細波鳴矢は日本を代表する大企業のひとつ、『さかえグループ』社長の遠縁だと言っていた。確かに、そんな息子が芽生のような親も分からない施設育ちの孤児なんかに熱を上げているのは、彼の母親的には許せなかったのかも知れない。 でも――。「私が細波さんに好意を抱いてないことは」「あー、逆にそれが問題だった、みたいな?」 ますます意味が分からなくて、芽生は殿様の入った紙袋を持つ手に力を込めた。「芽生ちゃんがさ、僕に靡いてくれてれば万事丸く収まったんだよ? 今日だって危険を冒してまでママに動いてもらう必要なんてなかったんだ」 またしても母親。細波は一体何が言いたいんだろう? そこで車が暗い場所に入る形で停車して、細波が「とりあえず降りようか」と言いながら芽生の腕から紙袋を引っ手繰った。「あっ!」 車に誘い込まれた時もそうだったけれど、そもそも殿様の体調不良を作り出したのは目の前の細波なのだ。そんな男に殿様を奪われて、安心できるはずがない。 芽生は泣きそうになりながら殿様を取り返そうとしたのだけれど、細波はそんな芽生をあざ笑うみたいに殿様が入った紙袋を手にしたままさっさと運転席を降りてしまう。「この子は大事な〝人質〟だよ。あー、猫だから〝猫質〟かな? まぁどっちでもいいんだけど……猫が僕の手の中にいる限り、芽生ちゃんはこの子を置いて逃げたりできないでしょう? 僕が、この子がどうなったって構わないと思ってるのは、さっきの牛乳の件で分かってもらえたと思うし。――ね?」 そこで再度車を降りるよう促された芽生は、薄暗いなりにも照明で照らされた周りを見回した。もしかしたら動物病院に連れて来てくれたのかも知れないという淡い願いは、どう見てもそうとは見えない雰囲気にあえなく砕け散る。「芽生ちゃんはラブホって入ったことある? 実は僕、こういう安っぽいホテルを利用するのは初めてなん
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