私は部屋の隅に置かれていた安っぽい合板のテーブルへ歩み寄り、そこに放置してあった古いノートパソコンの電源を入れた。 このセーフハウスに備え付けられている、外部のネットワークから完全に物理遮断されたスタンドアローン端末。 ブゥゥゥン……。 寿命の近い冷却ファンが、苦しげなモーター音を立てて回り始める。 暗い部屋の中に、液晶ディスプレイの青白い光が四角く浮かび上がった。 冷たい光が、背後に座る千隼の顔の輪郭を鋭く削り出す。 ポートにUSBメモリを差し込む。 カチリという微かな感触。 画面上に、幾重にも暗号化されたフォルダのアイコンが並んだ。 金庫室の端末で一度プロテクトは解除してある。キーボードに指を置き、パスワードの文字列を打ち込んでいく。 ターンッ。 エンターキーを叩くと、黒い画面に、無数の数字と文字の羅列が濁流のように流れ始めた。 不来方玄が、十数年にわたって構築してきた裏社会の金脈と、血塗られた歴史。「……お嬢」 背後から、衣擦れの音が近づいてきた。 千隼がテーブルの横に立ち、私の肩越しに画面を覗き込む。 彼から放射される熱気が、背中をじりじりと焦がす。アルコールのツンとした匂いと、獣の体臭。「これが、不来方の裏帳簿……」「ええ。これさえあれば、あの男が特捜部と裏で繋がって、久遠の資金をどうやってロンダリングしていたか、すべて証明できる。……あなたの過去の誓約書も、これで無効化できるわ」 私はマウスのホイールを回し、大量のテキストファイルの中から、特捜部の捜査官たちの名前がリストアップされたスプレッドシートを開いた。 画面をスクロールしていく。 日付、金額、そして、架空のダミー会社の口座番号。 だが。 その資金の流れの『終着点』を示す項目に目を落とした瞬間、私の指がマウスの上でピタリと凍りついた。 心臓が、嫌な音を立てて大きく跳ねる。「&hellip
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