All Chapters of 茜色の空、追憶の彼方: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

美希は振り返ると、口元に笑みを浮かべた。「家にいても特にすることもないし、みんなにお腹いっぱい食べてもらいたかったから。大したことじゃないよ」テーブルいっぱいの料理と、楽しそうに食事をしている二人の息子、そして優しく微笑む美希の姿に、部屋に入ってきた英樹の胸は温かくなった。英樹は美希の腰を抱きしめた。「お疲れ様、美希」「ううん、そんな大したことじゃないよ、英樹。あなたたちのことは私がするって言ったでしょ?だから気にしないで」美希はそう穏やかに言うと、英樹の頬にかかった髪を優しく払った。「あなたも早く食べて」「ああ、そうだな」英樹は頷き、上着を脱いで椅子の背もたれにかけた。そして何気なく口を開く。「紗良はまだ降りてこないのか?」英樹が言い終わるか終わらないかのうちに、真司が言った。「ママはもういないじゃん!パパ忘れたの?」「今は美希ママだけだよ!」と、浩平も言った。英樹はその時になってようやく、紗良がもういないことを思い出した。しかし、紗良が家を出ていったという事実にまだ慣れていない。その話を聞くたびに、あれほど自分を愛してくれた紗良が本当にいなくなるなんて、いまだに信じられない気持ちになるのだった。英樹の動きが一瞬止まる。何かを思い出しているようだったが、すぐに何でもないようにその話題を流した。しかし、その反応を美希は見逃さなかった。夜、英樹が部屋に入ると、すぐに暖かく滑らかな体が抱きついてきた。「英樹。紗良のこと忘れられないの?大丈夫、彼女ならどうせすぐに戻ってくるわ。だからせめて、この数日だけでも、あなたは私のものだって思わせてくれないかな?」美希が不満そうに言う。「美希、俺はずっとお前のものだよ」長年想いを寄せてきた女性にそんな顔をさせたくなくて、英樹は美希を強く抱きしめた。紗良を思い出した時の違和感は、もう頭の隅に追いやられていた。美希は薄いシルクのネグリジェを一枚まとっているだけだったので、美しい体のラインがはっきりと分かった。彼女の手が英樹の体を這うと、彼の喉仏がごくりと鳴る。下腹部に美希が触れようとした瞬間、英樹はかすれた声でその手を掴んだ。「美希、お前が誘ってきたんだからな」そう言い終わるやいなや、英樹は腕の中の美希を抱き上げ、ベッドに押し倒す。衣服が無造作に床に投げ捨てられ、すぐに
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第12話

「美希ママ、何か作ってくれない?」と真司が言った。「でも、もうこんな時間よ。朝になればお手伝いさんが朝食を作ってくれるじゃない?朝まで待てないの?」美希は動こうともしなかった。「でも、お腹がペコペコなんだ。美希ママ、もしかして僕たちのこと嫌いになったの?作ってくれなかったら。パパに言いつけるから!」浩平は真司の服をぎゅっと掴んだ。二人はただ、美希の手料理をもう一度食べたかっただけだった。しかし、それを聞いた途端、美希の顔色が変わった。美希はベッドから起き上がると、二人の子供たちの目の前に歩み寄った。自分の言葉が届いたのだと、浩平は思った。しかし、浩平が笑みを浮かべた瞬間、美希は躊躇わずにその頬をひっぱたいた。真司はびっくりして、大声で叫ぶ。「美希ママ、どうして浩平を叩くんだよ!」しかし、その次の瞬間には、真司の頬も叩いた。子供の肌は柔らかく、痛みにも弱い。美希の一撃は、真司と浩平の頬を赤く腫れ上がらせるのに十分だった。二人の目に涙がたまる。しかし美希は気にも留めずに言った。「英樹の前で余計なことを言ったら、どうなるか分かるわよね?ご飯抜きだけじゃ済まないから。いい?」真司と浩平の目には、美希が恐ろしい悪魔のように映った。二人は逆らうこともできず、ただ頷いて、彼女の言葉に従うしかなかった。その時、階下から物音が聞こえた。「美希、真司、浩平、ただいま」英樹がドアを開けて帰ってきた。美希は一瞬慌てたが、すぐに二人を鋭く睨みつける。「さっき言ったこと忘れないでよね。英樹の前で変なこと言わないように」真司と浩平は頷き、美希の後ろについて部屋を出た。二人は英樹に、何かがおかしいと気づいてほしかった。しかし、英樹の視線は終始、美希にだけ注がれていて、二人が顔を覆っていることには全く気づかなかった。英樹が書斎に戻ってしまい、二人の希望は打ち砕かれた。二人は自分たちの部屋に戻るしかなかった。しかし、浩平と真司も、そう簡単におとなしくなるような子供ではなかった。真司は頬を膨らませて言った。「パパの部屋に行こう。直接話せば、きっと信じてくれるはずだよ!」浩平が付け加える。「それに、美希ママがいない時にしなきゃ。あの人は僕たちのママなんかじゃない、悪い人だ!」「うん。あの悪い女がパパの部屋にいない時を狙って行こう」
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第13話

「悪いママ!」「美希ママは悪いママだ!」真司と浩平は美希を指さして言った。美希はベランダから入ってきた。英樹の前に来たときには、もう目を真っ赤にしていた。「英樹、真司くんと浩平くんがこんなふうに私を悪者にするなんて……私がこの子たちを叩くわけないでしょ?」美希が下唇を噛む。英樹は少し躊躇してから言った。「じゃあ、一体どういうことなんだ?」「真司くんと浩平くんが学校に行きたくないって言うから、説得したの。そうしたら、この子たち自分で自分の顔を叩いて……こうして怪我をすれば、あなたがきっと休ませてくれるって」そう言うと、美希の赤い目は潤んできた。「あなたに心配かけたくなくて、このことは黙っていたんだけど。まさかこの子たちが、私に仕返しするためにこんなことをするなんて……」美希はそれ以上言葉を続けなかった。でも、その可哀そうな様子が全てを物語っていた。英樹は真司と浩平の方を向き、怒りを露わにする。「お前たち、美希のせいにするつもりか!美希がお前たちに言ったことは正しい。まだ小さいというのに、もう嘘を覚えたのか!」「違うよ、パパ!」真司は叫んだ。「美希ママだよ!本当に美希ママが僕たちを叩いたんだ!ご飯も食べさせてくれなかったんだよ!」浩平は泣きじゃくった。「悪い女だ!僕たち、嘘なんてついてない!」しかし、1日中会社で仕事に追われていた英樹には、息子の泣き声がただうるさく聞こえるだけだった。英樹は使用人を呼び、真司と浩平を部屋に連れて行って閉じ込めるよう命じた。そして、しっかり反省しろと言い放つと、美希を腕の中に抱きしめる。「すまない、美希。辛い思いをさせたな」英樹は申し訳なさそうに言った。「ううん、大丈夫。真司くんも浩平くんもまだ小さいんだもの。ちょっと悪いことを考えちゃうのも仕方ないわ」美希は慈悲深そうな表情をし、涙を拭った。そして、美希は英樹にどんどん近づいていく。鮮やかな赤い唇が重なり、二人は夢中で求め合った。もう言葉は必要なかった。誘惑された英樹は、下腹部に熱を感じた。彼は美希をベッドに押し倒し、遠慮なく彼女を堪能する。一方、隣の部屋では、真司と浩平が空腹と怒りに震えていた。それに、隣の部屋から聞こえてくる英樹と美希の絡み合う声に、二人の子供は気を失いそうで、顔は涙でぐしょぐしょだった。「ママに
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第14話

「行ってくる。最近忙しくてごめんな。近いうちに必ず埋め合わせするから」英樹は美希にそう告げて、会社へ向かった。リビングでは、真司と浩平がびくびくしながら朝食を食べていた。英樹が家を出た途端、美希の表情が豹変した。彼女は真司と浩平の前に立つと、冷たい笑みを浮かべる。「昨日、英樹の前で余計なことを言うなって言ったわよね?聞いてなかったの?なのに早速告げ口するなんて」美希は真司の胸ぐらを掴んだ。まだ幼い子供に抵抗する力はなく、ただ怯えるばかりだった。「この悪者め!」浩平は真司を助けようと、手に持っていたフォークを美希に投げつけた。しかし、その行動が美希の怒りにさらに火をつける。どうせ英樹はいない。それに、この子たちは紗良が産んだ子供……将来、自分が英樹との間に子供を産んだら、この子たちが財産を奪い合うことになるのではないか?そう考えると、美希が二人に向ける眼差しは、さらに冷え切ったものになった。彼女はキッチンで熱した油をスプーンですくうと、浩平を押さえつけた。そして、無理やり口を開かせ、その熱い油を流し込む。途端に、子供の悲鳴が家中に響き渡った。浩平の舌や食道はすぐに火傷で水ぶくれができて赤く腫れ上がり、血まで滲んでいた。使用人が慌てて止めに入る。「野村様、浩平様になんてことを!」「邪魔!」美希は使用人を突き飛ばした。そして、もう一度熱い油をスプーンにすくい、真司の髪を掴んだ。真司は唇を固く結んで口を開けようとしなかったので、頭のてっぺんから油を直接浴びせかける。肌が焼ける匂いが立ち込め、真司は痛みで絶叫し、床を転げ回った。美希は冷たい目つきで二人を見下ろし、スプーンを投げ捨てた。もし今ここで殺してしまえば、英樹に怪しまれてしまう。だから、ゆっくり時間をかければいい。どうせ、この鈴木家はいずれ自分のものになるのだから。そう思うと、美希は口の端を吊り上げた。「次に英樹に告げ口したら、こんなんじゃ済まないからね」真司は嗚咽しながら頷いた。浩平は口の中が焼け爛れて話すこともできず、ただ泣き続けるだけだった。その泣き声に美希は苛立った。「まだ泣き止まないなら、もっと熱い油を飲ませてやるわよ!お腹が空いてるって言ってたでしょ?」美希に睨まれると、二人の子供はすぐに声を出すのをやめた。ただ静かに涙を流すその姿は、かつ
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第15話

秘書はUSBメモリを差し出して言った。「野村さんがした他のことについても調べました。お子様に……手を上げたことも、この中に入っています」真司と、浩平に……英樹はひったくるようにUSBメモリを受け取ると、パソコンに差し込んだ。映像が再生されていくにつれて、心がどんどん冷え切っていく。自分がいない間に、美希がこんなことをしていたなんて。昨日、真司と浩平が訴えてきたのに……自分はなんて馬鹿だったんだ。あの子たちを信じないで、美希の言葉を信じてしまうなんて。紗良の時だってそうじゃなかったか?あの時すぐに真相を調べればよかったのに、美希の言葉を信じたせいで、今までずっと気づけなかった。その瞬間、英樹は心臓を大きな手でぎゅっと握りつぶされたような、息苦しさを感じた。するとスマホが鳴った。出たくなかったが、相手が学校の先生だったので電話をとる。「真司と浩平に何かあったんですか?」と、英樹はなんとか冷静を装って尋ねた。「いいえ。お休みのご連絡をいただいた時、真司くんと浩平くんがどんな病気なのかとか入院しているのかなど、詳しいことを伺っていませんでしたので。それに、クラスのみんながお見舞いに行きたがっているので、少し確認させていただきたく思いまして」先生が優しく言う。しかし、その言葉に英樹の心臓はどきりと跳ねた。真司と浩平は学校に行っていない。つまり、今も家で美希と一緒にいる。学校を休ませたのも、間違いなく美希だ。ガシャンと大きな音がして、英樹は思わずテーブルの上の花瓶を叩き割っていた。「鈴木さん、どうかなさいましたか?」先生が不思議そうに尋ねた。「ええ、少し急用ができてしまって……真司と浩平のことは、また後でこちらから連絡します」そう言うと、英樹は一方的に電話を切った。「家に戻るぞ!今すぐだ!」英樹はスマホを握りつぶさんばかりの勢いで叫んだ。秘書はすぐさま車庫へ走り、車を出した。車に乗り込んでも、胸を締め付ける不安はが英樹を押しつぶしそうだった。いくつの赤信号を無視しただろう。車を飛ばして家に帰り着くと、英樹はドアを乱暴に開けた。がらんとしたリビングが目に飛び込んでくる。2階から、美希が驚いた顔で降りてきた。「英樹、今日はどうしてこんなに早いの?」英樹は冷たい視線で階下を見回したが、特におかしなところは
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第16話

「英樹、落ち着いて!浩平くんがいたずらをして、できたての熱いおやつを勝手に食べたから、こうなったのよ……」しかし美希が言い終わる前に、英樹は彼女の首を絞めあげた。英樹の目には、ただ純粋な怒りだけが宿っている。「いつまで俺を騙すつもりだ!美希、お前に家のことを任せたのに、これがお前の言う真司と浩平の世話の仕方か?学校の送り迎えもせず、ろくにご飯もやらず、俺のいない間に虐待までしていたなんて!この子たちがまだどれだけ小さいと思ってるんだ?なのに、こんな姿になるまで苦しめて!」英樹の手に力が込められ、美希は驚きに目を見開いた。まさか英樹が全てを知っているとは……彼女は思わず言い訳を始めた。「ちがうのよ、英樹……」しかし、返ってきたのはより一層冷たい仕打ちで、美希は顎が砕けるかと思うほどの痛みを感じた。英樹の声は、氷のように冷え切っている。「ちがうだと?どうやら俺が甘やかしすぎたようだな。俺の前で平気で嘘をつくとは、いい度胸だ。妻という立場以外なら何でも与える、と何度も言ってやったのに。それでもまだ満足できなかったのか?」英樹の目は怒りで燃え盛っていた。美希はこんな英樹を見るのは初めてで、全身を震わせると、涙をはらはらとこぼした。「ごめんなさい。英樹、あなたのことが本当に好きだったの、だからつい……もう怒らないで。これからは絶対にあなたの言うことを聞くから……」美希はいつものように、か弱く泣きじゃくって甘えてみせた。英樹は少し怒っているだけで、こうして泣けば許してくれるはずだと思っていたから。しかし今の英樹にとって、その泣き姿は吐き気を催すほど醜悪なものにしか見えていなかった。「お前は紗良の弟まで殺した。美希、お前はずっと俺を騙していたんだな。それに、紗良へあんなひどい仕打ちをするなんて!」自分の息子は声も出せないほどに痛めつけられ、紗良は家を追い出された。こんな女を、自分は愛していたというのか?英樹は美希を冷ややかに見下ろす。もがく美希の血の気が引いて青ざめていく顔が、ただひたすらに醜かった。どうしてこんな女のために、自分は紗良を失わなければならなかったんだ?美希が息絶える寸前で、英樹は手を離し、美希を床に叩きつけた。「ゲホッ、ゲホッ……英樹、聞いて、説明させて。あれには理由があるの。私はただ、あなたと一
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第17話

この時英樹は思った。自分は、紗良がいなくなってから、一度も彼女の部屋に入っていない。英樹は震える足で紗良の部屋に向かったが、そこはもぬけの殻だった。窓が大きく開け放たれ、カーテンが揺れている。日差しが部屋全体を明るく照らしているが、会いたいと願うその人だけがいなかった。どうして?一体、どうしてなんだ?二人の写真、紗良に贈ったプレゼント、紗良がここにいた痕跡……何もかもがなくなっている。英樹の心は針で刺されたようにチクチクと痛み始めた。彼は狂ったように部屋中をかき回した。紗良が自分を愛していた証拠を見つけたくて、隅から隅まで探し回った。婚約指輪、記念日のプレゼント、誕生日プレゼント……紗良は英樹が贈ったものをずっと大切にしてくれていたことを英樹は知っていた。たとえ何気なく買ったものでも、英樹があげたものなら紗良は大喜びして、大事にしまってくれる人だった。しかし、今は何も見つけられなかった。がらんとした部屋を見ていると、とてつもない恐怖が英樹の心を覆いつくす。最初紗良と結婚したのは、確かに責任を取るためだったし、紗良が自分に尽くしてくれていたから、結婚という形で応えようとした。それに、その頃はもう美希は死んだと思っていたから、心の中には紗良しかいなかった。このまま一生を終えるのも悪くないと思っていたのに。でも、まさか美希が生きて帰ってくるなんて、誰が想像しただろうか。美希が帰ってきた時から、心はどうしようもなく美希の元へ飛んでいき、二人の失われた過去を埋め合わせたいと願うようになった。しかし、美希がここまで紗良の存在を疎ましく思い、こんなにもひどいことをするとは考えていなかった。目を充血させた英樹は、なぜ自分の心がこれほど痛むのか、彼自身も分からなかった。「紗良……どこにいるんだよ?俺は帰ってきたぞ。頼むから、こんな冗談はやめてくれ。これからは、ずっとお前のそばにいるからさ」英樹は一部屋づつ見て回る。紗良がひょっこり現れて、これはただの冗談だったと言ってくれるのを期待して。そうすれば、また元のように仲直りできるから。もう美希のことも、他の誰のことも考えない。これからは紗良だけを大切にして、今まであげられなかったものを、全部返していくのだ。そうだ!あれだけ自分を愛していた紗良が、離れていくはずがない。きっとど
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第18話

地下室に閉じ込められた美希は、もう丸3日間も飲まず食わずだった。また、地下室には窓がなかったので、今が昼なのか夜なのか、時間がどれだけ経ったのかも分からなかった。意識が朦朧としてきた頃、目の前のドアがついに開いた。まぶしい光が差し込んできたが、美希はすぐには反応できず、ただ呆然とドアの方を見つめていた。英樹は長い間、美希を見下ろした。自分に向けられている視線に気づくと、美希の鈍っていた頭がゆっくりと働き始める。次第に視点の焦点が合い、その方向を見つめた。英樹だ!その瞬間、まるで希望の光を見たかのように、美希は勢いよく起き上がると英樹の足に抱きついた。「英樹!私が悪かったの、本当にごめんなさい。お願いだから許して。もう二度とあんなことはしないから!これまで私が全部悪かった。許してくれるなら何でもする。だから英樹、助けて……もうやめて。怖いよ、本当に怖いの……それに……それに私、あなたの子供を妊娠したの!」美希は涙ながらに訴えている。お腹を庇いながら話す彼女の瞳に浮かぶ恐怖は本物だったけれど、その中にはかすかな希望も見て取れた。英樹が目をやると、美希のお腹は確かに少し丸みを帯びていた。しかし、美希にはまだ許される機会があるというのに、紗良はもう自分のもとを去ってしまったのだ。そう思うと、英樹の心は全く揺らがなかった。「俺の子だと?どうやってその子が俺の子だと証明するんだ?」英樹の氷のような声に、美希の心は冷え切った。「産めば……産めば、DNA鑑定ができる。でも、絶対にあなたの子供だよ、英樹……」英樹は、感情を一切含まない声でふっと笑う。「その子が俺の子かどうかは、もうどうでもいい。生まれてくることはないんだからな。お前が色々裏でこそこそしてたのは、俺の妻の座に就きたかったからだろ?けど、言っておくよ。もう二度とお前に紗良を傷つける機会は与えないからな!」子供さえいれば希望が持てる、英樹の心を取り戻せると美希は思っていた。しかし、まさかこの子が、自分にとどめを刺すことになるとは夢にも思わなかった。美希は後ずさりながら、無意識に自分のお腹を庇う。「やめて、やめて……」男たちが部屋に駆け込んできて、美希の両腕を掴んだ。彼女をベッドに押さえつけると、別の男が道具を持って入ってくる。それが中絶
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第19話

英樹は冷たく背を向け、ドアへ歩き出す。その時だった。後ろから絶叫する声が聞こえ、振り返ると、美希がメスを手に突進してきて、英樹を容赦なく突き刺したのだ。最後の望みを絶たれた美希の目には、溢れんばかりの憎しみが燃え盛っていた。美希の表情は、もはや狂気そのものだった。痩せこけた体に、手術のまだ生々しい痕。美希は血走った目でメスを引き抜き、もう一度深く英樹に突き刺す。血の匂いが部屋に充満したが、美希はそんなことにお構いなしだった。その目には、ただ自分を苦しめ続けた男の姿しか映っていない。これが、復讐できる唯一のチャンスなのだから!「英樹!あなたも道連れにして死んでやる!」果てしない憎しみが、美希の心を完全に支配していた。メスが英樹の体にめり込むのを見ても、ただただ痛快だった。美希がもう一度刺そうとした時、英樹は手でメスをがっちりと掴んだ。手のひらが切れて血がに滲むが、英樹は構わずに力を込め、狂った美希を振り払う。その目は鋭く光っていた。「そんなに死にたいなら、望み通りにしてやるよ。お前の犯した罪を、ここで全て償わさせてやる」すると、油釜が運び込まれてきた。美希の顔から狂気は消え、みるみるうちに青ざめていく。彼女はただ後ずさりし、もう外の光を見ようとはしなかった。「やめて、やめてよ……」美希は何が起きるかを悟ったように、部屋の奥の壁まで後ずさる。油は熱く煮えたぎり、気泡が弾けていた。しかし、英樹に慈悲はなかった。彼はボディーガードに命じ、美希を縛り上げて油釜の真上に吊るさせた。熱気にあぶられ、美希の目からこぼれた涙が油に触れた途端、ジュッと音を立てて蒸発する。彼女は恐怖で顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。「英樹!こんなことしたら私、死んじゃうよ!お願い、許して!私が本当に悪かった!お願いだから助けて!このままじゃ死んじゃう!英樹!」美希はヒステリックに叫び続けた。その目には、恐怖と懇願の色しか浮かんでいない。「海斗くんはもう死んだ」英樹の声には何の感情もこもっておらず、ただ事実を告げるだけ。しかし、美希は英樹が何を言いたいのかすぐに理解した。それは、『死んで償え』ということ……でも、そんなことできるわけがない!必死に許しを求めた美希だったが、ロープはどんどん短くなり、油釜との距離は縮まっていくだけ。
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第20話

英樹が事実を突きつけると、美希は頭をかきむしり、狂ったように泣き叫んだ。今、目の前にいる英樹は、自分が知っている英樹とはまるで別人みたいだ、と美希は思った。息もできないほどのプレッシャーが美希を押しつぶす。「英樹、何をするつもりなの……私がやったことは全部、あなたと一緒になるためだったのに」「俺がお前と一緒になると、いつ言った?俺の妻は生涯紗良だけだ。お前が彼女の代わりになれるわけがない」その声は氷のように冷たく、まるで嵐の前の静けさのようだった。美希は震えが止まらず、涙を浮かべて怯えながら英樹を見つめる。「あなただって紗良のことなんか、どうでもよかったじゃない!本当に紗良が大事なら、私と寝たりする?紗良の手を傷つけたりなんかする?私にこんなに優しくしたりする?あなたの心にも私がいたはず!あなたは紗良のことなんて、本当はそれほど愛してなかったのよ!」美希は声を振り絞って叫んだが、英樹の視線はさらに冷たく、冷酷なものになるだけだった。「お前が紗良と肩を並べられるとでも思ったのか?この身の程知らずが!代償を払うということがどういうことか、その身に刻み込んでやる」次の瞬間、縄が緩み、美希の体は油釜の中へと落ちていった。地下室に絶叫が響き渡ったが、数秒も経たないうちに、英樹は美希を再び引きずり上げた。ほんの一瞬だったにもかかわらず、美希の全身の皮膚は焼けただれていた。体中に激痛が走り、美しかった顔も肉が爛れ、血まみれになり、見るも無惨な姿になっている。「あぁっ!ああああッ!!」美希は、もはやまともな声も出せずに叫び続けた。「ごめんなさい、英樹、私が間違ってたわ!」しかし、その命乞いに耳を貸す者はおらず、英樹は再び手を離した。美希の体は、またもや油釜の中へと沈んでいく。再び激痛が美希を襲った。皮膚は焼け焦げ、油釜の中は血で赤く染まり、油がパチパチと跳ねる音が響く。しかし、すぐに美希はまた引き上げられ、そしてまた落とされた。生きることも死ぬことも許されない拷問が、何度も何度も繰り返される。目の前の男は、もはや地獄から来た悪魔のようだった。美希はこれ以上この痛みに耐えられず、もがいて縄を振りほどくと、自ら油釜へと身を投げた。「ああああああっ!」ジュウウゥゥ……肉が焼け焦げる音が響く。阿鼻叫喚のあと
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