中村奈央子へ会いに行った数日後。 京介はいつもの黒いコートを羽織り、無造作にリビングの片隅へ置いてあった紙袋を手に取った。 口の閉じられていないその中に、帯付きの札束が無造作に詰め込まれていたことを、芽生は知っている。 年末、京介の様子がおかしかった日――葛西組組長の葛西了道から極道の世界を追放された折に〝結婚の祝い〟だと言って渡されたと話してくれたその大金のことを芽生はずっと気にしていた。けれど、京介が特にどうこうする気配もないから黙っていた。 時々、愛猫・殿様が袋の中へ入って遊ぼうとするのを阻止するためにちょっとだけ位置を変えたことはあったが、それ以外で触れたことはない。 家にむき出しの大金が放置されている状態というのは庶民の芽生としては非常に落ち着かなかったのだが、元々銀行の預金通帳などを作れない渡世に身を置いてきた京介にはさして特異なことではないようだった。 芽生はせめて京介の部屋の片隅に置かれた金庫へ入れてくれればいいのにな? とは思っていた。でも、そうしないということは、京介がその金を自分のものとして認識していないのかな? とも薄々感じていた。 その、放置されっぱなしだった紙袋を、相良組へ最後の挨拶に行くという今日、当然のように手にした京介の姿を見た瞬間、芽生は悟ったのだ。(……京ちゃん、あのお金は最初から相良組へ持っていくつもりだったんだ) 胸がざわついたのは、葛西組の組長から〝ご祝儀〟として渡されたはずの金を、京介が芽生に何の相談もなく手放そうとしていることが嫌だったからじゃない。もともと芽生はその大金は葛西了道から京介への〝退職金代わりの餞別〟だと認識していたし、芽生には関係のない金だと思っていた。 芽生はただただ、京介が大切な場所を失うことと引き換えに渡されたお金を以って、なによりも大切にしてきた仲間たちと決別しようとしているという覚悟の重さに、胸の奥がぎゅっと縮むような息苦しさを覚えた。その辛さを、殿様の毛並みに顔を埋めてやっと堪える。 京介がもし自分を選んでいなか
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