All Chapters of 組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~: Chapter 171 - Chapter 180

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44.けじめと誓いを胸に①

 中村奈央子へ会いに行った数日後。 京介はいつもの黒いコートを羽織り、無造作にリビングの片隅へ置いてあった紙袋を手に取った。 口の閉じられていないその中に、帯付きの札束が無造作に詰め込まれていたことを、芽生は知っている。 年末、京介の様子がおかしかった日――葛西組組長の葛西了道から極道の世界を追放された折に〝結婚の祝い〟だと言って渡されたと話してくれたその大金のことを芽生はずっと気にしていた。けれど、京介が特にどうこうする気配もないから黙っていた。 時々、愛猫・殿様が袋の中へ入って遊ぼうとするのを阻止するためにちょっとだけ位置を変えたことはあったが、それ以外で触れたことはない。 家にむき出しの大金が放置されている状態というのは庶民の芽生としては非常に落ち着かなかったのだが、元々銀行の預金通帳などを作れない渡世に身を置いてきた京介にはさして特異なことではないようだった。 芽生はせめて京介の部屋の片隅に置かれた金庫へ入れてくれればいいのにな? とは思っていた。でも、そうしないということは、京介がその金を自分のものとして認識していないのかな? とも薄々感じていた。 その、放置されっぱなしだった紙袋を、相良組へ最後の挨拶に行くという今日、当然のように手にした京介の姿を見た瞬間、芽生は悟ったのだ。(……京ちゃん、あのお金は最初から相良組へ持っていくつもりだったんだ) 胸がざわついたのは、葛西組の組長から〝ご祝儀〟として渡されたはずの金を、京介が芽生に何の相談もなく手放そうとしていることが嫌だったからじゃない。もともと芽生はその大金は葛西了道から京介への〝退職金代わりの餞別〟だと認識していたし、芽生には関係のない金だと思っていた。 芽生はただただ、京介が大切な場所を失うことと引き換えに渡されたお金を以って、なによりも大切にしてきた仲間たちと決別しようとしているという覚悟の重さに、胸の奥がぎゅっと縮むような息苦しさを覚えた。その辛さを、殿様の毛並みに顔を埋めてやっと堪える。 京介がもし自分を選んでいなか
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44.けじめと誓いを胸に②

 一方で、三十代半ばの古参が血走った目で前へにじり寄ってくる。「ふざけんじゃねぇ! 女にかまけて組捨てるなんざ聞いてねぇぞ!」 荒々しく吐き捨てられたその言葉に、すぐさま芽生のことを気に掛けてくれたんだろう。佐山がハッとしたように顔を上げ、そんな男に噛みつこうとする。 次々に浴びせかけられる声に、京介はひとつも動じる様子は見せなかったが、代わりにわざと音を立ててすぐそばの机の上へ手にしていた紙袋を乱雑に置いた。 芽生のことを、自分がこうなったことの理由にさせるわけにはいかないのだ。 倒れた紙袋の口から、帯付きの札束が数束雪崩れ出る。 ざわめく視線をよそに、京介は片手でそれを無造作に袋へ押し戻した。 几帳面に整えることもせず、幾束かは口からはみ出したまま机上に残る。 だが、その乱雑さこそが「俺にとってはただの筋のための金だ」と雄弁に物語っているようだった。 男たちの視線が一斉にそこへスッと吸い寄せられ、怒号も涙声も水を打ったように引いていく。 京介自身は何も言葉を発していないのに、一瞬にして場がしん……と静まり返った。 その隙を見逃さず、今まで黙して京介の背後へ控えていた千崎雄二が声を張り上げる。「テメェら、さっきから黙って聞いてりゃぁなに手前勝手にしゃべってやがる! 今後一切うちの組とは無関係な女のことを引き合いに出すことは俺が許さねぇから心しておけ!」 それは、京介は当然のこと、佐山が言いたかったことも代弁する言葉だった。 一瞬だけ京介と視線を合わせた千崎は、その場にいる男達を見回して続ける。「この男はなぁ、もううちの組とは何の関係もねぇ堅気さんだ。別に顔出さなくてもいいところを筋通しにわざわざテメェらのためにここへ来てんだよ。最後くらい黙って話を聞きやがれ!」 低く、しかし事務所全体へ響き渡る一喝に、その場にいた一堂が一斉に背筋を伸ばした。 相良組の面々へケジメをつけに来いと言ったのはほかでもない、千崎だ。(よく言うぜ
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44.けじめと誓いを胸に③

 昼の光の下を吹き抜ける冷たい風が、黒いコートの裾を大きく揺らす。 背中に残る仲間たちの嗚咽も、掲げられた新しい旗の名も、もう自分のものではない。 後ろ髪を引かれなかったといえば嘘になる。だが、京介の歩みは微塵も揺るがなかった。 すべてを手放してでも、芽生と共に生きると決めた男の足取りは、ただ真っ直ぐに前だけを見据えていた――。***  雄相会をあとにした京介は、芽生と殿様の待つマンションへ戻った。 玄関の扉を閉めるなり、靴を脱ぎながら玄関先へ「お帰りなさい」を言いに来た芽生をぐっと腕の中へ抱き寄せる。 マンション内は空調が整っていて玄関先まで温かい。 外から帰ったばかりで冷え切った京介の身体に、芽生の体温はホカホカと心地よかった。足元で殿様が自分だけ仲間外れにされていることを抗議するように二人の足にまとわりついては時折「にゃーん?」と甘え鳴きをする。「……全部、済ませてきた。これで心置きなく、お前と一緒に堅気として歩んでいける」 足元に殿様のしなやかな毛並み、腕の中に柔らかな芽生の温もりを感じながら、京介が芽生に静かな声音で報告した。 強くて優しい……だけどどこか寂しさをにじませた京介からの抱擁に、芽生の胸の奥がじんわりと熱を帯びる。「……京介」 いつもなら〝京ちゃん〟と言ってしまって京介に訂正されてしまうのだけれど、今日だけはスルリと言えた。 京介の胸元へ顔を埋めた芽生に、愛しい男の鼓動がドクドクと……気持ち速く響いてくる。普段の彼なら見せない緊張の名残がそこにあるのだと、芽生は悟った。 ややあって、京介は諸々の感情を押し殺したいみたいに息を吐き、ぽつりと続ける。「……新しい組の名は『雄相会』にするそうだ」「ゆうそう、かい?」 芽生が小首をかしげるから、京介は芽生の手を取り彼女の手のひらへ「雄」「相」「会」
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44.けじめと誓いを胸に④

 京介は寒さなんて感じていないみたいに、黙って煙草の箱を指先で弄んでいた。煙草に触れるのは、精神的に安定させたい事柄があるときの京介の癖みたいなものだというのを芽生は長い付き合いで知っている。電話口ではちょいちょいふかしている気配のあった煙草も、自分や殿様の前では滅多に火をつけることがない。恐らくは、芽生たちに煙を吸わせないよう気を遣ってくれているんだろう。「長谷川たち、まだ来てねぇな」 ポツンと京介がつぶやいたと同時、一台の軽自動車が静かに駐車場へ滑り込んできた。 パールホワイトの車体に大ぶりの花柄があしらわれた限定モデルの愛らしい軽自動車だ。リアガラスには猫のシルエットの小さなステッカーが一枚貼られている。 長谷川将継の亡き妻・咲江が、生前大切にしていた愛車であり、今も長谷川が手入れをして乗り続けている車だ。燃費や性能のことを思えば買い替えた方が絶対いいと思うのだが、それをしないところが何となく長谷川らしいなと京介は思う。 そういう人間だからこそ、京介は長谷川将継という男が好きなのだ。 だが、そんなことおくびにも出さず、京介はそれを一目見るなり、口の端を歪めてニヤリとする。「……おい長谷川、まだそれ乗ってんのかよ。そんな可愛い車、お前には似合わねぇつってんだろ。咲江ちゃんもきっといい加減買い替えて下さいって言ってると思うぞ?」 運転席から降りてきた長谷川は肩を竦め、苦笑を浮かべる。「似合わないのは分かってるが……咲江が気に入って乗っていた車だ。壊れるまでは、私が面倒を見るさ」「そういうもんかねぇ」「お前もそういうタイプだろ」 ちらりと京介の横へ立つ芽生を見つめて目を細める長谷川に、京介は何も言い返さない。 長谷川に続いて車から降りてきた静月が、「あけましておめでとうございます」と律儀に告げてから、将継の横へ寄り添った。「おう、静月ちゃんあけましておめっとさん」 京介が軽く返すのに倣って、芽生も「あけましておめでとうございます」と慌てて付け加える。 
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44.けじめと誓いを胸に⑤

(……京ちゃんや静月さん、長谷川社長のこと、そんな風に思ってたんだ。私も……もし京ちゃんが過去に愛した人の影が出てきたとき、静月さんみたいに考えられるようになれるといいな?) 積み重ねてきた過去があるからこそ、今の京介があるのは確かだ。静月が咲江さんを想う長谷川社長のことを告げた言葉には、そういう響きがあった。自信はないけれど、自分もそんな風に思える人になりたいと、芽生は静月を尊敬のまなざしで見詰めた。「おい、相良、なんでお前が静月に礼を言うんだよ? お前は私の保護者か! 何か気持ち悪ぃーぞ?」「ああ、俺もそう思う」 急に言い合いを始めた長谷川と京介に、思わず顔を見合わせた静月と芽生だったのだけれど……。結局は楽し気に笑い合う二人を見て、やはり仲がいいな? と痛感せずにはいられない。 恋人としての自分と相手との間に二人の関係性が割り込むことは出来ないだろうが、親友(悪友?)としてのふたりの間にもまた、芽生も静月も入り込むことは不可能なのだ。 京介はひとつあごを引き、施設の自動扉へ視線を向ける。「さて、と……。んじゃ、みんな揃ったし、行くか」 京介が芽生に向けて手を差し出してくる。 その手を取りながら、芽生は京介の目の奥に揺れる真剣な光を、しっかりと感じ取っていた。 ――ここを巣立ってからは恐らく初めて。京介は〝堅気〟として比田と対面する。*** 毎月のように慰問しているからだろうか。 勝手知ったる他人の家――施設――ではないが、京介も長谷川も慣れた様子でエントランスのインターフォンを押す。それに応じるように職員のひとりが出迎えてくれた。 「こちらへどうぞ」と案内され、一行は施設長室の扉を開ける。 そこにはここの創設者で今は施設長をしている――比田真理がいて、いつもの穏やかな笑みで出迎えてくれた。「まあまあ、京くんに芽生ちゃん。それに|長谷川
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44.けじめと誓いを胸に⑥

「相良が来てないの、子供たち、残念がってたぞ?」 例年なら京介も長谷川とともに年末の恒例行事の餅つきに参加するところだが、今年は芽生のインフルエンザ騒ぎや、葛西了道からの呼び出し、葛西組自体のごたつきで顔を出すことが出来なかった。 とりあえず、いつも通りもち米は長谷川に託し、餡やきな粉は長谷川が手配してくれる形で餅つきは無事済んだと悪友から報告だけは聞かされていた京介である。 それを指しての長谷川のセリフに、京介が苦笑する。「いや、俺はいつも怖がられてんだろ」 ククッと笑う二人を見て、芽生が懐かしそうに目を細める。「私が子供の頃にも二人が来てくれてたよね?」 芽生の言葉に比田が懐かしそうに目を細める。「そうそう。芽生ちゃんがいたときじゃない? 杵と臼が登場したの。あれも二人からの寄付なのよ」 比田の言葉に芽生が目を真ん丸にする。 そう言えばそんなことがあったなと懐かしさに頬が綻んだ。「静月ちゃんも長谷川にくっ付いてって餅、ついたのか?」 京介が黙り込んでいる静月を気遣って水を向けた。さきほど、比田と〝はじめまして〟の挨拶をしていた時点でそれはないと思っていたが、それ以外で静月を会話に加えてやれるいい方法を思い付けなかったのだ。「あ、いえ……僕は……」「一緒に行こうって誘ったんだがな、静月は家で留守番してたよ」 静月の手をギュッと握って長谷川が言う。「けど、餡子とかの買い出しは付き合ってくれたよな?」「……はい」 静月の言葉に、比田が「まぁ! もしかして今回、餡子ときな粉の他に初めてずんだ餡があったのは朧木さんの影響?」と手をパチンと鳴らした。「あ、はい……。何か色とりどりの方が楽しいかなって思って」 静月の言葉に、比田が「子供たちも大喜びだったわ。有難う」とにっこり笑う。「あ、でも……今日は
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44.けじめと誓いを胸に⑦

 あの時、自分がもっと強く京介に進学を進めていれば……とか、考えても仕方のない〝タラレバ〟に身を焦がしたのは、京介が〝あちら側〟の人間として自分の存在がまるで『陽だまり』への障害になるとでも言いたげに、長谷川社長の陰に隠れる形で〝こっそり〟『陽だまり』へ支援しようとしてくれた時にも感じた思いだ。 極道者と後ろ指を指される身の上になってもなお、京介の中に昔と変わらず優しい心が垣間見えるのに、どうしてそんな子がそういう負い目を感じながら生きなければいけないんだろう? と思い続けてきた。 なんとか彼を〝こちら側〟にすくい上げたいと希ってきたのは嘘偽らざる比田の気持ちだ。 その子が、これまた比田にとって娘のような存在の芽生とともに「彼女を守って堅気として生きる」と言い切る姿を見せてくれるなんて、こんなに嬉しいことがあるだろうか。 芽生を見つめた比田の視線が、ふと芽生の左手に落ちる。 薬指に光る、小さなピンクのチューリップモチーフの指輪。「まぁ……!」 比田は思わず口にし、柔らかな笑みを深めた。「京くんが慰問のたびに芽生ちゃんにだけこっそり渡していた、あのチューリップね!? ……芽生ちゃん、京くんが来たあとは嬉しそうにもらったお花、花瓶に生けてたわよね? あーん。そのお花を誓いの指輪にしちゃうとか、先生、ドキドキしておかしくなっちゃいそう!」 比田のあえての説明口調に芽生が頬を染め、京介の袖をそっと握る。京介はバツが悪そうにほんの少しそっぽを向いた。そんな二人のことを、比田はたまらなく愛しいと思った。 比田は二人を見比べ、ゆっくりと頷く。「先生、本当に安心したわ。……二人なら、大丈夫」 京介は短く「ありがとうございます」と返すと、少し間を置いて言葉を継いだ。「それから……俺は、『さかえグループ』の社長の後継者候補として働いていくことになりました」
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終章.選んだのは、俺だ【Side:Kyousuke.S】①

 俺と芽生の結婚披露宴の日取りが決まった。四月の第一日曜日――大安だ。 ……それは、芽生と俺が初めて会った日でもある。 ちょうど葛西のオヤジから母親が死んだと聞かされた頃だった。 生みの親が死んで悲しいとかそういう思いは全然なくて、むしろやっと自由になれたと思ったのを覚えている。 昔世話になった『陽だまり』への寄付を思い付いたのも、そういうきっかけがあったからだ。 長谷川に頼んで、長谷川建設からの寄付という名目で金を何度か送った頃、比田先生から脅迫まがいの連絡が入った。 顔を出さなけりゃ、支援者名簿に俺の名を出すとかバカなことを言ってきた先生に、そんなことをすれば極道と繋がりのある施設だと思われちまうだろ! と、長谷川のボディーガードという名目で渋々顔を出すようになった初回がその日だったのだ。 初めて会ったとき、芽生はまだ十歳くらいの、端々に幼さを残した少女だった。 表舞台は長谷川に任せ、園庭の片隅で苛立ちまぎれに煙草をふかしていた俺に、恐れた様子もなく「何してるの?」と話しかけてきたのが芽生だったのだ。 キョトンと小首をかしげる様が非力な小動物そのもので、こんな無防備に俺みたいな輩へ声を掛けてきて、この先無事に生き残っていけるんだろうか? と心配になったもんだ。 ちょうどその日、その時たまたま出先で生花店のオープニング記念に、と渡されたチューリップの花を持っていた俺は、それをじっと見つめてくるそのちっこいのに、ホント何の気なし。「やる」 そのまま持っていてもどうせ捨てるだけだしな……と、ぶっきらぼうに差し出した。気を遣って持っていたわけじゃない。ギュッと握っていたせいで、すでに萎れかけてお世辞にも綺麗と言える状態じゃなかった花なのに、その子は一瞬驚いた顔をしてから、ぱぁっと瞳を輝かせた。 軽い自己紹介のあと、「私ね、赤ん坊のときからずっと陽だまり育ちだったの」とあっけらかんと己の生い立ちを話してくれた少女は、「だから私、お花をもらったの、これが
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終章.選んだのは、俺だ【Side:Kyousuke.S】②

あの頃、俺はそのことを〝自ら選んだ道〟だと信じて疑わなかったが、今振り返ってみれば、ただ、追い詰められた先にひとつだけ残されていた道を歩いただけに過ぎなかったと分かる。 けど――芽生とともに生きていく、と決めた時の決意は違う。 あれは紛れもなく、俺自身が自分自身の意思で、葛西のオヤジの意向に歯向かってでも〝選びたい〟と思った道だ。 *** 「京ちゃん!」 純白のウエディングドレスに身を包んだ芽生が、俺の名を呼んでにっこり笑う。 こんな綺麗な花嫁を、俺は今まで一度も見たことがないし、これからも二度とないはずだ。 「京介」 今、周りに人はいない。 何度訂正してもガキの頃の呼び名をなかなか改められない芽生に、俺はコイツのことをいつの間にか〝子ヤギ〟と呼べなくなっていることに気が付いた。 女として見てはいけないという気持ちの表れのように〝子ヤギ〟と呼んで子ども扱いしていた少女はもういない。 芽生の手には、ピンクのチューリップのブーケが握られていた。本数は九本。 そこでふと、先日掛かってきた懐かしい男――『雄相会』会長・千崎雄二からの電話を思い出す。 『ブーケは九本がお勧めだ』 それだけ言って、すぐに切れた。 (――千崎のやつ、記事で見やがったのか) そうでなきゃ、わざわざあんな不可解な電話はしてこないだろう。 あいつらにだけは見られたくないと思っていたのに、クソッ! と舌打ちしながらも、何となく口元が綻んだ。 意味は分かっている。俺だって調べたからな。九本は「永遠に一緒に」を表す本数だ。 不器用な千崎らしい、恐らくは最後のアドバイスだった。 芽生にそのことを告げると、何も聞かずに「分かった」と頷いてくれた。芽生も、昔馴染みからのアドバイスだと分かっていたんだろう。 視線を巡らせれば、式場を彩る花々の中に、数え切れないほどのピンクのチューリップが紛れ込んでいる。 一本一本数えるのは手間だが、俺は知っている。あれは全部で九十九本だ。――それは「永遠の愛」を表す本数らしい。 そういうことが書いてあるサイト
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『組カノ』結婚式裏話〜それぞれの祝福〜【①長谷川将継&朧木静月】

まさか相良のやつがタキシードに袖を通す日が来るとは。 (あいつなら紋付羽織袴で和装な結婚式を挙げると思ってた) その方が〝極道〟らしい雰囲気に感じられた。 だが今のあいつは、長いこと私が知っていた相良組組長ではない。 (ホントに大会社の後継者候補になっちまったんだなぁ) 胸の奥に、なんとも言えない感慨が広がっていた。 長年、肩を並べて生きてきた悪友の晴れ姿だ。やたら高そうなヤクザの幹部といった雰囲気のスーツばかり着ていた男が、今日ばかりはどこの御曹司かと見違えるほど堂々として見える。 「ホント、あいつがタキシードとか、成長したもんだよな」 小声で呟いた私に、隣の静月がくすっと笑う。 「もう……将継さん。相良さんが聞いたら〝お前は俺の保護者か〟ってムスッとしますよ?」 神田さんと相良の指輪交換を見守りながら、静月はそっと自分の薬指を撫でていた。銀色に光るペアリング――私たちも互いに交わした、指輪だ。相良たちみたいに式こそ挙げてはいないが、それでも私は彼を唯一無二の伴侶だと思っている。 *** 式後の披露宴。珍しく控えめに酒を口にしている相良に近づいて声をかけた。 「お前も人並みにこんな儀式を受け入れられるようになったか。ホント、神田さんにメロメロだな」 「うるせぇよ。俺だってやりたくてやったわけじゃねぇ」 不貞腐れたように返す相良の横で、神田さんが心配そうに首を傾げる。 「京ちゃん、結婚式……イヤだったの?」 「あ、いや、別にイヤなわけじゃ……」 途端、柄にもなく慌てる相良に、私は思わず笑みがこぼれた。 「神田さんの綺麗な花嫁衣装が見れて……幸せでたまりませんって、素直に言えばいい」 「黙れ、長谷川」 「もぉ、将継さん、いい加減にしないと」 静月が困ったような顔をして私の袖を引く。相良を困らせまいとするこの気遣い。ホント可愛いな、静月は。 思わず顔が綻んだ私に、相良がニヤリと笑った。 「なぁ静月ちゃん。静月ちゃんも長谷川と式挙げてぇよな?」 「あ、いや、その……」 戸惑う静月の頬が赤くなる。 途端、相良の陰からひょこっと顔を覗かせた新婦の神田さんがぱっと瞳を
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