All Chapters of 組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~: Chapter 91 - Chapter 100

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25.田畑栄蔵①

 車へ乗り込むなり京介が石矢に、市内で一番大きなタバタ総合病院へ向かうよう告げるから、芽生はキョトンとしてしまう。「京ちゃん、どうして病院?」 てっきりそのまま役所へ……な流れかと思っていた。 病院という言葉に、一瞬だけ(もしかしてブライダルチェック?)なんて考えた芽生だけれど、京介がそんな細かいことを気にする人間には思えない。 そわそわと京介を見つめたら、「細波も入籍後、お前をどこかへ連れて行こうとかしてなかったか?」 吐息交じりに言われて、芽生は(そういえば)と思い出す。「ホテルで無理矢理婚姻届を書かされて……細波さん、てっきり目的は果たしたから私のことは御役御免って言ってくれると思ったのに、まだ用があるから付き合ってもらうって……。私と殿様を解放してくれなかったの」 殿様の容態が心配で、一刻も早く自由にして欲しかったのに叶わなくて、芽生は細波の言葉に絶望させられたのだ。 芽生が吐息交じりにそう告げたら、「だろうな」と京介が首肯する。(京ちゃん、どうして細波さんの意図が分かるみたいな物言いをするの?) わけが分からなくて芽生が京介をじっと見つめたら、「今から田畑栄蔵ん所へ行くぞ」 とか。京介がこれまた芽生には予期せぬことを言ってくるから、芽生はますます混乱してしまった。 だってそれは、この町が誇る大企業『さかえグループ』の社長の名前だったからだ。 確か栄蔵は体調が余り芳しくないように報じられていたのを、佐山が自分の送迎に使う車へ持ち込んでいた新聞でちらりと見て、芽生も知っている。 その彼が入院しているのが、いま芽生たちが向かっているタバタ総合病院ということだろうか。 名前からも分かるように、その病院もさかえグループの尽力で出来たものだから、栄蔵が入院していても何ら不思議ではない。(もしかして、京ちゃん、社長の遠縁
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25.田畑栄蔵②

 京介と連れ立って廊下を歩いてくる芽生を認めるなり、彼らはスッと横へ避けると、何の迷いもなく自分たちに道をあけるのだ。 その様に芽生が戸惑っているうちに、京介が「行くぞ」と芽生の手を引いて病室のドアをノックしてしまう。「どうぞ」 中からそんな声が返るなり、京介がなんの躊躇いもなくクリーム色のスライドドアを引き開けるから、芽生はたじたじだ。「あ、あの京ちゃっ……」 それだけならまだしも、今まで京介の背後へ隠れるように付き従っていた芽生の手をグイッと引いて、自分の前へ押し出してくるから。 芽生としては予期せぬことの連続に、半ばつんのめるようにして病室へ足を踏み入れた。 芽生が京介の暴挙に非難がましく背後を振り返るより早く、「もしかして……キミが神田芽生さん?」 電動ベッド上で上半身を起こしてこちらを見つめている老人――田畑栄蔵から声をかけられた。 頭には白いものが多いし、入院中だからだろう。 目の前の老人は、普段メディアで慣れ親しんできた田畑栄蔵より鋭さに欠けているように見えた。 けれど、目の前の彼は少なくとも先日新聞で読んだ記事の内容ほど容体が悪いようにも感じられなくて、芽生はキョトンとしてしまう。 何の心の準備も出来ていないまま、存外間近で大物との邂逅を果たしてしまったのだから仕方ないのだが、投げかけられた質問になかなか答えようとしない芽生を訝るように、京介がポンっと軽く芽生の背中へ触れる。 その感触にハッとしたように芽生が「あ、はいっ。神田芽生です」と背筋を伸ばしたら、栄蔵が大きく瞳を見開くように芽生をじっと見つめながら手招きをした。 その仕草に、自分のような地位も名誉もない小娘が、おいそれと栄蔵へ近付いていいものか分からなくて、助けを求めるみたいに京介を振り返ったら、そっと背中を押されて、『行け』と促される。 なのに京介自身は、誘
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25.田畑栄蔵③

 栄蔵は、跡取り息子の栄一郎に、仕事上のパートナーとしても有益な、申し分のない良家の御令嬢を……と考えていた。 栄蔵の妻である幼なじみの澪は、産後の肥立が悪く、栄一郎を産んですぐこの世を去った。澪を心底愛していた栄蔵は後添いを求めるつもりもなかったから、自分の血を引く人間は栄一郎ただ一人だと心に定めた。そんな大事な一粒種の息子に、栄蔵は専属の乳母――奈央子を付けて世話をさせた。 奈央子には栄一郎と同い年の娘・沙奈がいて、母乳が潤沢に出ることが採用の決め手だった。栄一郎は奈央子の実子・沙奈と一緒に、乳母の乳を飲んで大きくなったのだ。 栄一郎は早くに実母を亡くしていたからか、最初から色々と諦めているみたいにとても従順な子で、父親である栄蔵の言うことに刃向かったことなど一度もない。 だから婚姻話についても、なんの迷いもなく従うものだと思っていた栄蔵である。 だが、栄一郎は一緒に育った奈央子の娘・沙奈にいたくご執心で、初めて栄蔵の言うことに背き、政略結婚を頑なに拒んだ。沙奈と一緒になることだけは、どうしても譲れないと言い張る息子に、栄蔵は奈央子ともども沙奈を栄一郎から引き離した。 それから程なくしてのことだった。栄一郎が泥酔した状態で川へ飛び込み、呆気なく死んでしまったのは――。 当然栄蔵が用意周到に根回ししていた御令嬢との婚姻話は立ち消え、栄一郎の不慮の事故死についても自殺ではないかと実しやかな噂が立った。 栄蔵は息子の死から十数年後、失った栄一郎の代わり。遠縁にあたる細波鳴矢が大学を卒業するのを待って、社長付きの人間として己のそばへ置き、後継者として育て始めた。 鳴矢は従妹――鳴海の息子で、栄一郎の葬儀に参列して以来、やたらと『息子を栄一郎くんの代わりに』と推してきていた。 栄蔵は、鳴海が旦那との離婚後、女手一つで鳴矢を育ててきたことを知っていたし、全く血の繋がりがない人間よりは……と鳴矢を採用して
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26.暗躍する者①

『田畑家を追われたあとに分かったのですが、沙奈は妊娠していました』 かつて乳母として一人息子・栄一郎の傍にいた中村奈央子から、そんな手紙が栄蔵の自宅へ届いたという。 秘書が病院へ持ってきてくれた自宅宛の郵便物のなかに、質素な白い封筒が混ざっていて、裏面の送り主の名を見た瞬間、栄蔵の手は震えた。 おぼつかない手をなんとか制御して開封してみれば、たった一文、それだけがヨロヨロと揺れたたどたどしい筆跡で書かれていた。 栄蔵の知る奈央子は、もっと美しい字を書く女性だったはずだ。長い年月の間に、奈央子とその娘に、一体なにがあったというのだろう? わざわざ栄蔵宛にそんな信書を送ってきた以上、沙奈の妊娠が息子の栄一郎と無関係なはずがない。 それは栄蔵にとって、たった一人の息子がこの世に遺した、唯一無二の忘れ形見へ繋がる糸に思えた。(子供はどうなったんだ?) そのことについては一切触れられていない手紙にヤキモキしつつ、すぐにでも自分自身が動きたかった栄蔵だ。だが、大病を患っているという嘘の手前、自分では身動きが取れなかったから苦肉の策。腹心の者を自分の代わりに送り先住所へ遣ったのだが、果たしてそこは特別養護老人ホームだった。 もしも痴呆などが出ていてまともに話せる状態でなかったらどうしよう? と思いながら、秘書が中村奈央子を訪ねれば、身体こそ不自由になってはいたけれど、幸い頭の方はしっかりしていた。 奈央子が言うには、沙奈の妊娠が分かってすぐ、栄一郎にはそのことを知らせたのだという。 元々生理不純で、便秘気味だった沙奈は、受胎に気付いたときにはすでに十七週目(五ヶ月)を過ぎていた。スカートのウエストがきつくなったのも、体重が少し増えたのも、全て便秘のせいだと思っていたため、気付くのが遅れたらしい。 身に余るほどの手切れ金とともに、もう二度と息子と連絡を取ってはいけないと、携帯の中の栄一郎に関するデータを全て消去させられていた中村母娘だ。恐らく栄一郎の方も同様だったんだ
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26.暗躍する者②

 沙奈はそのニュースを見るなり、「彼は殺されたに違いない」と泣き叫んで、半狂乱になってしまったのだという。「お腹の子に障るから、と言っても駄目でした」 壊れていく娘の腹の中で、中絶の時期を逸してどんどん育っていく胎児。 そんな折だったのだという。 奈央子自身が交通事故に遭い、身体を不自由にしてしまったのは――。 娘と二人で暮らしていくには十分すぎるほどの多額のお金を渡されて田畑家を追われていたから、奈央子が働けなくなったからと言って今すぐ困ることはなかった。 だが、居眠り運転のトラックに撥ねられて、意識不明のまま一カ月近くを過ごしたのち、辛うじて目覚めたものの右半身に障害が遺ってしまった自分では、精神薄弱状態の娘とその腹の子を見ることまでは不可能に思えた。 長い入院生活の中、家に残してきた沙奈のことが気になって堪らなかったけれど、栄一郎が他界してしまった現状では、頼れる人間のあてがない。 相手がある事故だったため、そちらからの保険金も入り、栄蔵から渡された金も含めて金銭的な面にこそ困らなかったのだが、娘と腹の子のことを、誰に頼めばいいのか分からない。 沙奈自身も母親の奈央子が事故に遭い、入院していることを知っているのかいないのか。何の音沙汰もなくて……こちらから電話を掛けてみても一切通じなかった。 そのうち電話自体の電源が切れたのか、無情なアナウンスが流れるようになってしまう。 一刻の猶予もないと追い詰められた奈央子は、怪我が治り切っていないのに病院を抜け出すと、沙奈と暮らしていた家を目指した。 だが、久々に帰った家はもぬけの殻で、沙奈はどんなに探しても見つけることが出来なかった。***「それで……沙奈さんは」 話しの流れから、恐らくそれが自分の母の名だと薄々分かっていた芽生だったけれど、実感が湧かないので〝お母さん〟と呼ぶことは出来なかった。 芽生の言葉に栄蔵が吐息を落
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26.暗躍する者③

 だが、突然鳴矢からの連絡がプツリと途絶え、彼の母親の鳴海とも音信不通になってしまった。 そうこうしているうちに、相良京介と名乗る男から、『あんたの孫娘、連れて行くから』と一方的な連絡が入ったのだ。 故あって、相良京介という男が極道者だと知っていた栄蔵は当然警戒したのだが、メールで送りつけられてきたDNA鑑定書類と、息子の面影を感じさせる芽生の写真を見て、会おうという気になった。「相良さん、あの鑑定書は」「細波鳴海が持ってたもんの写しだ。原本は今、うちの組の者が持ってる」「何故鳴海さんがキミの所へいるのか聞いても?」「そりゃあ、うちの事務所と管理下の店に火ぃ付けたからだ」 京介があっけらかんと告げた言葉に、芽生は思わず「えっ」とつぶやかずにはいられない。「ねぇ京ちゃん、それって……」「放火だ」 今日、京介が慌ただしく家を空けたのはそのせいだったのだと知って、芽生は愕然とする。「皆さんは……」「無事だ」 その言葉に芽生がホッとしたのを確認して、京介が黙して芽生とのやり取りを聞いていた栄蔵へ視線を移した。「実はあんたの可愛い孫もちぃーと前に家へ火ぃ付けられてな。危うく焼き殺されるところだった」 芽生も細波から聞いてあれは放火だったと知っていたけれど、京介がそのことを承知しているのに驚いて瞳を見開いた。芽生からはまだ話していなかったからだ。 それに、焼き殺されそうになっただなんて、大袈裟じゃないだろうか。「もしやそれも……」「ああ、鳴海の仕業だ」「何故鳴海はそんなことを――」 そこでハッとしたように芽生を見つめると、栄蔵が恐る恐る口を開く。「神田さん、キミ、やはり鳴矢とは…&hel
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27.捨てられたんじゃ、ない?①

「もしかしたら|奈央子《なおこ》さんには何か予感めいたものがあったのかも知れんな」 ふいに落とされた|栄蔵《えいぞう》のつぶやきに、|芽生《めい》は目の前の老人を見詰めた。「わたしが死にかけているというニュースを観て、居ても立っても居られなくなったと言っていたそうだから」 |細波《さざなみ》|鳴矢《なるや》を跡継ぎ候補から外そうと考えた栄蔵は、病床へ鳴矢を呼んで告げたのだ。『わたしには遺産を相続させるべき人間がいない。縁あってお前をわたしの跡目にしようとうちへ引き入れたのはわたしの判断だ。だが数年かけてお前を育ててみて分かったが、お前には上に立つ人間としての素質がない』 そこまで言ったときに見せられた鳴矢の|歪《ゆが》んだ顔が、栄蔵には忘れられない。それはそうだろう。自分にはさかえグループのトップの地位が約束されていると思っていたんだろうから。だが、栄蔵にはグループの皆を守る責任がある。鳴矢にもう少し上へ立つ者としての品位や知性が備わっていたならばあるいはと思い、目を掛けてきたつもりだったのだが、何年かけても|及第点《きゅうだいてん》に遠く及ばなかった。残念だが、血縁にこだわって鳴矢をトップに据えるのはリスクが高すぎると判断せざるを得なかったのだ。(息子さえ生きていれば……) そう思わなかったわけがない。|栄一郎《えいいちろう》にも全く問題がなかったわけではないが、親としての欲目を差し引いても、鳴矢より遥かに優れた素質を持っていた。『なんの補償もなくその地位を|剥奪《はくだつ》するのはさすがに忍びない。だからな、鳴矢。わたしが死んだら、財産の十分の一は跡継ぎ候補から外す代償として、お前にいくよう遺言状を書き直した』 残りは会社へ。 もともと栄一郎が亡くなった時、会社へ一〇〇%引き渡すつもりだったものを、十%ほど差し引いて鳴矢へ渡す。それが、栄蔵に出来る精一杯の譲歩だった。 栄蔵の遺産は、十分の一でも彼とその母親がつつましやかに暮らしていくには申し分のない額だ。 仕事だって配置転換はしても解雇するわけではない。鳴矢さえその気であれば、さかえグループ社員としての立場は保障するつもりだ
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27.捨てられたんじゃ、ない?②

 だが、もうそんなことを言っていられる状況ではない。 奈央子の話によると、|栄一郎《えいいちろう》は亡くなる直前、沙奈との間に子が出来たのを喜び、|栄蔵《ちちおや》を説得すると意気込んでいたという。 だとしたら息子の死因は、自殺であろうはずがない。 腹心の者が奈央子の元から帰ってきてすぐ、栄蔵は|鳴矢《なるや》を呼んで、一か八か。『栄一郎が残した子供がどこかで生きているかも知れない』と|鎌《・》|を《・》|掛《・》|け《・》|た《・》。『わたしはその子を探し出すつもりだ。もし可能ならお前にも力を貸して欲しい』と。 栄蔵の言葉を聞いた鳴矢は、真っ先に遺言書が書き換わるか否かを聞いてきた。 それはそうだろう。 鳴矢にとってはそれが一番気掛かりなのだろうから。 栄蔵は鳴矢に『書き換えることにはなるが、|お《・》|前《・》|へ《・》|の《・》分配金額は|変《・》|わ《・》|ら《・》|な《・》|い《・》よう配慮する』と答えた。『|書《・》|き《・》|換《・》|え《・》|る《・》|の《・》|は《・》|会《・》|社《・》|へ《・》|残《・》|す《・》|額《・》|の《・》|方《・》だから』と。 鳴矢は上に立つ人間としての器でこそなかったが、頭が悪いわけではない。きっと、それだけで|残《・》|り《・》|の《・》|九《・》|割《・》|が《・》|孫《・》|娘《・》|に《・》|い《・》|く《・》可能性を考えたはずだ。 栄蔵は、それに思い至った鳴矢がどう動くかを注意深く観察するつもりでいた。 孫が男の子か女の子か、鳴矢へ告げなかったのも|わ《・》|ざ《・》|と《・》だったが、鳴矢はそれを|何《・》|故《・》|か《・》|訊《・》|い《・》|て《・》|こ《・》|な《・》|か《・》|っ《・》|た《・》。その時点でグッと鳴矢への不信感が高まったのは言うまでもない。 奈央子から沙奈のお腹にいた子は女の子だったと報告を受けていた栄蔵は、唯一の法定遺産相続人である子が、結婚適齢期の異性だと知った場合、鳴矢がどう動くか……何となく察しがついていた。 孫が|無《・》|事《・》|見《・》|つ《・》|か《・》|ら《
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27.捨てられたんじゃ、ない?③

(あやうく、栄一郎と沙奈さんの二の舞になるところだったじゃないか) 芽生が幼い頃から傍にいたという|相良《さがら》|京介《きょうすけ》が、もしも芽生を守ってくれていなかったなら、可愛い|孫娘《この子》はいま自分の目の前にいてくれただろうか? 奈央子から連絡があるまで、自分に孫がいることすら知らなかった栄蔵が、鳴矢の行動から割り出した孫娘と|思《おぼ》しき女の子へ監視役を付けられたのは、本当につい最近のことだ。だが栄蔵が頼んだ人間は、相良ほど芽生に対して親身になってはくれなかった。そればかりか、芽生がヤクザ者と関わっているというだけで尻込みするような役立たずだった。 芽生の|傍《かたわ》らにいつも相良がいたことが裏目に出たといえばそれまでだ。だが彼がいたことで救われたことの方が多かっただろうことも理解している栄蔵は、相良に対して恩義すら感じている。 最愛の息子には相良のような頼れる存在がいなかったから……あんな悲劇的なことになったのではないだろうか。 そうして栄一郎に手を掛けたかもしれない|鳴海《なるみ》が、自分の息子をいけしゃあしゃあと栄一郎の|後釜《あとがま》に|推《お》してきたと思うと、|反吐《へど》が出そうだ。 |細波《さざなみ》|母子《おやこ》がここまで汚い人間だと知ってしまった今となっては、相良のような存在も必要悪に思えた。 思い起こせば、全てが後手ばかり。後悔の連続な栄蔵なのだ。そんな自分がもう二度と同じ|轍《てつ》を踏まないためにしなければならないことはただひとつ。 今現在、|栄蔵《じぶん》の目の前にいる孫娘を守るため、細波|母子《おやこ》に断固とした処置を――。 きっと芽生のすぐ横にいる|相良《さがら》|京介《きょうすけ》は、|細波《さざなみ》|母子《おやこ》がしてきた全てのことを知っているはずだ。 |堅気《かたぎ》ではない彼らの手にそんな二人の命運が|委《ゆだ》ねられているというのなら、自分は秘密裏にでも相良京介が属する団体をバックアップしようではないか。 そんなことを考えていたら、今まで想い詰めたように押し黙っていた芽生が、ポツンとこぼした。「
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28.同じ轍(てつ)①

 家族の愛なんてものを受けたことのない自分が、芽生に家族愛を語る。(シュール過ぎんだろ) ひとり心のなかでごちながら、京介は自分には得られなかったものを、芽生には持っていて欲しいと希わずにはいられない。なにせ、芽生はそれを得るチャンスが与えられたのだから。 腕の中で小さく肩を震わせて泣く芽生を抱き締めながら、京介はそんなことを思う。 ふとそこでベッド上の栄蔵と目が合って、なんとなくバツが悪くなった。 今まで芽生には身内なんていないと思っていたから、自分が彼女の保護者代わりだとばかりに過保護全開で接してきた。だが、血の繋がった祖父母が見つかったとあっては、自分はお役御免ではないだろうか。「京ちゃん?」 そんな気の迷いから腕の力が緩んで、芽生を不安にさせたらしい。すぐ間近から芽生に見上げられて、京介は一瞬だけ芽生に掛けた手指へ力を込めてから、芽生を栄蔵の方へ手放すみたいに押しやった。「爺さんにも甘えてやれ」 むしろ今からはそうシフトチェンジしていくべきだ。 京介の言葉に栄蔵が「おいで?」と両腕を広げるのを見た芽生が、京介を振り返ってオロオロとする。京介は再度自分の傍から遠ざけるみたいに芽生の背中をトンと押して栄蔵の方へ促すと、自分は一歩後ろへ下がった。 芽生が恐る恐る「おじい、ちゃん?」と呼び掛けながら栄蔵の方へ歩み寄るのを眺めながら、京介は二人が二十数年分の時間を埋めていけばいいと願う。 栄蔵は芽生の呼び掛けに何度も何度も頷きながら、「芽生」と初めて孫のことを下の名で呼んだ。*** 先程相良京介が孫娘にさらりと『親父さんやお袋さんの命を奪った』と表現したとき、栄蔵はかなり驚かされた。思わず孫の背中越し。芽生を慰める男をじっと見つめてしまったほどだ。 だが栄蔵がハッキリ告げていなくても、芽生は話の内容からそういうことを何となく感じ取っていたんだろう。そこについては一切言及してこなかった。
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