路面の轍にタイヤが取られるたび、車体が大きくバウンドする。 その振動が伝わるたびに、千隼の喉の奥から痛みを堪えるような微かな音が漏れた。「母さんはね、その村を捨てるようにして東京に出てきたの」 沈黙を埋めるように、私は口を動かし続けた。 自分の不安を誤魔化すためでもあった。 隣に座る巨大な体温が、このまま永遠に冷え切ってしまうのではないかという恐怖を、声帯を震わせることで必死に押さえ込もうとしていた。「何もない、退屈な場所だって笑ってたわ。……でも、一つだけ、記憶に残ってるものがあるって」「……それは……?」「大きな、柘榴(ザクロ)の木。家の門の横に、血みたいに赤い実をつける木があるって。……だから、それを見つければ、家はわかる」 千隼は何も答えない。 ただ、握りしめられた手から伝わってくる熱と、かすかな脈動だけが、彼がまだこちらの世界に踏みとどまっていることの証明だった。 ギュガッ、ギュガッというワイパーの音だけが、等間隔で時を刻んでいく。 どれだけの時間が経ったのか。 燃料メーターの針が赤いラインに触れそうになった頃、フロントガラスの向こうの景色が不意に開けた。 切り立った崖に沿うように作られた細い道の先に、すり鉢状になった小さな盆地が見える。 濃い霧が底の方に溜まり、数軒の古びた家屋の屋根が、灰色の海に浮かぶ島のように点在していた。 村だ。「着いたわ。……千隼、聞こえる? 着いたのよ」 手を強く握ると、ピクリと指先が動いた。 私は道幅が少し広くなっている路肩に軽バンを寄せ、サイドブレーキを強く引いた。 エンジンを切ると、車内に満ちていた騒音が嘘のように消え去る。 代わりに、屋根を叩く雨音と、遠くで鳴る水路の水音だけが、耳鳴りのように響いてきた。 ドアを開け、外に出る。 山越えをしたせいか、気温は先ほどよりもさらに低くなっていた。 吐
Last Updated : 2026-03-09 Read more