All Chapters of 組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~: Chapter 151 - Chapter 160

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39.その名を呼んで⑦*

「少しだけ。……でも、思ったほど痛くない。……京……介が沢山ほぐしてくれたから……大丈夫。それより……私、今凄く凄く幸せだよ?」 ニコッと微笑んで告げられた芽生の言葉に、京介の目が僅かに潤んだように見えた。 その後、芽生の反応を探るみたいに何度も何度も動きを止めながら、京介はとてもゆっくりと芽生の奥へと進んでいった。 痛みは確かにあった。あったけれど、すぐそばに京介の声があって、手があって、温もりがあって――。芽生はとにかく「愛されている」と感じさせられて、幸せだった。 やがて痛みの波が少しずつ緩み、息の仕方も変わってくる。 腹の奥底から込み上げてくるなにかに、芽生の唇から熱い吐息が漏れた。「……あ、んっ。京ちゃ、気持ち、いっ……」「……ああ、芽生。俺も、だっ」 芽生の言葉に京介も荒い息を吐きながら同意すると、我慢出来ないみたいに芽生の額へ口づける。「京、介っ」 芽生の悲鳴に似た声とともに、京介も薄い皮膜越しに芽生の中へ精を放った――。*** どうやら芽生は意識を手放してしまっていたらしい。 心地よい水音に意識を浮上させると、温かな湯船の中で京介に横抱きで抱き抱えられていた。 まだぼんやりした意識ではイマイチ現状が掴めなくてトロンとした目で京介を見上げたら、ホッとしたように京介が芽生の身体を労わってくる。「……すまねぇな、芽生。どこも痛くねぇか?」 それが行為後のダメージのことを指しているんだと気が付いた芽生は、浴室内の明るさに今更のように気が付いて、慌てて胸元を隠した。パシャリとお湯が跳ねて、ふたりの顔を濡らす。「こら、急に動くな……」 芽生が湯船に沈まないよう気遣ってくれたんだろう。京介の腕に力が込められて、それがより一層芽生の羞恥心を煽ってくる。「あ、あのっ、……京ちゃん……私っ」「京介」 浴室を出たいと告げたかったのだけれど、すぐさま京介に呼び名を訂正されて、芽生はオロオロと視線を彷徨わせた。「で、身体は大丈夫か? 痛い
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40.水面下の密約①

 朝の気配が、玉砂利の上を覆うようにゆっくりと庭に満ちていく。 田畑邸の広大な庭は、冬の乾いた冷気に包まれて、どこか音までも凍りつかせたような静けさを保っていた。 陽の光はまだ低く、植栽の影が長く伸びている。冷え切った冬特有の凛とした空気を伝って、どこか遠くから街のざわめきが微かに届く。通勤の人々が動き出す時間帯だ。 玉砂利の合間・合間に配された飛び石を、ふたつの影が寄り添うように踏み締めていく。 孫の芽生と、相良京介。肩を並べたその背中は、まっすぐに数奇屋門へ向かっていた。 田畑栄蔵は、邸内の玄関先からじっとその姿を見送る。 作夜一晩預かって、生まれてから今までの、色々な話をしてくれた。失われた孫と祖父としての時間を埋めるにはまだ時間が足りなさ過ぎたけれど、相良が迎えに来て嬉し気にこの家をあとにした〝あの子〟の背中は、微塵も迷いがなかった。 二十数年前、突然失った愛しい息子・栄一郎の面影を彼女に重ねて恋しさを募らせているのは自分だけみたいで、何となく寂しい。 芽生だってそれなりに想うところがあるだろうに、彼女は何かを振り切るでもなく、無理に強がるでもなく、ただ自分の意志で隣に立つ男の腕を取っていた。 ――神田芽生。 その名は、栄蔵が与えたものではない。 へその緒がついたまま、冬の明け方に児童養護施設『陽だまり』の前へ遺棄されていた赤子に、市長が仮戸籍を通して与えた唯一の〝識別子〟だった。 けれど、その不遇ともいえるべき己の境遇を嘆くでもなく、彼女が誰よりも誇りを持ってその名を背負っていることを、栄蔵は昨日芽生から聞かされて知っている。 DNA鑑定の結果、芽生が栄蔵の亡き息子・栄一郎の娘であるというのは明確な事実だ。それをもって芽生と本当の親族になりたいと告げた栄蔵に、芽生は戸惑いながらも頷いてくれた。多少時間はかかるかも知れないが、戸籍上もその血縁が正式に認められるよう手配すると芽生に約束をした栄蔵だ。そうしなければ、芽生に渡せないものがある。
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40.水面下の密約②

「栄蔵さま。お部屋を温めております。外は冷えますし、どうぞお戻りくださいませ」 いつも身の回りの世話をしてくれている執事の声に、栄蔵は黙って頷いた。 凍りついたような空気のなか、足元の玉砂利がざリ、と乾いた音を立てる。 屋敷へと戻る途中、ふと見上げた空はどこか鈍く白んでいた。 雪は、まだ降っていない。だが、恐らく白いものが舞い始めるのも時間の問題だろう。 栄蔵は邸内に入ると、自室へ戻る前に電話台のところで立ち止まった。昭和レトロな雰囲気を醸し出す黒電話には、栄蔵が唯一愛した女・幼なじみの澪が作ってくれたキルトカバーが掛けられている。澪が死んで四十年以上になるけれど、どうしても捨てることが出来ず、ボロボロになった今も古めかしい黒電話とセットで使い続けているものだ。 栄蔵はしばし無言でその黒電話を見つめてから……やがてゆっくりと受話器を取った。 回す番号は記憶の中に深く刻まれている。 ここ数年、直接のやりとりは減ったけれど、若い頃はよく一緒に飲んだ相手だ。電話番号帳なんて確認しなくても、手が自然と動いた。「はい」 数度のコールの後、低くどっしりとした声が応じた。懐かしいその声も、やはり数十年分は年を取って貫禄が付いていた。そこで、それは自分も一緒だと気が付いて苦笑した栄蔵である。「……田畑です」『おぅ。番号を見てもしやと思ったが……珍しいな。お前から直接掛けてくるなんざ、何十年ぶりだ?』 言って、すぐさま思うところがあったんだろう。ほんの少し低められた声音で『のっぴきならねぇ用事でも出来たのか?』と切り出される。「はい。実は……頼みたいことが出来まして」『……頼みたいこと?』「ええ。……電話では何なので……出来れば会って直接話したいのです」 それだけで相手は何かを察してくれたらしい。『場所
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40.水面下の密約③

 だが、中も全て〝和〟かといえばそういうこともないらしく、通された応接室は洋室と呼ぶにふさわしい佇まいだった。天井からぶら下がったシャンデリアと、革張りのソファ、間接照明に照らされた薄暗い空間というのが、なんとも緊張感を高めてくる。  加えて防音仕様にでもなっているのか、先程通り抜けたこの部屋の扉はやけに重く、分厚かった。いかにも〝人に聞かれたくない話〟をする部屋と言った雰囲気だ。  二十平米ほどの、応接室にしては広い室内は程よく空気が温められていて、家主が自分を迎えるためにこの場をセッティングしてくれたんだと分かる。「……今日は運転手付きの車じゃなかったんだな」  紫煙の向こうからククッと低く笑ったのは、この家の主であり葛西組組長でもある男――葛西了道だった。  黒い革張りの椅子にゆったりと背を預け、栄蔵を迎え入れたその姿は、年齢を感じさせない威圧と静けさをまとっていた。 「今日は〝私情〟で伺いましたので」  栄蔵はそれだけを告げると、コートを脱ぎ、了道の真正面へ腰を下ろした。「そういやぁお前、風の噂に血を分けた孫娘を見つけたって聞いたが、本当か?」  十年以上音沙汰がなかった相手からの、突然の電話。何か裏があるに違いないと思った了道は、栄蔵からの電話のあとすぐ、配下の者へ命じて田畑栄蔵の身辺を洗わせていた。孫の情報はそのとき掴んだものだ。「はい、故あって親から引き離され、ずっと孤児院で育っていたようです。先日たまたま縁を頂きまして再会を果たしたばかりです。戸籍などにはまだ手を付けられていませんが、栄一郎との死後認知の手続きをして、正式に血の繋がった孫として田畑の戸籍へ迎え入れる予定です。身内の欲目と言われるかも知れませんが、息子によく似た別嬪さんです」  その言葉に、自身も我が子のことを思い出したのか、了道がスッと瞳を細めた。 「……女の子ってぇのは、いてくれるだけで場が華やいでいいもんだよな」 「はい」 二人の間に交わされる言葉は、久々に再会した者同士としては、かなり少ない方だろう。  だが、旧知の間柄のふたり
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40.水面下の密約④

 了道としては、相良京介には娘のことで恩義もある。相良自身は自分をこの世界へ引き入れてくれたことでそれはチャラだと考えているようだが、了道としてはイマイチ納得出来ていないのだ。 あれは相良自身の選択ではあったけれど、〝やむを得ず〟出した結論だというのも知っている。 了道にそんな迷いがあるからこそ、いま葛西組は相良派と三枝派に分かれて両陣営が日和見の重鎮たちを相手に、票集めに奔走している、ゴタゴタの真っ最中だ。 幹部会までにはまだ間があるが、果たしてそれで相良が組長に選ばれた場合……それは本当にあの男自身の幸せなのだろうか? とも思ってしまう了道である。 相良がこの世界に足を踏み入れた、のっぴきならない事情の元凶となった、彼の母親はすでにこの世にいない。 もしも相良京介をこの世界に引き留めているものがあるとすれば、それは了道への義理と、彼が抱えている相良組の面々に対する情に他ならないだろう。 相良京介は漢気もあるし、義理も筋も通す男だ。喧嘩も強いし、頭も切れる。――だが、あの男は根が〝優しすぎる〟のだ。 それが、極道には致命的になりかねないと、了道は相良をこの組に入れたときからずっと、懸念している。「……」 返事のない相手に、了道は紫煙のくゆる葉巻を指に挟んだまま、自らのグラスを干した。 そうして新たな葉巻を手に取ると、懐から銀製のカッターを取り出す。慣れた手つきでカッターを使って葉巻の先端を切り落とすと、反対側をトーチライターの炎で炙った。静かに揺れる炎の上で、炙られた先端がじりじりと色づき、やがてオレンジに染まる。 何度か軽く息を吹きかけ、煙が立ちのぼったのを確かめてから、深く火を引き込むと、新たな紫煙が応接室のなかへ濃く漂い始めた。 それを無言でしばし見詰めていた栄蔵が、ようやく口を開く。「その、相良京介のことで、ひとつお願いがあります」 その言葉に、了道の目がわずかに動いた。「なんだ?」「大したことではありま
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40.水面下の密約⑤

 芽生がようやく回復したのを機に相良組の面々や、悪友の長谷川将継とその恋人の朧木静月らを呼んで数日遅れの誕生日会兼クリスマス会をした次の日の夜のこと。またしても了道から個人的に呼び出しが掛かった。 場所は前回と同じく了道の自宅。だが、部屋は前回のように和室ではなく防音仕様の応接室――洋間――で、京介ひとりで来るようきつく言い渡された。 了道が芽生との交際に釘を刺してきたのは、ほんの数日前。「堅気の女は極道の足を引っ張る」と、かつて千崎にもしたように、自らの〝推薦〟する組の息が掛かった女との縁談をちらつかされ、圧をかけられたのを思い出した京介である。 京介は了道の言葉に、切り殺されることを覚悟して芽生以外の女を娶るつもりはないと宣言した。 了道にとって、あの斡旋は試金石だったんだろう。葛西組の若頭として、京介が極道らしく筋を通すか、それとも、己の気持ちを貫いて、一人の男としての情を取るか。 いずれにしても、あの時点で〝器〟を見極められていたのだ。 あの時は「そうか」とだけ告げて引き下がってくれた了道だったが、逆にそのことが不気味にさえ感じられたのを覚えている。 あれから数日。いよいよ沙汰が下されるんだろう。 そう思って覚悟をしていた京介を、了道は存外穏やかな表情で迎えてくれた。「相良よ、よく来たな。――まぁそこ、座れや」 葛西了道という男は、構成員の不義理に寛容な人間ではない。そのことを知っているのに、自分の目の前へ座るよう促してきた了道からは、不思議と怒りのような感情は感じ取れなかった。 こういう渡世に長いこと身を置くうち、京介は相手の想いを〝気〟のようなもので敏感に察知できるようになっていた。当然了道に怒りや殺気のようなものが少しでもあったなら、了道がそれを隠そうとしていたとしても何となく感じ取れるはずだが、それがない。 そのことを不思議に思った京介だったのだが、すぐさまあの日の問いは了道から自分への〝試し〟
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40.水面下の密約⑥

「……あれから考えたんだ。今まで俺に逆らうことなんてなかったお前がそうまでして守りてぇ女ってのは、どんなもんなんだろうってな」「……」「で、今夜はその〝答え〟を渡しに来た。――お前は、組を継がなくていい」 静かに、けれどはっきりと、了道が言葉を紡ぐ。「葛西組は三枝に任せる。お前にゃー相良組を……てめぇ自身でケリつけてもらう」 言葉は厳しいのに、表情は柔らかい。了道はそこでわずかに口元を緩めると言い放った。「……堅気に戻れや、相良。俺との義理を捨てた代償が、それだ」 不意を突かれたように京介が瞳を見開く。「オヤジ……。それは……破門、ってことですか?」「俺の気持ち的にはな。けど……表向きは絶縁って措置にするつもりだ」 了道はあっさりと、そんなとんでもないことを言う。 破門は謹慎処分に近いので、まだ復縁の余地がある。だが絶縁となると金輪際極道の世界には足を踏み入れられないということを意味する。それは、葛西組はもちろんのこと、相良組にも……また他のどんな組織にも京介の居場所はないと言われたも同然の宣告だった。「けど……オヤジ……」「お前が足洗うっつったら、てめぇの女はむしろ喜ぶと思うがな。――違うか?」 眉をあげ、問い返されて京介は唇を噛む。「――その通りです」「だったら黙って受け入れろ。これは〝罰〟じゃねぇ。お前が選んだ女と一緒に生きていくための、俺からの贈りもんだ」 そして最後にこう締めくくる。「……お前に、もう一度『極道に戻りたい』って言わせるような生き方はさせたくねぇんだよ。分かるな?」 京介は、胸の奥に熱い何かが込み上げてくるのを感じながら、深く、深く頭を下げた。
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41.お前と生きるために①

 深夜一時を過ぎた頃、玄関の扉が静かに開いた。 葛西了道との会合を終えて帰宅した京介は無言で中へ入ると、音を立てないように靴を脱いで、そのままリビングへ向かった。(――夜更かし、そんなに得意じゃねぇ癖に待っててくれたのか) マンションのリビングには、小さな照明が灯っていた。 付きっぱなしのテレビ画面には、いつも芽生が好んで観ているような動物番組も、恋愛もののドラマも映っていなくてむしろ逆。およそ芽生の趣味とは程遠い、『格闘技祭り! 真夜中の激突SP』と銘打った放送がかすかな音とともに垂れ流しになっていた。『おおっとぉー! クラッシャー・モリスの鉄槌が、ついに海堂の顔面を捉えたァー!』『これは効いたっ! 海堂、一瞬よろけたが大丈夫かぁーッ!?』 音量はかなり絞られていたが、物凄く白熱した場面なんだろう。実況者の興奮した声と観客たちの歓声が、静かなリビングを小声で熱く侵食する。 京介は、小音量ながらも盛り上がっている様子がガンガンに伝わってくるテレビ画面を一瞥すると、芽生の手元に緩く握られたままのリモコンをスッと抜き取って電源を切った。 眠りが浅い時の人間というのは、見ていないテレビでも消されると不思議と反応するものだ。だが芽生は微塵も目覚める様子がなかった。恐らくは別の番組――恋愛ドラマか何か――を観ている内に寝落ちして、随分経つんだろう。 テレビを切って静かになった部屋内へ聞こえるのは、幸せそうな顔をして眠る芽生の規則正しい寝息と、彼女のすぐ横へくっ付いてまぁるくなっている愛猫・殿様の、ゴロゴロと喉を鳴らす音だけ。 割と寒がりの芽生に、京介が買ってやったもふもふ毛布にくるまってソファに身を預けた芽生にちゃっかりくっ付いている殿様を見て、幸せというのは案外こんなものなのかもな……と妙に感傷的になってしまった京介である。 それもそのはず。京介はつい今し方、葛西組の了道から〝堅気へ戻れ〟と言われたばかりなのだ。 絶縁とい
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41.お前と生きるために②

「……ん、あれ? ……京、ちゃん……?」 眠たげな声と、無意識の甘えた呼び方。それを聞くなり、京介の手が、ぴたりと止まった。「京介って呼べっつったろ?」 そう呼ぶことは、芽生にしか許していない。低く響いた京介の声に、芽生の目がゆっくりと開いた。「……あ、ごめ、なさい……」 目が覚め切らないまま、顔を真っ赤に染めて、芽生がゆっくりと言い直す。「……お帰りなさい、京介」 その呼び方に、京介はようやく口元を緩めた。「……なぁ芽生。こっち来いよ」 囁くように言って、京介が芽生の身体をそっと抱き上げる。 いきなり縋っていた温かな芽生の身体を遠ざけられた殿様が、名残惜しげに小さく「にゃー」と抗議の声を漏らした。「あ。……殿様、起こしちゃった……」 それに気付いた芽生が心配そうに呟いたのだけれど、京介はそちらに一瞥をくれただけで、すぐ視線を芽生へと戻してくる。「アイツにゃ、ふかふかの毛布が残してある。問題ねぇよ」 そもそもマンション全体が、程よく空調が効いていてホカホカと心地よい暖かさなのだ。 そのことを示唆して芽生を横抱きにしたまま歩き始めた京介を、芽生が戸惑ったように見上げる。「あ、あの……京ちゃん?」「京介」 さも当然のように呼び方を訂正してきた京介が目指したのは、彼の寝室だった。「アイツの前で、お前の痴態なんか、見せるわけにゃいかねぇんだよ」 その言葉に、芽生は心臓をきゅっと掴まれたような気がした。だって、今の京介の言葉は、〝これからお前を抱く〟と宣言しているとしか取れなかったから。 昨日みんなが帰ったあと、京介と初めてのアレコレを済ませたばかりの芽生としては、パニック寸前。
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41.お前と生きるために③

 葛西了道との間に何があったのかは芽生には分からない。 分からないけれど、確実に目の前の男を動揺させる何かがあったことだけは確かだと思った。「芽生、もう一度、いいか?」 京介にそっと問い掛けられた芽生は、今夜は京介に抱きつぶされることを覚悟してこくりと頷く。 それで愛しい男の不安が少しでも払拭されるのなら、構わないと思った――。***「カシラ! 絶縁って、どういうことですか!」 不意に、抑え目ではあるが、血の底から響くような声が聞こえてきて、芽生はゆるゆると目を開ける。 ちょうど顔のところへカーテンの隙間から挿し込む一条の光が当たってまぶしさに目を細める。(千崎さん……?) 声の主は京介の右腕、千崎雄二のものに思えた。 でも……。 京介はまだ自分の隣にいるはず……。(気のせいか……) 夢で幻聴を聞いたのかも知れない。眠気に侵食されて、光を避けるように寝返りを打って目を閉じたまま……。無意識にモソモソと京介の方へ手を伸ばした芽生は、隣にいたはずの京介がいないことに気が付いた。(……京ちゃん?) そこで再度、ゆっくりと目を開けて寝室の中を見回してみたけれど、やはり京介の姿はどこにもなかった。 ベッドサイドには昨夜芽生が京介にはぎ取られたパジャマや下着が落ちていた。布団の中、自分ばまだ裸のままなことに気が付いてブワリと身体が熱くなる。 見下ろした胸元には、沢山の鬱血痕が散らされていて、今朝がたまでのあれこれを一気に思い出した芽生は布団にくるまったままいそいそと服を手に取った。 一緒に落ちていたはずの京介の服はなかったから、京介は芽生より先に目覚めて活動を開始しているらしい。「だから、ちぃーと声を落とせ、千崎。まだ芽生が寝
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