警戒しながら、ゆっくりとドアを押し開ける。 室内は真っ暗だった。ブラインドが下ろされ、街の光すら入ってこない完全な闇。 紅はポーチから小型のペンライトを取り出し、スイッチを入れた。 細い光の束が、オフィスの空間を切り取る。 スチール製のデスクが数台、無造作に並べられている。壁際にあるキャビネット。観音の情報によれば、あの奥にある隠し金庫にデータが入ったドライブが保管されているはずだ。 ジャスミンの香りが、冷え切ったオフィスの空気に絡みつく。 紅は足早にキャビネットへと向かった。 ペンライトの光を当て、キャビネットの裏側に隠された金庫のダイヤルを探る。 だが、指先が冷たい鉄板に触れた瞬間、彼女の背筋に、ぞわりとした違和感が走った。 埃だ。 キャビネットの表面にも、金庫のダイヤルにも、分厚い埃が積もっている。指でなぞると、くっきりと跡が残るほどに。 不来方の重要な証拠が保管されている場所が、こんなにも長期間放置されているはずがない。特捜部との裏取引のデータなら、頻繁に出し入れされているはずだ。 指先が、微かに震え始める。「……何よ、これ」 ダイヤルを回そうとした手が、空中でピタリと止まる。 その時だった。 ガチャンッ! 背後で、重厚な金属の扉が閉ざされる音が響いた。 同時に、オフィスの天井の蛍光灯が、バチバチと音を立てて一斉に点灯した。 強烈な白い光に、紅は思わず目を細め、ペンライトを落としそうになる。 視界が白く飛んだ状態から、徐々に焦点が合っていく。 彼女の心臓が、肋骨を突き破りそうなほど激しく跳ね上がった。 エントランスのドアの前に、五人の男たちが立っていた。 全員が揃いのダークスーツに身を包み、耳にはインカムを装着している。不来方の私兵たちだ。 彼らの手には、冷たい金属の光沢を放つ自動拳銃が握られ、その銃口はすべて、壁際で固まる紅の身体に向けられていた。「……動くな」 先頭に立つ大柄な男が、感
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