斗が受け入れられないのではないかと心配し、診断書を隠して、「原因は自分にある」と周りには言っていた。

体外受精のために、数え切れないほどの注射を打ち、様々な薬を飲んだ。

そんな努力が身を結び妊娠が分かった日には、悠斗は喜びから彩花を抱き上げて映画のワンシーンのように回った。そして、彩花そっと降ろしながら、彩花と子供には何でも最高のものを与えると約束してくれたのに。

幸せだった頃の思い出と、今の絶望的な現実。その落差が彩花の理性を壊す……彩花は泉に掴み掛かろうとした。

「殺してやる!」

「いい加減にしろ!」

悠斗は彩花をぐいっと掴むとそのまま地面に押しつけた。そして、鞄から診断書の束を取り出し、彩花の目の前に叩きつける。

ばらまかれた書類の中の外国語で書かれた診断書が目に入った。

「自分で見てみろ」悠斗の声は冷酷だった。「お腹の子はもともと先天性の心臓病があった。だから、あのジュースを飲んでいなかったとしても、臨月まで持たなかっただろう」

彩花はよろめく体に鞭を打ち、震える手でその書類を掴む。憎しみと共に、涙が紙の上へと落ちた。

「ありえない。赤ちゃんは健康だってお医者さんは言ってたもの!これは偽造に決まってる!」

「偽造?」悠斗は彩花に顔を近づけた。「これは河内さんが海外でもトップクラスの医療機関に依頼して検査してもらった結果だ。偽造がそんな簡単なものだと思ってるのか?」

産後の体は弱りきっていて、起き上がる力さえ残っていなかった彩花は、みじめに床に這いつくばることしかできなかった。

しかし、彩花を見下ろす悠斗の目には一欠片の同情もない。

「これ以上、俺を怒らせないでくれ。この話はこれで終わりだ」

悠斗は身を屈め、彩花を見つめる。そして宥めるようでありながら、半分は脅すような口調で言葉を続けた。「海外から最高の医療チームを呼んで、子供の治療をしてやる。ただし条件は……お前がこれ以上騒ぎ立てないこと、だ。いいな?」

しかし、悠斗の視線は彩花の返事を待つことなく、係官に連れられて来ていた泉に移っていた。そして、彼女にかけるその声は、とても彼女を労るものだった。

「河内さん、大変だったな。今日は、早く帰ってゆっくり休むといい」

「社長……」

泉は目に涙を浮かべ、何か言いたそうに口ごもった。その姿はとても同情を誘う。

「もう終わったことだ。あとは俺がうまくやっておくから」

頷きながら涙をぽろぽろと溢す泉の姿は、ひどく哀れに見えた。

そんな時、裁判長が近づいてきて、彩花に判決への異議はないか尋ねた。

彩花は口を開きかけたが、保育器の中の小さな命が頭に浮かぶと共に、悠斗の「これ以上騒ぎ立てるな」という言葉が耳に蘇る。

閉じられた彩花の目から、一筋の冷たい涙が頬を伝った。

「異議はありません。これ以上、被告の責任を追及することはしません」

そんな彩花の様子を見た悠斗は満足げに微笑むと、彩花の腰に手を回し自分の方へと抱き寄せ、裁判長に軽く会釈をする。

「妻がご迷惑をおかけしました。今後の件も、よろしくお願いいたします」

すると、さっきまで威厳を放っていた裁判長だったが、急に90度近くまで腰を折り、媚びるような笑みを浮かべ始めた。

「松浦社長、そんな、そんな。こちらでしっかりとやらせてもらいますので、決して悪い噂が流れるようなことはありませんよ」

帰りの車の中、彩花は窓に頭をもたれ、黙って外を眺めていた。

そんな彩花に、悠斗はカバンからファイルを取り出し差し出した。

彩花はゆっくりと顔を向ける。「何これ?」

「示談書の補足資料だ」

悠斗の口調は穏やかだったが、そこには断ることのできない威圧感があった。

「これにサインすれば、この件は法的に完全に片付くから、後でごたごたしなくて済む」

しかし、彩花は視線をファイルから悠斗の顔へと移し、ふっと口の端を吊り上げる。

「悠斗。河内さんとはいつから?」

彩花が言い終わるや否や、悠斗は苛立たしげに舌打ちし、冷たい目を彩花に向けた。

「くだらないことを考えるな。俺と河内さんは、ただの上司と部下の関係で、やましいことは何もない」

「やましいことは何もない?」彩花はふっと笑った。「今日まで、私も自分の考えすぎだって思ってたわ」

彩花は声を詰まらせながら、この半年間、心の奥に無理やり押し込めてきた一つ一つの出来事を悠斗に突きつける。

「3ヶ月前、あなたのシャツの襟についてた口紅、河内さんのものと全く同じだった。

2ヶ月前の私の誕生日。あなたは急な会議があったからと夜中に帰ってきたけど、あなたの体からは河内さんの香水の匂いがしたわ」

それに……

彩花の声はもう震えていた。「疑わなかったわけじゃない!でも――」

でも、悠斗はこれでもかというほど自分に優しくしてくれていたのだ。

妊娠初期、足がよくつっていた。そんな時、悠斗はどんなに夜遅くても、疲れていても、必ず起きて1時間はマッサージしてくれた。

つわりがひどい時には、料理なんてしたこともない悠斗が、自分のためにうどんの作り方を覚えてくれた。指が火傷の水脹れだらけになるほどに。

ひとつひとつ話すごとに、彩花の心は冷えていく。「あなたは会社の仕事ですごく忙しそうだったから、河内さんのように気が利いて有能な秘書がそばで支えてくれるなら、それはいいことだと思ってた。

でも、結果は?!」急に声を張り上げた彩花の目には、怒りの炎が燃え上がっている。

「河内さんが飲みかけのコーヒーをあなたの口元に差し出して、あなたが平気でそれを飲んだのを見た時、私はただ『少しは節度を持って』と彼女に言っただけなのに。それだけで、彼女は私に薬を盛って妊娠を誘発し、まだ未熟児の赤ちゃんを集中治療室で殺そうとしたのよ!」

彩花は、みるみる顔色が変わっていく悠斗を睨みつけ、一語一句問い詰めていく。

「それでもあなたはまだ示談書にサインできるっていうの?それでいて、二人の間にやましいことは何もないって言えるわけ?」

悠斗の表情はめまぐるしく変わり、何かを天秤にかけているようだった。

やがて、彩花の手を握り、口調を和らげる。

「彩花、俺が悪かったんだ。確かに一度だけ、越えてはいけない一線を越えてしまった。去年の海外出張で飲みすぎて、河内さんと、その……過ちを犯してしまった。本当に後悔してる。だから今回は……俺がしでかしたことに対する、河内さんへの償いだと思って、受け入れてくれないか?」

「償い?」

彩花は悠斗の手を激しく振り払う。胃がひっくり返るような吐き気に襲われた。

悠斗に飛びかかり力任せに叩く。「悠斗、本当最低。あなたが犯した過ちのせいで、どうして私と赤ちゃんが命をかけてまで償わなきゃいけないの?」

「彩花!いい加減にしろよ!」

ついに我慢の限界に達した悠斗は、彩花の手首を強く掴んだ。

「サインしろ。子供の治療には全力を尽くす。これ以上騒いでも誰のためにもならない。それに、今日はもう十分恥をかいたんだから」

また、恥とかなんとか言ってる。

悠斗にとっては、子供を失いかけた自分の痛みも、自分がもう少しで死ぬとこだったことも、体裁と比べれば全てどうでもいいことなのだ。

彩花は力いっぱい悠斗を突き飛ばす。「嘘つき!人殺し!あなたたちは共犯よ!私の赤ちゃんを陥れた!ろくな死に方しないわ!」

「車を止めろ!」

悠斗が鋭く叫ぶ。

運転手が急ブレーキをかけると、車は道端に止まった。

悠斗はドアを開け、涙でぐしょぐしょの彩花を車から突き落とす。「頭を冷やせ。どうすれば松浦家の嫁として恥ずかしくない振る舞いができるか、よく考えろ」

そう言い残すと、悠斗は「バンッ」とドアを閉め、走り去っていった。

初秋の夜風が、薄着の彩花の身に吹きつけ、彼女は寒さに体を震わせた。

周りではネオンが輝き、車が絶え間なく行き交っている。でも、そのどれもが、今の彩花には関係のない世界だった。

病院には生死の境をさまよう我が子がいるのに、自分の夫は犯人をかばい、自分のことはゴミのように捨てた。

信じていた家庭も、愛情も全てがガラガラと崩れ落ちていく。

彩花は低く笑い始めた。その笑い声は次第に大きくなり、最後には号泣に変わった。
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第1話
松浦彩花(まつうら あやか)は妊娠七か月の身で、陣痛促進剤を混ぜられたジュースを飲んでしまい、その影響で早産となった。そして、かなり早く生まれてしまった子どもは、すぐさま病院の集中治療室へと搬送されたのだった。しかし、この悲劇を引き起こした犯人は今、平然とした顔で被告席に座っている。証拠は十分だった。河内泉(かわうち いずみ)が彩花に渡したジュースからは薬が検出されたうえに、監視カメラにも泉が薬を入れる姿がしっかり映っていた。だが勝訴を目前にして、彩花が長年愛してきた夫が、彼自らの手で示談書にサインしてしまったのだ。裁判官の声が響く。「被害者側から示談書が提出されたため、被告人はこれをもって釈放とする」法廷が一瞬にして騒めいた。彩花は傍聴席の最前列にいる松浦悠斗(まつうら ゆうと)の方へと勢いよく振り返った。悠斗は端正なスーツに身を包み、表情は落ち着き払っていて、その全身からは長くトップに立ち続けてきた者だけが放つ威厳が滲み出ていた。「悠斗!」彩花は彼の名前を叫びながら駆け寄り、その腕を力一杯掴む。「なんで河内さんを許しちゃうのよ!あの女せいで私の子は大変な目に遭っていると言うのに!」泣き叫ぶ彩花は、悠斗をめちゃくちゃに叩いた。「人でなし!どうしてこんなひどいことができるのよ!」しかし悠斗は、そんな涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、髪を振り乱す彩花の姿を、冷たい目で見つめた。「そのみっともない姿はなんだ?お前は松浦グループ社長夫人で、俺の顔でもあるんだぞ。もっとその自覚を持って、品位ある行動を心がけろ」彩花は呆然とした。品位?こっちは赤ちゃんの命に関わることだというのに、犯人を野放なんて。それでいて、まだ体裁を気にして、品位ある行動をしろというのか……いろんな記憶のかけらが、脳裏に蘇る――5年前の結婚式。悠斗は目を潤ませながら言っていた。「一生大切にする。絶対に悲しませない」と。結婚してから彩花は、子供を授かるために何度も病院に通った。しかし検査の結果、不妊の原因は悠斗にあると分かった。彩花は悠斗が受け入れられないのではないかと心配し、診断書を隠して、「原因は自分にある」と周りには言っていた。体外受精のために、数え切れないほどの注射を打ち、様々な薬を飲んだ。そんな努力が身を結び妊娠が分か
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第2話
彩花は、母の工藤日和(くどう ひより)が住む古い団地へとゆっくりと足を進めていた。彩花がインターフォンを鳴らすと、日和は心配そうな顔で、彩花を家の中へと招き入れた。部屋は小さくて家具も質素だったけれど、きれいに片付けられていた。彩花が悠斗と結婚したとき、松浦家は都心の一等地に豪華なマンションを用意してくれた。その時、彩花は日和に同居を提案したのだが、「彩花。松浦家のようなお家と縁ができただけでも、ありがたいことなの。だからお母さんまでお世話になるなんて、とんでもないわ」そう言って、日和はどうしても首を縦に振らなかった。湯気の立っているスープを日和が持ってきてくれた。「熱いうちに飲みなさい。あなたは産後間もないんだから、体を冷やしてしまっては後々体に響くわよ」彩花は器を受け取った。その温もりが、冷え切った手のひらにじんわりと伝わってくる。「お母さん。私、離婚したいの」その言葉を聞いた瞬間、日和の手は震え、持っていたお盆を落としそうになった。かつての光景を、今でも昨日のことのように思い出せる。悠斗の猛烈なアプローチは、ごく普通の家庭で育った彩花を夢見心地にさせた。しかも、それは父を事故で亡くした後の、家計も苦しかった時期だったので尚更だった。しかし、日和は猛反対していた。「彩花、悠斗さんが優しくしてくれるのは、あなたみたいな普通の子が物珍しいからよ。一緒に暮らしてみたら分かるわ。日々の暮らしの些細なことや、家柄の違いが、きっと二人を苦しめることになる」だが、当時の彩花にはそんな日和の言葉など届くはずもない。悠斗の深い愛情と松浦家の裕福さは、まるで一筋の光のように、彩花の暗い青春時代を照らしてくれた。そして最後には、彩花は悠斗と二人で、一晩中、地面に額を擦りつけながら、日和に結婚の許しを請い続けた。日和は、頑固な娘と誠実そうな御曹司の姿に心を打たれ、最終的には涙を拭いながら折れたのだった。しかし今、日和の言ったことが現実になってしまった。彩花は息を吸い、なんとか声を震わせないようにする。「でも、私にはお金がないの。赤ちゃんには、病院でたくさんのお金がかかるのよ。だから松浦家からは離れられない……」そこまで言うと、もう言葉が続かなかった。喉が詰まって、胸が痛い。話を聞き終えた日和は、ベッドの脇にある
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第3話
彩花が病院の廊下のベンチで丸くなって、うとうとし始めたその時、突然現れた悠斗に腕を掴まれ、無理やり立たされた。彩花の前に立つ悠斗は、スーツをきっちりと着こなし、髪の乱れもなく完璧な姿だ。彩花はとっさに悠斗の手首をつかみ返し、懇願する。「悠斗!早く支払いをして!お願いだから!」しかし悠斗は、スマホを彩花の顔に突きつけながら怒鳴った。「お前がやったことを見てみろ!」何のことか分からなかった彩花は言われるがまま画面を見ると、それはネットニュースだった。【衝撃!松浦グループの社長夫人、病院でいきなり脱衣】添えられた写真の彩花の髪は乱れ、服もはだけている。コメント欄もかなり炎上していて、ひどい憶測や嘲笑するもので溢れかえっていた。彩花の瞳孔がきゅっと縮まる。そして、ゆっくりと顔を上げ、怒りに満ちた悠斗の顔を見た。「それで?わざわざ、私に文句を言いに来たってわけ?」悠斗は彩花のその態度にさらに腹を立て、彼女の手を振り払うと、厳しい声で問い詰め始めた。「彩花、お前には恥というものがないのかよ。こんなはしたない真似をして、俺への当てつけのつもりなのか?これがうちの株価にどれだけ影響を与えたのか、分かってるのか?」「はしたない真似?当てつけ?」彩花は、その言葉を繰り返しながら声を詰まらせる。「あんなことでもしなければ、私たちの子供はもう、冷たい体になっていたっていうのに……」悠斗は眉をひそめた。「何馬鹿なことを言ってるんだよ?」「馬鹿なこと?」彩花は声を張りあげる。「病院は支払いが滞ってるからと言って、集中治療室の機械を止めたの。そして、あの子は機械なしじゃ20分も生きられないって先生は言った。それに、私があなたに電話をかけたら、なんだか知らないけど大層重要な会議に出ていたっていうじゃない?」少し顔色を変えた悠斗は、無意識のうちに後ろの泉の方を見た。泉はすぐにそっと下唇を噛んで、か細い声で言う。「社長、私は会社の規則に厳密に従っただけです。会議中は、私的な電話ならばいかなる内容でも繋げるな、と。社長ご自身が、そうおっしゃいましたから……」泉は一旦言葉を切って、ちらりと彩花を見た。「それに、彩花さんはずっと泣きながら電話を社長に代わってくれと叫ぶだけで、理由を聞いても何も答えてくれなかったんです。だから、こ
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第4話
彩花は思い出の詰まった家に帰ってきたが、ドアを開けた瞬間、リビングの光景に再び立ちすくんでしまった。ソファに座る悠斗と、その横の肘掛けに部屋着姿で寄りかかっている泉。二人は親密そうに何かを話している。彩花はドアの前で固まったまま尋ねた。「悠斗、どうして河内さんがここにいるの?」悠斗が答える前に、泉が口を挟む。「社長はお仕事で忙しいんですから、家で身の回りの世話をする女が一人くらいは必要でしょう?」「この家にはお手伝いさんが何人もいるわ!」彩花は唇を震わせながら、声を絞り出した。「それとこれとは話が別なんです」泉はなんだか色っぽい視線を悠斗に送り、意味ありげに言う。「だってお手伝いさんにはできないこともありますもの。そうですよね?」その声色は甘く絡みつくようで、あからさまに誘惑していた。悠斗は何も言わなかったどころか、肘掛けに置かれた泉の手に、自分の手を重ねて軽く撫でた。「好きにすれば」彩花はもう二人を見たくなかったので、まっすぐ2階の寝室へ向かい、急いで荷物をまとめた。荷物もまとめ終わったので、階段を降りていくと、腕を組んだ泉に行手を阻まれた。「私は社長からこの家の管理を任されているんです。だから、あなたが出て行った後、もし高価なものがなくなっていたら、私の立場的に困るんですよ。だって、責任がありますからね」そう言われ、彩花はぴたりと足を止める。「どういう意味?」「ですから」泉は一語一句はっきりと告げた。「あなたの鞄を調べさせてもらいます」「何言ってるの?!」彩花は怒りで全身が震えた。「鞄には化粧品と着替えしか入ってないから。どいて!」しかしもみ合いになった途端、泉が突然叫び声をあげ、そのまま後ろに倒れ込み、階段を転がり落ちていった。「河内さん!」物音を聞きつけリビングから駆けつけてきた悠斗は、眉をひそめてうめく泉をそっと抱き起こす。「彩花、お前また何かしでかしたのか?なんで河内さんを突き落としたりなんかするんだよ」「押してない!」彩花は階下で寄り添う二人を見て、なんだか馬鹿馬鹿しく思えてきた。「河内さんが自分でバランスを崩したの」しかし、泉はしゃくりあげながら訴える。「私はただ、彩花さんのカバンを見ようとしただけなのに……そしたら急に突き飛ばされて……」悠斗の視線が、彩花の
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第5話
悠斗は仕事が忙しいのを理由に、子供の治療費の管理をすべて泉に任せていた。しかし、泉が支払っていたのは最低限の費用だけで、それ以外のことは気にもしてくれなかった。経済的に困った彩花は、仕方なく日和と一緒に日雇い労働を始めることにした。毎朝4時に起きて仕事場へと向かい、朝早くから仕事を始める。日雇い労働といえど、朝早くから夜遅くまで働いていたおかげもあり、わずかながらお金を貯めることができた。毎日彩花は日和と狭いベッドで一緒に寝たし、一杯のかけそばを二人で分け合って、1円たりとも無駄にしないよう、必死に切り詰めていた。そんな生活を送る中、彩花は悠斗がいなくても、自分ひとりで子供の治療費を稼げるかもしれないと思い始めていた。そんな矢先のこと――その日、締め作業をしていた時だった。突然、数人のチンピラが仕事場に現れて機材などをめちゃくちゃにし始めた。「やめて!やめてください!」日和は泣き叫びながら止めようとしたが、突き飛ばされてコンクリートの地面に後頭部を強く打ちつけてしまった。「お母さん!」彩花は悲鳴をあげて日和に駆け寄り、抱き起こす。「一体なんなの?なんでこんなことを!」スキンヘッドの男が近づいてきてしゃがみこみ、鋭い目つきで彩花を睨んだ。「俺たちを恨むなよ。金をもらって仕事してるだけなんだから」彩花の心臓がどくんと跳ねると同時に、一人の名前が頭に浮かぶ。「誰に頼まれたの?」スキンヘッドの男は、黄ばんだ歯を見せてニヤリと笑った。「河内さんが言ってたぜ。おとなしくしてろってな。今回は機材だけですんだけど、次はどうなるか分からねえぞ」河内さん?やっぱり泉なのか?彩花はめちゃくちゃにされた職場と、顔が真っ青になっている腕の中の母を見つめた。泣くことも叫ぶことも、なにもできなかった。彩花はポケットから、今日一日のなけなしの給料を取り出すと、怪我をした日和を背負って病院へと走った。薬代を払うだけで精一杯だった。医者は脳震盪がないかレントゲンを撮ったほうがいいと言ったが、彩花にはもう一銭も残っていなかった。日和を支えながら古い実家に戻り、寝かせつけたあと、彩花は家を飛び出した。再びあの家の前に立つと、ありったけの力でドアを叩く。ドアを開けたのは泉だった。「彩花さん?どうして……」その言葉
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第6話
3日後、彩花と日和は山の上にある神社へと連れて行かれた。泉に紹介された神主は、今しがた上ってきた気の遠くなるほど長い階段を指さして言った。「1段目から登り、そのまま本殿へお参りに行き、お子様の無事を祈る。これを親子二人で999回繰り返しなさい。そうすれば、神様もお願いを聞いてくださるでしょう」999回も?彩花は、付き添いで来ていた悠斗とその隣に寄り添う泉に視線を向ける。「母はこの間怪我をしたばかりで、まだ目眩などの症状があるんです。だから無理はさせられません。私が代わりに二倍やる……それではだめでしょうか?」神主は断固とした態度で言った。「血の繋がった親子、どちらも欠けてはなりませぬ」眉を顰める悠斗は、真っ青な顔の日和と助けを求めるような彩花の目を見て、少し迷っているようだった。しかし泉がそっと悠斗の袖を引く。「神主さんがおっしゃる通りですよ。お子さんのためなんですから、彩花さんたちには、頑張ってもらわないと」すると悠斗の顔つきはまた冷たいものに戻り、再び彩花に命令した。「神主さんの言う通りにしろ。これしかないんだから」「悠斗、これがただの嫌がらせだってあなたには分からないの?」彩花は力の限り叫んだ。「いい加減にしろ!」悠斗は我慢の限界だった。「子供のためなら何でもするって言ったのは、お前じゃないか。なのに今さら何を言ってるんだ?助けたいのか、助けたくないのか、どっちなんだよ?」「彩花……」日和の虚ろな瞳には涙が浮かんでいる。「赤ちゃんのため。お母さんは大丈夫だから」1回目。ただでさえ体が弱っているのだ。そこに、この長くて急な階段はかなり堪える。辛い。しかし、それ以上に胸が張り裂けそうだった。2回、3回……彩花と日和は悠斗と泉が見張る中、何度も、何度も階段を往復し続けた。10回、50回、100回……彩花の踵は、靴擦れで血が流れ出ている。見ているだけで痛々しい。しかし、心の中でたった一つのことだけを考え、彩花は歯を食いしばって耐えた。私の赤ちゃん、必ず助けるからね。しかし、日和の状況はもっと酷いものだった。地面に倒れ込んだかと思うと、胃液を吐きそのまま意識を失ってしまった。「お母さん!」彩花は日和に駆け寄って抱きしめる。「早く、お医者さんを呼んで!」悠斗は深く眉をひそめ
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第7話
彩花がやっとの思いで目を開けると、目に飛び込んできたのは、病院の冷たく無機質な白い天井だった。とっさに、そばにいた看護師の腕を掴む。「母は?母はどこにいますか?」看護師は一瞬視線を泳がせたが、声を落として言った。「松浦さん……あなたのお母様は、急な脳出血で、こちらも全力は尽くしたのですが……昨夜、お亡くなりになられました」彩花はただ呆然と看護師を見つめることしかできなかった。言葉はしっかりと聞き取れているのに、その意味がまったく理解できない。お母さんが……死んだ?「そんな……そんなわけないですよ……」しかし、日和の死という知らせを受け止める間もなく、子供の主治医が慌てた様子で部屋に入ってきた。「お子さんが多臓器不全を起こしました!緊急手術が必要です。すぐに2000万円、用意してください!急いで!」だが、今の彩花には一円もない。日和の通帳は奪われ、こつこつ貯めたお金も、日和の治療費で使い果たしてしまったのだ。彩花はスマホを掴むと、震える指で悠斗に電話をかけた。長いコールの後、やっと繋がった電話から聞こえてきたのは、またしても泉の声だった。「社長は今シャワー中です。何かご用でしたら、私が伝えておきますよ」「赤ちゃんが危ないの。手術が必要だから、今すぐ2000万円振り込むように悠斗に言って」「もう、しつこいですね」泉は話を遮ると、馬鹿にしたように言った。「病気の子供を助けて、何になるっていうんですか?」そして電話は一方的に切られた。かけ直しても、「おかけになった電話は……」という冷たい機械音声が流れるだけだった。彩花は、ぼろぼろの体を引きずって集中治療室の前まで来ると、その場に崩れるように膝をついた。「神様、こんな仕打ちはないんじゃないですか?どうか、どうかお願いします。私の子を連れていかないでください……」その時、医者がゆっくりと近づいてきて、首を振った。「残念ですが……助かりませんでした」赤ちゃんが死んだ?5年も待ち望み、辛い治療にも耐えてやっと授かった子。生まれてからずっと保育器の中で頑張っていたのに、死んだって?彩花はずるずるとその場にへたり込んだ。口をぱくぱくさせるが、声にはならなかった。母も子供もいなくなってしまった。そして、かつてあんなに愛し、一生愛すると誓ってくれた男は
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第8話
そう言い終えると、彩花の目の前はふっと真っ暗になり倒れてしまった。意識が完全に途切れる直前、悠斗が慌てた顔で、胸を押さえながら自分に手を伸ばしてくるのが見えた。彩花は口の端を引きつらせ、凄まじく痛ましい笑みを浮かべた。悠斗、あなたも慌てたりするのね。でも、もう手遅れだよ。そして、意識は果てしない暗闇と、長い悪夢の中に沈んでいった。「一番大事な人すら守れないなんて、本当にだめな人ね……」ひとつの声が、夢の中で何度も反響していた。ある時は母のすすり泣きのようであり、ある時は子どものかすかな呼吸音のようでもある。そしてまたある時には、悠斗の冷えきった非難の声となり、泉の得意げな蔑みへと変わるのだった。彩花は夢の中で、胸が張り裂けるほど泣き叫んだ……ピッ……ピッ……彩花が必死に目を開けると、そこにはまた病院の無機質な天井が広がっていた。少し首を傾けると、ベッドの脇で自分の手を握りながら突っ伏して眠っている悠斗が見えた。悠斗はとてもやつれているようだ。目の下にはクマができており、顎には無精髭が生えている。シャツの襟元は開いていて、その奥からは白い包帯がちらりと見えた。しかし、彩花には同情や罪悪感はまったく無く、あったのはただ後悔だけ。もっと容赦なくやるべきだった。悠斗がまだ生きてるなんて。「奥さん、お目覚めになりましたか?ご気分はいかがですか?」薬を替えに来た看護師が静かに話し始める。「旦那さんは、本当にいい方ですね。ご自分もひどい怪我でたくさん血を流していたというのに、どうしても奥さんのベッドのそばにいると言って聞かなかったんですから」いい人?自分の妻の母親を間接的に死に追いやった上に、愛人に我が子の命を断たせた男が、いい人だって?看護師は薬の交換を終えると、静かにドアを閉めて出て行った。彩花は悠斗の手から自分の手を引き抜くと、手の甲から点滴針を抜き、汚いものにでも触れたかのようにその手を振った。彩花は静かに病院服を脱いで着替えると、眠りながらも眉をひそめている悠斗を一瞥し、病室を後にした。彩花はタクシーの窓の外を猛スピードで流れていく景色を眺めていた。街は相変わらず賑やかなのに、彩花の心は荒れ果てている。勤務時間ということもあり、松浦グループ本社ビルは人でごった返していた。会社
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第9話
冷え切ったあの家に戻った時には、すでに午後になっていた。ドアが開く音を聞いた悠斗は、急いで玄関に向かい、彩花を強く抱きしめた。抱きしめる腕の力はとても強く、体も小刻みに震えている。「彩花、どこに行ってたんだよ?目が覚めたらお前はいないし、電話にも出ない。心配したんだからな」しかし、彩花はその抱擁に答えるわけでもなく、かといって突き放すこともしなかった。「お母さんと子供のお墓、見に行ってたの」悠斗は彩花をそっと離すと、罪悪感に満ちた目でうつむいた。「西山霊園の一番いい場所をもう手配したんだ。二人分の景色がいい場所を。明日、盛大に葬儀をあげて、お母さんと子供をきちんと送ってあげよう」そう言う悠斗の目は、少し赤くなっていた。彩花の視線はゆっくりと下がり、悠斗の胸元にある、血が滲んだガーゼの上で止まった。「うん」あまりに落ち着いた彩花の反応に不安になったのか、悠斗は彼女の手を握り、焦ったように話し始めた。「お前に刺されたこと起こってないから。本当に。俺も悪かったんだ。だから時間をくれないか?償いをさせてほしいんだ。だめかな?」償い?何で償うというのだろうか?彩花はそっと悠斗から自分の手を引き抜き、尋ねた。「河内さんは?」悠斗の表情が一瞬にして強張る。「地方のプロジェクトを担当させたから、しばらくは戻ってこない」彩花はくだらないと思った。あの女を遠ざけたところで、犯した罪が消えるわけでもないのに。彩花はただ淡々と「うん」とだけ返事をして、階段へと向かった。悠斗が後を追ってこようとしたので、彩花は階段の途中で振り返る。「少し疲れてるの。一人にさせて」何か言いかけた悠斗だったが、「分かった。ゆっくり休んで」と小さな声で言った。葬儀は悠斗が約束したとおり、とても盛大で厳かなものだった。西山霊園で一番良い区画。墓石には最高級の御影石が使われ、それだけで数千万円は下らなかった。喪服を着た彩花は静かに墓石のそばに立ち、弔問客一人ひとりに、頭を下げて挨拶をしていた。葬儀も終わったので、悠斗は最後の弔問客を見送ると、急いで彩花のそばに駆け寄った。自分のジャケットを脱ぎ、彩花の肩にかけるその目には、独りよがりな愛情が満ち溢れている。「彩花、会社の仕事が一区切りついたら、二人でどこかへ気晴らしに行
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第10話
そう呟くと彩花は振り返り、反対側にある裏口へと向かった。そこには、一台の黒塗りの車が停まっていた。彩花は躊躇うことなく、腰をかがめて車に乗り込む。車は低く安定したエンジン音を響かせ、ゆっくりと走り出した。後部座席には落ち着いているが、どこか冷たい雰囲気をまとっているグレーのスーツを着た男が座っている。男はやつれきった彩花を見て、すっと手を差し出した。「黒崎健二(くろさき けんじ)だ。久しぶりだね、彩花さん」健二。3年前までは、この都市の経済界で悠斗と肩を並べるほどの存在だった男。黒崎家の事業基盤は松浦グループほどではないものの、最新テクノロジーや精密機械製造の分野での勢いはすさまじかった。当時の健二は、若く鋭く、そして野心に満ちあふれていた。彩花は、何度か仕事関係のパーティーで健二を遠くから見かけたことがあるだけだったが『冷たい雰囲気で、近寄りがたい人』それが彼の印象だった。しかし、すべてが変わったのは3年前。経済界全体を揺るがす、大規模な買収合戦が起きたのだ。悠斗が複数の外資系企業と共謀して罠を仕掛け、黒崎家の中心的事業であったIT会社を不当に安い価格で買収しただけでなく、健二を破産寸前まで追い詰めたのだった。その結果、健二はこの都市での全事業を諦め、姿を消すしかなかった。その争いは凄惨を極めたため、健二の父は怒りや焦りにより、心身を病んで床に伏してしまった。その後も回復することはなく、ほどなくして静かに息を引き取ったのだった。それ以来、健二の姿を見るものはいなく、海外へ渡ったという者もいれば、もう立ち直れなくなったのだろうと噂する者もいたのだった。しかし、その3年後、まさか健二が新港市で再起し、以前にも増して凄まじい勢いで全国の市場を席巻するとは、誰も予想していなかった。そしてその男が今、彩花の目の前に座っている。目の前の健二は、3年前に雑誌で見た自信に満ちた姿とは少し違く、随分と落ち着いて見えた。彩花の視線に気づいたのか、健二が淡々と言った。「この顔はお気に召したかな?君の旦那と比べて、どっちの方が外面が完璧なクズに見える?」彩花は視線を逸らす。「黒崎さん、3年前とはずいぶん変わられましたね」「松浦のおかげでな」健二はわずかに顔を背けた。「家も家族も失って故郷を追われれば、嫌でもい
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