All Chapters of 組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~: Chapter 161 - Chapter 170

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41.お前と生きるために④

 京介がここまで考えなしに芽生へ情事の痕跡を刻み込むのは、なんだか彼らしくない。だとすれば、そうしなければ耐えられない何かが、京介にあったということだ。 (京ちゃん、昨日……様子がおかしかった……)  先程千崎と対面している京介は〝いつも通り〟に見えたけれど、それは千崎の前だから気を張っているだけかもしれない。  そう思うと、一刻も早く京介の傍へ戻りたいと思った。 ***  キスマークの残る首筋を隠したくて、タートルネックのセーターにロングスカートといういでたちでリビングへ戻ると、京介と千崎はまだ同じ位置に立っていた。  芽生がいない間に話が進んでいるのかいないのか……。ただ、二人の間に漂っていた緊張感は、先ほどよりは幾分やわらいでいるように感じられた。「……ごめんなさい、お待たせしました」 ぺこりと頭を下げる芽生に、千崎が「いえ」と短く返す。そんな二人に京介がソファを手で示し、「まぁとりあえず座ろうか」と促した。  芽生は二人の視線に少し身を縮めながら、京介の隣へ腰を下ろす。  芽生が座ると同時、どこからともなく殿様が現れて、芽生のひざの上に陣取った。芽生は、殿様のお陰で少しだけ勇気をもらえた気がして、沈黙を破るように正面へ座る千崎に向けて口を開く。 「……あ、あのっ、千崎さん。さっきたまたま聞いちゃったんです。破門……とか絶縁とか……一体どういう意味ですか?」 芽生の真っすぐな視線を受けた千崎が、だが自分では語りたくないみたいに京介へと視線を送った。  京介は一度だけ短く息を吐くと、ゆっくりと芽生の方へ顔を向ける。「……簡単に言やぁ、破門は謹慎処分、絶縁は極道の世界から追放されるってことだ」「……え……? でも京ちゃん、絶縁って……」  確か、千崎は〝破門じゃなくて絶縁〟と言っていたはずだ。  芽生が眉根を寄せて京介を見つめたら、京介がフッと表情を緩める。 「ああ、そうだ。俺は晴れてお前と同じ堅気の人間ってこった」  なんでもないことみたいにニッと口角を上げてみせる京介に、芽生はズキンと胸の奥が痛くなる。  京介はさも平気だという風を装っているけれど、平気じゃないから昨夜、様子がおかしかったんだと……今更のように得心した。「京ちゃん……」 京介が泣い
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42.別れと背中①

 リビングの方から、マンションのインターホンが低く鳴る。 玄関ではなく、エントランスからの呼び出しだ。 芽生の温もりを腕の中に感じながら、京介は目を閉じたまま応じない。 数度繰り返される呼び出し音に、ふいに芽生が身じろいだ。(……芽生が起きちまうだろ。さっさと諦めろ) 心の中でそう毒づきながらも、肌が直接触れ合う心地よさを手放したくなくて、京介は動くつもりなんてない。 ……ブーブー。ブーブー。 今度はしつこく耳障りなほどにバイブ音が響いてくる。 マナーモードにしたままリビングへ放りっぱなしの携帯だ。「んっ」 その音に、芽生が眉根を寄せて小さく吐息を落とした。 このままでは完全に目を覚まさせてしまう。──それに、このしつこさ。相手は十中八九千崎だ。ならば、いずれにせよ逃げ場はない。 観念した京介は芽生を起こさないようそっと身体を起こすと、ベッド脇に脱ぎ散らかしていたワイシャツを片腕ずつ通した。 下着の上に無造作に上げたままのズボンは、ベルトも前立ても留めずに腰へ引っかける。 髪は乱れ、襟元からのぞく鎖骨にはかすかな赤い痕。芽生が無意識に引っ掻いたものだ。 軽く顔前にかかる前髪を手櫛で後ろへ掻き上げると、京介は寝室の扉を静かに開けた。 寝室前には殿様が待ち構えていて、すぐさま中へ入ろうとしてきたけれど、芽生はまだ裸のままだ。足で殿様を巧みにブロックしてリビング側へ押し留めると、後ろ手にドアを閉める。「もうちぃーと我慢しろや」 足元で不満気に「にゃー」と鳴いて京介を見上げてくる殿様の頭を軽く撫でると、目線が自然下を向く。 ソファ前のフローリングに、横倒しの白い紙袋。口から札束がのぞいている。蹴とばした覚えはないが袋は倒れていて、中に帯封のかかった札束がぎっしり詰まっている――。 昨夜……いや、もう今日の未明、葛西のオヤジとの会合から戻ったときに置いたままのものだ。(あー、あれも何とかしねぇとな)
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42.別れと背中②

(だからって仕事が早すぎなんだよ) もう少し猶予をくれてもいいと思ってしまったのは、自分自身心の整理がまだしっかりついていないからだ。 京介は小さく吐息を落とすと、千崎の視線を真っ向から受け止める。「だから、ちぃーと声を落とせ。まだ芽生が寝てんだよ」「こんな時になに悠長なことを言ってるんですか。カシラ、破門じゃなくて絶縁なんですよ!? ちゃんと意味、分かってるんですか!?」 ――そんなことはお前に言われなくても、俺が一番分かってんだよ。 そう言いたいが、それすら億劫でたまらない。 ほぼ徹夜明けの頭に、千崎の低音ボイスが結構響く。 何も答えない京介に業を煮やしたんだろうか。「相良組はどうするつもりなんですか!?」 今一番言われたくないことを言われた気がした――。 昨夜、絶縁を言い渡されてからずっと、そのことを一番に考えていた京介である。 もう組に関わることは出来ない身とはいえ、オヤジからも相良組の今後については一任されているのだ。 京介が口を開き掛けた瞬間、まるで出ばなをくじくみたいに寝室の扉が開いて、パジャマ姿の芽生が顔を出した。 京介の足元で所在なげにこちらを見上げていた殿様が、これ幸いとそちらへ掛けて行ってしまう。「京ちゃん、千崎さん……今の話、どういう、意味……?」 殿様の動きを追うまでもなく、京介は千崎とふたり、声の主を視界に捉えて――。京介はすぐさま眉をひそめ、大股で芽生へと歩み寄った。「お前、その格好……」 いかにも寝起き。パジャマ姿でノーブラなのも頂けないが、なにより胸元に自分が刻んだ情事の痕跡がクッキリ見えて、それを千崎に見られるのが嫌だと思ってしまった。自分がそういう目で見られるのは構わないけれど、芽生の〝そういう姿〟を他の男に想像されるのは我慢ならない。 京介は芽生の肩を掴むと、寝室とは反対側の部屋へ押しやった。「あ、あのっ、京ちゃん……!?」
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42.別れと背中③

「……ですが、カシラ。相良組の今後は――」 そこだけはどうしても避けては通れない道だ。 京介は皆に分からないよう、一瞬だけグッと奥歯を噛みしめる。「その話だがな、千崎」 京介は真っすぐ目の前の男を見据えた。「俺は相良組をお前に託そうと思う」 言った瞬間、千崎の表情が揺らぐ。 だが構わず京介は続けるのだ。「言わなくても賢いお前なら分かってんだろうが、相良組の看板は降ろせ。……俺の名に囚われるな、千崎」 理由はどうあれ、絶縁になった人間の名前をいつまでも冠していては、組にとっていいことなんてない。下手をすれば、葛西のオヤジへの謀反とも取られかねない。 京介の横で、千崎のみならず芽生がヒュッと息を詰めたのが分かった。 だが、頭のいい子なので有難いことに口は挟まないでいてくれる。 まるでこの場には千崎と京介しかいないみたいに、今までずっと自分を傍で支えてくれていた千崎を見つめた京介に、拳を握ったまま、千崎が低く言う。「……そんなこと、できるわけないでしょう。私らはずっと相良組でやってきたじゃないですか」「冷静になれや、千崎。誇りごと墓へ入れる気か」 短いやり取りの間に、二人の視線が火花を散らす。 そもそも、相良組にいるのは千崎だけではない。他の組員たちのことも考えてくれなくては困るのだ。「……いっときだけでも、貴方の名を残させてください。そうでないと下の者が落ち着きません」「好きにしろ。だが、それもオヤジから公に通達があるまでだ。あんま猶予はねぇぞ?」 さっさと新しい組名を決めてくれなければ困る。 京介は芽生や殿様がそばにいることも忘れて煙草を咥えた。 ライターの蓋を開く音が、やけに大きく響く。 炎を映した京介の瞳は、微塵も揺れてはいない。 ――ただ、吐き出した紫煙の奥に、微かな翳りが滲んでいた。「あと、古い代紋ごと
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43.幸せにするために①

 年が明けて程なくして、京介と芽生は田畑栄蔵から呼び出しを受けた。 新年の挨拶ならば家で済むだろうに、指定されたのは市内でも古くから続く料亭だった。 京介と芽生が指定された場所へたどり着いたとき、栄蔵はすでに個室の方で待っているとのことで、着物姿がさまになる女将が、「こちらでお待ちです」と、奥まった一室へ案内してくれた。 障子越しの冬の日差しはやわらかく、畳の上には凛とした空気が漂う。 襖が静かに開かれると、白髪をきちんと撫でつけた栄蔵が和装で座しており、ゆるやかに立ち上がって二人を迎えた。 こういう場所に呼ばれる時は、軽い話で終わったためしがない。経験からそのことを知っている京介は、じっと目の前の老人を見つめた。「……わざわざこちらが指定した店まで出向いてもらって悪かったね」 三人が席に着くと、再び襖がすっと開き、着物姿の仲居が膝を滑らせるようにして入ってくる。 先付の膳が、一人ずつの前へ置かれた。 その奥、小ぶりな皿に盛られた向付には蟹味噌豆腐とほうれん草のおひたし、上には香り高い柚子の皮があしらわれている。 ほのかな潮の香りと、湯気を立てる蛤の潮汁が次いで運び込まれ、室内に冬の匂いが満ちた。 最後に青磁の皿へ乗せられた艶やかな寒ブリの刺身が並べられる。淡い脂が光を返し、冬の海の冷たさと豊かさを一片一片に閉じ込めているようだった。 京介は箸を取らず、まずは栄蔵の出方を待つ。芽生がそんな京介の横で、オロオロと男二人の様子を交互に見遣っている気配がする。「まぁ、とりあえず食べながら話そうか」 栄蔵が湯のみを手に取り、熱い茶を一口啜って真っすぐ京介を見た。 存外穏やかな促しに、京介はひとまず肩の力を抜く。だが、視線だけは栄蔵から外さない。「いただきます」 栄蔵へ向けて軽く会釈をし、行儀よく手を合わせると、ようやく箸を手に取った。 手始めに寒ブ
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43.幸せにするために②

「相良くん。キミは優しすぎるところがあるんだってね。葛西さんはそこを心配なさっていたよ。まぁ、それはさておき、だ。その話のなかでね、彼がキミのことを〝頭がいい〟と褒めていたんだ。わたしもキミと話していて、そういうのを端々に感じている。小規模とはいえ、相良くん。キミは組長もやっていただろう? 人を動かす力もまとめる力もある。それは縁戚になるからという私情だけでは作れないものばかりだ」 栄蔵の視線は静かに、だが真っすぐに京介を捉えている。「こう見えてわたしも経営者のはしくれだからね。私情だけで自分の跡目を選んだりはしない。……そこだけは、しっかり理解しておいて欲しい」 その言葉の通り、栄蔵はかつて一応に血の繋がりがあった細波鳴矢を〝見込みがない〟という理由で、後継者候補から外している。何年もかけて育てていたにも関わらず、だ。 その辺は経営者らしく弁えているということだろう。 それが細波親子の、芽生への暴走を生むきっかけになったことを含めて知っている京介は、わずかに眉根を寄せて栄蔵の視線を受け止めた。「それは……俺もそばに置いてみて駄目だと思ったら後継者候補から外してくれること前提だと思ったんで間違いありませんか?」 恐らくはそういうことだろう。「まぁ、多分そうはならんだろうがね。有り得ないことではない」 栄蔵の忌憚なき言葉を聞いた、京介はスッと居住まいを正した。「分かりました。そういうことでしたら俺も安心して身を預けられます。――よろしくお願いします」 言って、深々と頭を下げる。 京介にしても芽生や殿様を養わねばならない。仕事が与えられるのは願ったり叶ったりなのだ。(ま、十中八九、俺の絶縁にゃ、この爺さんが噛んでるだろうがな) だとしたら少しぐらい世話になっても罰は当たらないだろう。そう思った。 京介が存外すんなり話を受けてくれたことにホッとしたんだろう。栄蔵の表情が和らぐ。 芽生も、よくは分からないけれど京介にまともな仕事が見つかったことが嬉しかったんだろう。京
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43.幸せにするために③

(ストーカーかよ!) まぁ、だからこそ細波母子断罪の際に、芽生を安心してここへ預けることが出来たのだが、それを自分たちの動向に発揮されたと思うと気分が良くない。 色々思うことはあった京介だったが、面倒なのであえてそれらはグッと飲み込んで、芽生の背後から「おはようございます」とだけ告げて会釈した。「ああ、おはよう相良くん。今日は朝早くから出てきてもらって悪かったね」「いえ」 京介は早起きが苦手じゃない。幸いにして芽生も、夜には弱いが朝には割と強かったから、今朝だってそれほど苦労はしていない。まぁ強いてあげるとすれば、この年末年始、家に飼い主二人がいることに慣れ切った愛猫殿様が、京介たちが出かけるのを察して「僕も行く!」とばかりに脱走を試みるのを阻止するのに手こずった程度。「場所はナビに入れてあるから問題ないと思うんだが……相良くん、今日はひとつ運転手を頼まれてくれないかな?」 車にはすでにエンジンが掛けられて、車内は程よく温められていた。その車を前に、栄蔵が言う。 京介だって運転は出来ないわけじゃない。十八歳で葛西組の組長・葛西了道に運転免許証を取らせてもらってからは、運転手だってこなした。 だが、この何年かは京介だって相良組の若い衆に運転をさせてきて、少々ブランクがある。折をみてちょこちょこ自分でもハンドルを握ることはあったから運転自体は問題ないと思うのだが、芽生を乗せての遠出となるといささか不安は募る。「あの、お言葉ですが……」 だから辞退しようとしたのだけれど、栄蔵が意味深に微笑むのを見て続きの言葉を飲み込んだ。「一応いつも運転手をしてくれている会社の人間を呼び出すことも出来るんだがね、まだ正月休み中だからなぁ。プライベートのことではあるし、わたしとしては相良くんに運転してもらえたら助かるんだが、どうだろう? 無論、無理に……とは言わんがね。だが
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43.幸せにするために④

 栄蔵から一応に大まかな目的地については聞いているので、あちら側の高速を降りるまではまぁ、ナビはオマケみたいなものだろう。 京介の運転する車の中、芽生はどこか落ち着かない様子で窓の外を眺めている。いつもは横に京介がいるのに慣れているのにいないというのもあるだろうが、それよりも……。「……ねぇおじいちゃん、奈央子さんって、どんな人なの?」 視線は窓の外に落としたまま、膝の上で重ねた指先をぎゅっと絡め、芽生が意を決したように問いかけた。 その声を聞きながら、京介はルームミラー越しにちらりと後席を見やった。 窓外へ視線を逸らしたままの横顔がミラーに映り込み、そのわずかな強張りを確かめて、京介はほんの一瞬だけ目を細めた。 そんな芽生に、栄蔵は腕を組んだまま柔らかく答える。「優しい人だよ。栄一郎……、ああ……お前の父親もかなり懐いていた。とても控え目な女性でね、わたしがバカなことをしなければ、今でも近くに住んでいてくれたと思う。芽生にもずっと会わせたかったが、なかなか時間が取れなくてね。……遅くなってすまなかった」「……それは……大丈夫。でも……何て言ったらいいんだろう? 私、おばあちゃんに会うの初めてだし、それに……その……。京ちゃんと私のこと、認めてくれるかな? とか色々考えたらすっごくすっごく緊張するの」 わずかに俯く芽生をルームミラー越しにちらりとみて、京介は短く「認めてもらえるよう頑張るしかねぇだろ」とつぶやいた。 わざとぶっきらぼうに言ったが、その声色はどこか柔らかく、ミラー越しの眼差しは確かに芽生を安心させようとしていた。「……京ちゃん」 京介の一言に、芽生がつぶやいたと同時、栄蔵が「大丈夫だ。相良くんはわたしの後継者候補だしな」と微笑んだ。
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43.幸せにするために⑤

「……お孫さんとの対面の場に、お邪魔してすみません。わたくし、芽生さんと結婚を前提にお付き合いをさせて頂いております、相良京介と申します」 低く男らしい柔らかな声に、奈央子が京介をじっと見やる。 そんな京介のすぐ横で、芽生が聞いたことのない京介の丁寧な言葉遣いに目をしばたたかせ、「……京ちゃんが〝わたくし〟なんて……」と思わず小さく呟いてしまったのは仕方がない。 途端、当然というべきか。すぐさま京介の鋭い視線に射抜かれて、芽生はハッとして口をつぐんだ。京介に近い側の耳が熱く感じられるのは、そんな公人然とした余所行きの京介もかっこいいと思ってしまったからだ。 奈央子はしばし言葉を選ぶように黙した後、落ち着いた眼差しでまっすぐに京介を見つめてきた。「……田畑さんから大体のお話は伺っています。――あなたが、芽生が幼い頃からずっと……守って下さっていた方ですね?」 奈央子が、田畑栄蔵を介してどのくらい自分たちの間にあったことを聞いているのか、京介には分からない。分からないけれど、言えることはひとつだと思った。「はい。もちろんこれからもずっと今まで通り――。いやそれ以上に……彼女のことを守り続けていこうと思っています」 多くを語るつもりはない。何なら〝幸せにします〟とすら告げるつもりはなかった。そんなの当たり前のことだし、わざわざ宣言するほどのこともないだろう。だが、自分の中にある揺るぎない決意だけは、目の前の老女へ響かせたつもりだ。 その証拠に奈央子の目に涙が滲み、やがて小さくうなずいた。「……孫のことを……どうぞよろしく、お願い、します……」 芽生が、自分のために泣いてくれる祖母の姿を見て、一度は引っ込んでいた涙をまたしても決壊させる。 京介はそ
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43.幸せにするために⑥

「どっちに似てても不思議じゃないと思いますよ? 芽生はお二人のご子息ご息女のお子さんなんですから。けど……まぁ、ぶっちゃけ俺はどっち似でもこいつのこと、そこいらにいる誰よりも可愛いと思ってるんで関係ないですけどね」 軽く肩をすくめて告げると、奈央子と栄蔵は一瞬だけ視線を交わし、同時にふっと笑みを漏らした。「……そうね」「……そうだな」 二人の年寄りの言い合いを丸く収めるために何の気なしに告げた言葉。京介としてはそれだけのつもりだったのだ。 だが――。 笑い合う栄蔵と奈央子の様子にやれやれ、と安堵の吐息を落とす間も与えられないままに、芽生が「京ちゃん!」としがみ付いてきて驚かされてしまう。「お、オイ、芽生! お前、じいさんとばあさんの前でっ」 ついいつも通りの調子で芽生を諫めた京介に、芽生が満面の笑みで言うのだ。「京ちゃん、今、私のこと、誰よりも可愛いって言ってくれた!」「あ?」 言ったような気もするが、それは不可抗力というやつだ。 そう言い訳しようとした京介に、田畑栄蔵と中村奈央子がニンマリと意地の悪い笑みを浮かべる。「私も聞きましたよ? ねぇ、田畑さん」「ああ、わたしも確かに聞いた」「だよね!? おばあちゃん、おじいちゃん!」 三人にじっと見詰められた京介は、グッと言葉に詰まった。 そうして半ばやけくそ。「あー、くそっ! 可愛いと思ってなけりゃ、嫁になんて望まねぇーだろーがよ」 と吐き捨てた。 その言葉に栄蔵がフッと表情を和らげて言うのだ。「……奈央子さん、実は相良くんをわたしの後継者に、と考えていましてね」「まぁ!」「実はもう本人の了承も得ています」「あ、……おい、じいさん!」「そうじゃよなぁ? 相良くん」「あ? ああ…&hell
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