まつ毛の先からこぼれ落ちた冷たい雨粒が、むき出しのコンクリートの床で小さな飛沫を上げて弾けた。 それを合図にしたかのように、張り詰めていたフロアの空気がビリッと微小な振動を起こす。 数メートル先。 銀色の自動拳銃を構えていた観音の右手が、ほんのわずかに揺れた。 銃口の先が、数ミリだけ下がる。完璧に計算されたはずの立ち姿に、初めて生じた物理的なブレ。「……外壁を、よじ登ってきただと?」 銀縁眼鏡の奥の瞳が、血と泥に塗れた千隼の姿を舐め回す。信じられないものを前にした、いや、信じたくない現実を突きつけられた苛立ちが、その滑らかだった声の端々をささくれ立たせている。「馬鹿げている。三十階以上の高さを、その潰れた右腕で。……途中には足場もない区画があったはずだ。物理的に不可能だ」「……あぁ、そういや、途中で鉄骨が途切れてたな」 千隼は、左手に握った折れたナイフの柄を弄りながら、喉の奥でくつくつと低く笑った。 笑うたびに、左肩に開いた弾痕からどす黒い血がごぼりと溢れ出し、雨水に混じって足元へと流れ落ちていく。「どうやって登ったのか、教えてやろうか」「聞きたくもない。……ただの蛮行だ」 観音は忌々しげに吐き捨て、銃を構え直した。 黒服の部下が差し掛けている傘の下で、シルバーグレーのスーツは雨粒一つ浴びていない。足元の革靴すら、泥の跳ね返りを完璧に避けている。 対する千隼の有様は、言葉にするのも憚られるほど凄惨だった。 呼吸のたびにゼイゼイと湿った音が鳴り、肺に溜まった血が空気に触れて鉄錆の匂いを撒き散らしている。 それでも、目の前に立つ広い背中からは、圧倒的な熱量が放射されていた。 冷たい横風が吹き抜けるたび、火傷しそうなほどの体温が私を包み込む。「千隼……」 震える指先で、引き裂かれたタクティカルジャケットの裾を掴む。 千隼は振り返らずに、自分の腰の後ろに左手を回し、私の冷え切った指
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