そんな彼女の震える腕には紙袋が抱えられていて、中から何ともいえない生臭いにおいが漂ってきた。 「殿様が、殿様がっ」 要領を得ない物言いではあるけれど、京介から大体のことを聞いて把握している佐山は、どうしたものかと思案する。 細波をこのままここへ転がしておくのは得策ではないが、芽生の様子を見ると猫の容態は一刻を争うように思えた。使える車は細波のを入れると二台あるけれど、動かせるのは自分一人だ。しばし考えた佐山は、助手席から芽生の鞄を取って彼女に手渡すと、細波を引きずり起こして車のキーを奪う。そうしておいて、いま芽生が出てきたばかりの後部シートへ細波を転がすと一旦車のドアを閉めた。 「組の車取ってくるから少しだけ待っててくれるか?」 問えば芽生が不安そうに瞳を揺らせたけれど、「走って行ってくるから」と付け加える。言外に〝猫、あまり揺らさない方がいいだろ?〟と含めたのが伝わったみたいに芽生が頷いた。 ダッシュで車を取りに行って芽生の傍へ戻ってくると、ミニバンのリアハッチを開けて細波をそちら側へ移してから、芽生を助手席へ座るよう促す。 いつもなら後部シートに乗せるところだが、細波がリアシートのすぐ後ろにいることを考慮した形だ。 結束バンドで後ろ手に縛ってあるし、芽生に危害を加えることはないだろうが、大事を取るに越したことはない。緊急事態だし、カシラもきっと許してくれるはずだ。「よし行くか」 最寄りの動物病院はここからでもやはり、芽生が探した『みしょう動物病院』みたいで――。 佐山は念のためスマートフォンのナビアプリで行き先をそこへ指定すると、芽生にカシラへ電話を掛けるように言う。佐山が掛けるより、芽生自身から無事を知らされた方がきっと、カシラも安心できると思ったからだ。 *** あと少しで市役所というところで、電話が鳴った。見れば、芽生からで、京介はすぐさま応答する。 『京ちゃ、私……』 電話口で声を震わせ、言葉を詰まらせる芽生に、京介は「無事でよかった」と
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