地下特有の淀んだ空気と、鼻の奥を突き刺す強烈な消毒用アルコールの臭い。 硬いリノリウムの床を、ストレッチャーの車輪がけたたましい音を立てて転がっていく。「急げ! バイタル低下、ルート確保急げ!」 白衣を着た男たちの怒号が飛び交う。ストレッチャーの上には、雨と血にまみれた細い身体が横たわっていた。酸素マスクで顔の半分が覆われ、わずかに覗く皮膚は蝋細工のように青白い。 ストレッチャーの金属パイプを握りしめ、並走する。 自分の靴底が滑るのも構わず、ただその小さな手を離すまいと必死に指を絡めていた。手のひらから伝わってくるはずの熱が、恐ろしい速度で失われていく。「お嬢……っ、お嬢……!」 喉の奥から絞り出した音は、自分でも驚くほど掠れ、ひび割れていた。 目の前に、分厚い両開きの金属扉が立ちはだかる。「ここまでです! 離れてください!」 緑色の手術着を着た男が、ストレッチャーのパイプを握る腕を乱暴に払いのけようとした。 普段なら、触れられた瞬間にその腕を関節からへし折っていただろう。だが今は、指先に力が入らない。弾かれるようにして指が解け、ストレッチャーは無機質な手術室の中へと吸い込まれていった。 バタン、という重々しい音とともに、扉が閉ざされる。 頭上にある四角いランプが、血のような赤色に点灯した。「……あ……」 唇から漏れたのは、意味を持たないただの空気の塊だった。 伸ばしかけた右手が、空を切る。 閉ざされた金属の扉に掌を押し当てた。ひんやりとした温度が、皮膚の表面から急速に体温を奪っていく。 さっきまで腕の中にあった重み。 生ぬるい液体の感触。 それらが突然、何の前触れもなく空間から切り取られてしまった。 膝の力が抜け、ずるりと扉を滑るようにして、冷たいリノリウムの床にへたり込んだ。 天井の蛍光灯が、ジージーと耳鳴りのような低い羽音を立てている。 荒い呼吸だけが、妙に大きく反響して
Ler mais