自分を、ただの切り捨てるべき「重し」として。 プツン、と。 私の中で、何かが焼き切れる音がした。 恐怖も、焦燥も、冷たい雨の感覚すらも、すべてが真っ白に塗り潰されていく。 腹の底から、どろりとした、マグマのような熱い怒りが込み上げてきた。「……ふざけないで」 低く、震える声が出た。 自分でも驚くほど、冷え切った声だった。 千隼の虚ろな瞳が、わずかに揺らぐ。「お、嬢……?」「誰が、置いていくって言ったの。誰が、あなたを捨てるって言ったのよ」 私は、止血のために押し当てていた両手を離した。 べっとりと血に染まった自分の手のひらを、暗闇の中で見つめる。 冷たい。 彼の命の熱が、私の手から滑り落ちていく。 そんなこと、絶対に許さない。「お嬢は助かるって……私が、あなたを切り捨てて生き延びて、それで『論理的でよかった』なんて、私が本気で納得すると思っているの! ?」 声が裏返った。 怒りだけじゃない。どうしようもない悲しさと、彼に伝わらないもどかしさが、ぐちゃぐちゃに混ざり合って爆発しそうだった。「俺は……貴女の、盾だから……」 千隼が、うわ言のように繰り返す。 それが、彼の世界を構成するすべてなのだ。私を守り、私のために死ぬこと。 狂犬と呼ばれるこの男にとって、己の命の価値など、私の靴の裏の泥ほどにも等しい。 私は、血まみれの右手を高く振り上げた。 迷いはなかった。 パァンッ! ! ! 雨音のする廃屋に、鼓膜を裂くような乾いた打撃音が響き渡った。 叩きつけた手のひらに、強烈な痺れが走る。 千隼の顔が、勢いよく横へ弾き飛ばされた。 音が消えた。 屋根から落ちる水滴の音だけが、やけに大きく聞こえる。 私は、肩で大きく息をしながら、殴り飛ばした自分の右手を強く握りしめた
Last Updated : 2026-03-07 Read more