氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜 のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

45 チャプター

11話

 カミリアは騎士の後ろを歩きながら道を見回し、疑念を抱く。確かに崖沿いではあるが。彼が言うほどの細道ではない。ふたり並んで歩いても、少し余裕がありそうだ。「君が言うほど、細い道とは思えないがな」「こ、高所恐怖症でして……」「そのわりには、平然と歩いているように見えるが?」「怖いですけど、副団長達の一大事ですから……」「……」 騎士の返答に、カミリアの疑念はますます深まっていく。 この騎士はカミリアが入団した数ヶ月後に入ってきた男だ。剣の腕はからっきしだったが、当時騎士団長を務めていたドゥムが、立派なブロンドだからという理由で入団させた。入団後も稽古はほとんどせず、そのくせブロンド髪を理由に威張り散らす、ろくでもない男だ。 荒野で暴れている魔物の討伐へ出向いた際、彼は剣を振り回して戦っているフリをしただけで、1体も倒せていなかった。そんな男が、ドゥム達のために高所恐怖症を克服しながら道案内をするだろうか? そもそも高いところが怖いのなら、途中でこっそり引き返してくればいい。この男なら、そうしてもおかしくない。 考えれば考えるほど、悪い考えが脳内を占めていく。「ここです、あの洞窟です!」 開けた場所に出ると、確かに洞窟があった。洞窟の上には大小様々な岩が転がっており、いつ崩落してもおかしくない。 警告音が、脳内にやかましく鳴り響く。それでもカミリアの中に、引き返すという選択肢はない。「行こうか」「す、すいません……。暗いところだけは、どうしてもダメで……」「……分かった、君はひとりで帰るといい」 罠である可能性が高まるも、洞窟へ向かう。違和感を覚え、中を確認しようと洞窟の前で目を凝らしていると、パラパラと小石や砂が落ちてくる。(まさか……!) 嫌な予感が過り、後ろに大きく飛び跳ねる。少し遅れて大岩が洞窟の穴を塞いでしまった。少しでも遅れていたら、カミリアは大岩の下敷きになっていた。「死ねええぇっ!!!」 ドゥムが大剣を振り下ろしながら、頭上から襲い掛かってくる。それを避けて洞窟の上を見上げると、ドゥム派の騎士達が下卑た笑みを浮かべて見下ろしている。彼らが大岩を落としたのだろう。
last update最終更新日 : 2026-01-29
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12話

「やはり罠だったか!」「罠だと思いながらもわざわざ来たのか? 馬鹿な女だ。お前はここで死ね!」 ドゥムは大剣を横に振る。すんでのところでそれを避けると、今度は後ろから刺突される。咄嗟にレイピアを抜き、弾いた。案内していた騎士が、ニタリと笑って斬りつける。ギリギリのところで避けて、バックステップでふたりから距離を取った。「くっ!」「女が調子に乗んな!」「何が氷の戦乙女だ!」 いつの間にか洞窟の上にいた騎士達も降りてきて、カミリアに襲いかかる。カミリアはすべての攻撃を避けながら、打開策を必死に考える。「いつまで逃げてるんだ? 馬鹿女が。冥土の土産に教えてやる。トロールが出たってのは嘘だ。お前をここで殺すために、デマを伝えさせたんだよ!」「っ!」 ドゥムは大剣を大きく振り落とすも、カミリアは地面を転がって避ける。ドゥムの大剣は地面に刺さり、抜くのに四苦八苦している。その間に他の騎士達が襲ってくるため、呼吸を整えるのもままならない。(どうずればいい? 考えろ!) 自分に言い聞かせ、必死に頭を回す。ドゥムとは犬猿の仲で、1日でもはやく辞めてほしいと思っていた。それでも仲間であることに変わりない。自分を罠にはめた相手でも、仲間である彼らを切り捨てるのは抵抗がある。 普通の剣なら峰打ちもできただろうが、刺突用であるレイピアでは峰打ちで気絶させるのは難しい。「せいっ!」 騎士の剣を後ろに下がって避けると、踵に違和感を覚える。振り返ってみると、崖に落ちる寸前だった。「しまった!」「つくづく馬鹿な女だ。自分から死にに行くなんてよぉ。あの世で自分の甘さを恨むんだな」 ドゥムが大剣を振り上げる。(こんな男に斬り殺されるくらいなら……!) カミリアが崖に飛び込もうとした瞬間、騎士が悲鳴を上げる。何事かとドゥム達が振り返り、目を見開く。彼らが邪魔で見えないが、誰かが助けに来てくれたことだけは分かる。
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13話

(もしかして、ハーディ……?) カミリアは心優しい親友の顔を思い浮かべる。「大勢でみっともないですよ、副団長さん」 優しい声は若い男の声だ。聞いたことのある声だが、誰かは分からない。「邪魔すんな、クソガキ!」 ドゥムがその人物に斬りかかると、他の騎士達も斬りかかる。だが、彼らの気合は、すぐに悲鳴に変わった。「僕はクソガキではありません」 数人の騎士が倒れ、カミリアにもようやく助っ人の顔が見えた。返り血を浴びたラウルが、にっこり微笑んでいる。「どうして……」「このクソガキ!」「やれやれ、それしか言えないんですか?」 ラウルは肩をすくめてため息をつくと、襲い掛かってくる騎士達を次々と斬り捨て、ドゥムの大剣を軽々と避けた。ドゥムが大剣を引き抜くと、ラウルはクスクス笑う。「何がおかしい!?」「太刀筋が見え見え、ひとつひとつの動きが雑。よくそれで副団長になれましたね」「馬鹿にすんな、ガキィ!!!」 ドゥムが斜め下から斬り上げるのを最低限の動きで避けると、ラウルは彼の足を斬りつけた。「ぐあああっ!!!」 ドゥムは足を抱えながら転げ回る。「すいません、僕、峰打ち苦手なんですよね。けど、致命傷ではないはずですよ?」「ひっ……!」「その程度の痛みで悶えるなんて、騎士失格だと思いますけど」 ゆったりとした足取りで近づくラウルに、ドゥムは悲鳴を上げて後ずさる。まるで獲物を狩る肉食動物の様なラウルに、カミリアは慌てて駆け寄り、腕を掴んだ。「殺してはいけない」「貴女は、この方々に殺されかけたのですよ?」「助けてくれたことは、感謝する。だが、彼らの罰を裁くのは君ではない。国だ」 ラウルは訝しげな目でカミリアを見つめた後、剣に付着した血を振り払い、剣を鞘に収めた。その際、その剣がサーベルだということに気づき、峰打ちが苦手と言っていた意味を理解する。 サーベルは切っ先から3分の1が両刃になっている軍刀で、峰打ちに向いていないのだ。
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14話

「貴女は強いだけではなく、優しいのですね」 ラウルは小声で言うと、カミリアに身体ごと向き直る。カミリアが聞き返そうとすると、こちらに向かってくる複数の足音が聞こえた。「ケリー騎士団長!」 ハーディを先頭に、騎士達が駆け寄ってくる。その中には救護組もいた。騎士達はドゥム達を拘束し、救護組は最低限の手当をする。ハーディだけが、カミリア達のもとへ行く。「ディアス!? これはいったい……」「途中でラウルさんがこっちの方に魔物がいるわけがないって言って、駆けていったんです。それで私達も来たら……」 そう言ってハーディは、拘束されていくドゥム達を横目で見る。「何故魔物がいないと?」「数年前、あの洞窟に凶悪な魔物が住んでいたから、ダイナマイトで崩落させたと聞いたことがあったんです。全壊してなかったのは予想外でしたがね」 ラウルの話を聞き、洞窟の前に立った時に違和感を覚えたことを思い出す。考える前に戦闘になってしまったので違和感の正体が分からなかったが、思い返してみると生き物の気配がなかった。暗闇に慣れきってはいなかったが、岩しか見えなかった気もする。「ところで騎士団長様、僕の入団を認めてくださいますか?」「あぁ、もちろんだ。それと、改めて礼を言わせてくれ。君のおかげで助かった、ありがとう」 ラウルの言い方にはドゥムのようなイヤミったらしさは無く、カミリアは心の底から素直に礼を言うことができた。 拘束したドゥム達を連れて下山すると、騎士達は罪人となった彼らと共に乗馬する。ドゥム達が乗っていた馬は、1頭はラウルが乗り、残りはカミリアや救護組、罪人を乗馬させていない騎士達が手綱を握った。 城に着くと、馬達を休ませるために馬小屋へ行く。ドゥム達を下ろして馬を世話係達に引き渡していると、夜のような黒髪をした青年が近づいてくる。「何事だ?」「サウラ様……!」 サウラと呼ばれた青年は、ドゥム達とカミリア、そしてラウルを一瞥する。 サウラはシャムスの王子だ。黒髪が差別されるこの国で、黒髪を隠さずに国を変えようとしている若き革命者。カミリアが唯一尊敬している男性でもある。
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15話

「黒髪風情が! お前ごときに国を背負えるものか!」「身の程をわきまえろ、ドゥム・モリス! 今すぐ連行しろ!」 サウラに向かって暴言を吐くドゥムを叱責すると、部下達に連行させた。残っているのはカミリア、サウラ、そしてラウルの3人のみとなる。 カミリアはドゥム達を連行した経緯をかいつまんで話し、ラウルを紹介する。「こちらが私を助けてくれたラウルです」「お初にお目にかかります、サウラ王子。まだまだ半人前ですが、騎士としてこの国を守っていく所存でございます」 ラウルが恭しく一礼すると、サウラは顎に手を当て、考える素振りを見せる。「なかなか面白いのが入団してきたな。どうだ、カミリア。明日、役職をかけた試合をするというのは。もちろん、ラウルも入れてな」「お言葉ですが、サウラ王子。まだ騎士団について何も知らないラウルが騎士団長にでもなったら……」「その時はお前がしっかり補佐をすればいい。それに、俺はお前が負けるとは思えないな」 サウラにここまで言われると、カミリアも反論のしようがない。「……分かりました。明日、階級試合を行います」「あぁ、楽しみにしている」 サウラは穏やかな笑みを浮かべると、馬達を可愛がる。カミリアとラウルは一礼すると、その場を後にした。 会議室に入ると、数人の騎士がいた。カミリアは彼らを集めると、大事な話があるから騎士全員を招集するように言う。「騎士団長、階級試合について教えてもらえますか?」「あぁ、そうだな……。名前の通り、階級を決めるための試合だ。救護組以外の騎士が、トーナメント戦で戦う」 カミリアは羊皮紙とペンを持ってくると、書きながら説明を始めた。「まず、見習い騎士と正騎士の試合から始まる。こちらは人数が多いため、まとめて行う。見習い騎士のみの試合で勝った者は正騎士と試合をし、その試合に勝てば見習い騎士は正騎士になれる。正騎士同士の試合に勝った者は、上階級試合に参加することができるんだ」「上階級って、騎士団長と副団長以外に何があるんですか?」「ひとつずつ説明していこう」 カミリアは羊皮紙に役職を書き並べる。
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16話

 上から騎士団長、副団長、隊長、副隊長と書かれていく。「まずは騎士団長だが、騎士団すべてを統括する。副団長はその補佐だ」「あの人、ちゃんと補佐してました?」「いや、していない。実質的な補佐は、ハーディ•ディアスという騎士だった」「でしょうね」 ラウルは苦笑しながら、羊皮紙に書かれていく文字を目で追っていく。もう質問はないと判断したカミリアは、話を進めようと口を開く。「騎士団はいくつかの部隊に分かれている。それらをまとめるのが、隊長。その補佐が副隊長。これらの役職は、本来なら強さだけで決められるものではない」「本来なら、というのは?」「シャムスはブロンド至上国だ。実力があっても、赤髪や黒髪だからという理由で、上階級に就けないことが多い。今はサウラ王子が考案した階級試合でマシになってきてはいるが、試合前に襲われることもある……」「それって犯罪ですよね?」「後ろから襲うから、誰か分からない。そういうことになっている」 カミリアは苦虫を噛み潰したような顔をする。ラウルが何か言おうとするとドアが開き、騎士達がぞろぞろと入ってくる。「へぇ、君が噂の新人か。いい男じゃないか。俺はラートだ、よろしく」「はじめまして、ラウルです」 第2部隊隊長、ラートがにこやかに手を差し伸べる。ラウルは立ち上がって自己紹介をすると、彼の手を握った。他の騎士達は好奇や畏怖の目でラウルを見ている。きっとカミリアを助けたという噂が広がったのだろう。「大事な知らせがある。全員座れ」 カミリアに言われ、騎士達は近くにあった椅子に座る。全員が座ったことを確認すると、呼吸を整えて前に立つ。「明日、階級試合を行う。午前中は正騎士戦、午後は階級戦となる」「どうしてまた……」 誰かの声に、カミリアは内心同意する。正直、カミリアも気乗りしていない。「サウラ王子の命令だ。話は以上。各々剣技を磨いておくように。それと、ラート•アビット隊長。ラウルを宿舎に案内すること」「了解。こっちだ」 ラートはラウルを連れて会議室を出る。他の騎士達も出て行くと、ハーディとふたりだけになる。
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17話

「ケリー騎士団長……」 ハーディはカミリアの前に小さく折りたたんだ紙を置くと、一礼して出ていった。紙を開いてみると”今日はクッキー”と書かれていた。「まったく、ハーディったら」 苦笑するその顔は、年相応の乙女そのものだった。 真夜中、カミリアがレイピアの手入れをしていると、ドアが小さくノックされる。音を立てないようにゆっくり開けると、トレーを持ったハーディが立っていた。更にドアを大きく開けてハーディを招き入れると、カミリアは優しい笑みを浮かべる。 普段は騎士団長と第3部隊の隊長という間柄だが、夜になると幼馴染に戻る。この時間は、カミリアにとって数少ない楽しみのひとつだ。 悪魔が支配すると言われている夜に出歩くのはご法度だが、そのスリルがこの時間をより格別なものにしている。「待ってた」「私も。この時間、楽しみにしてた」 どちらかともなく笑い合うと、ハーディはテーブルの上にトレーを置く。トレーにはふたり分のココアとクッキー。カミリアはココアをひと口飲むと、小さく息を吐く。「今日は本当に焦ったんだから。ラウルさんがいなかったらと思うと、ゾッとするわ……」「ごめんって……。反省してるから、お説教は勘弁して」「今回ばかりはお説教免除とはいかないわ。だいたい、カミリアは昔から無茶し過ぎなの。もっと自分を大事にしてよ」「ココアとクッキーがまずくなる……」 カミリアがすねた子供のように言いながらクッキーをかじると、ハーディはやれやれとため息をつく。「もう、いつもの凛々しい騎士団長様はどこに行ったのかしら?」「だからごめんって……。死ぬつもりはないから安心して」「安心できないから怒ってるんだけど……。けど、心強い新人がいるし、今日はこの辺にしといてあげる」 説教が終わったことに安堵し、カミリアはもう1枚クッキーを食べる。久しぶりの甘味に頬を緩めるが、幸せな表情はすぐに曇ってしまう。
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18話

「どうしたの?」「明日の試合、なんだか不安で……」「珍しいね、カミリアがそんなこと言うなんて。あのドゥムも打ち負かしたカミリアなら、大丈夫」「うん、ありがとう」 微笑むも、不安は拭えない。ラウルの圧倒的な剣技を思い出すだけで、息が苦しくなる。単に騎士団長の座を奪われるのが怖いというわけではない。ずっと大事だと思ってきたその地位さえも、心の中で揺らいでしまうような、なんとも言えない不安が漠然と広がっている。 明日、自分は騎士団長ではなくなる。 それだけは分かっていた。 そんな確信を押し殺しながら、カミリアはハーディとの時間を大事にする。 小一時間もすると、ハーディがあくびをする。少し遅れて、カミリアも。それが解散の合図となり、ハーディは食器をトレーに乗せて立ち上がる。「またね、カミリア。明日は頑張ろうね、おやすみ」「うん、おやすみ」 ハーディが部屋を出ると、カミリアは大きなため息をつき、ベッドの上で丸くなる。「明日、どうなるんだろう?」 不安なのは、明日だけではない。ラウルの存在が騎士団を、それ以上に大きな何かを変えてしまうのではないかという予感がする。 行き場のない感情を抱えたまま、カミリアは浅い眠りについた。 翌朝、カミリアは身だしなみを整えて食堂へ向かう。 この時間、いつもは数人しかいないのだが、既に半数近くの騎士達が朝食を食べている。ピリピリした空気の中、隅の席だけ和やかな雰囲気だ。「ここのごはん、美味しいですね」「だろー? お前細いし、どんどん食えよ」 ラウルとラートが、場違いなほど明るい声音で雑談をし、朝食を楽しんでいる。それが他の騎士達を更にピリピリさせた。「まったく……」 緊張感のないふたりに呆れながらも、内心羨ましく思う。 カミリアは彼らから1番離れた席で朝食を食べた。 朝食が終わった1時間後、訓練所には多くの騎士達が集まっている。少し離れたところに椅子が置かれ、サウラが座っている。サウラを挟むように、カミリアと第1部隊隊長のリアンが立っている。本来なら副団長であるドゥムがサウラの隣に立つはずだが、罪人となったため、リアンが立つことになった。
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19話

「全員集まったか?」「はい」 カミリアが短く返答すると、サウラは立ち上がって前に出る。騎士達は伸ばした背筋を更に伸ばした。「これより、階級試合を行う。諸君らの健闘を祈る」 サウラは短い挨拶を終えると、椅子に戻る。「まずは見習い騎士達の試合から始める!」 見習い騎士だけが残り、彼らは間隔を開けて向かい合う。その中にはラウルもいた。 騎士団長から副隊長達が訓練所に入り、それぞれの前に立つ。カミリアが全員配置についたことを確認すると、サウラにアイコンタクトをする。「試合開始!」 サウラの合図で試合が始まる。見習いとはいえ、彼らも厳しい試験を受けて入団した強者だ。凄まじい気迫で剣を交える。カミリアが審判を務める見習い達も、果敢に剣を振りかざす。 彼らの試合がすべて終わったのは30分後。負けた者は見学しようと訓練所を囲む。 10分の休憩を挟み、正騎士になるための試合が、その次は階級試合出場希望者達の試合が行われた。それらの試合に勝ち残ったのは、たった5人。その中にはラウルの姿もあった。 午後の試合に備えて、各々が食堂へ向かう。カミリアも移動しようとすると、快活な声がカミリアを呼び止める。「いやぁ、驚いたね。奴さん、どの試合も一撃で終わらせてんだぜ?」 ラートはラウルを横目で見ながら、カミリアに声をかける。ラウルの実力を知っているカミリアは、特に驚くことなく、そうかと短く返す。「あれ? 騎士団長驚かないんだな?」「あの男は、ドゥム達をひとりで倒した。きっと私は、今日で騎士団長ではなくなるだろうな」 カミリアは淡々と言うと、食堂に向かった。「ちょっと騎士団長殿!?」 ラートに呼び止められるも、カミリアはそのまま立ち去ってしまった。 副部隊長以上の者は食堂の一角を占拠し、昼食をとりながらトーナメント戦の票を作る。挑戦者達は副部隊長と試合をし、勝った者は隊長と試合をする。ここで隊長、副隊長が決まる。この試合で勝った者が騎士団長と試合をし、騎士団長と副団長が決まるのだ。
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20話

「しかしまぁ、トーナメント戦ってのも考えるのがめんどうですよね」 こういったことで頭を使うのが苦手なラートは、やだやだとため息をつく。戦闘時には策士として立派な彼だが、座学や会議などはからっきしだ。彼を見ていると、頭の良さと策士の本能は別物なのだと考えさせられる。「君はほとんど考えていなかっただろう……」 カミリアの言葉に、ラート以外全員が頷く。「ひっでーの。まあいいや。次の試合まであと30分だろ? 俺は適当に寝てるから」 そう言ってラートは空いてる長椅子を見つけると、そこに寝そべった。彼の気楽さが少しうらやましく思った。 時間になると、多くの騎士が訓練所を囲む。中央には挑戦者と副隊長が5人ずつ立っている。「とんでもない番狂わせがいるんでしょ? アタシも戦いたかったなー」 第3部隊の副隊長であるリアは、羨ましそうに訓練所を見ている。彼女は好戦的な性格で隊長クラスの実力を持つが、まとめるのは向いていないからと、副隊長の座に甘んじている。「出世欲がないから、ここにいるんでしょ?」「そうでした」 ハーディに呆れ返るように言われ、てへっと笑って舌を出す。「これより副隊長を決める階級試合を始める。試合開始!」 サウラの合図で、彼らは剣を交える。激しい金属音に、試合とは思えないほどの殺気。午前中の試合とは、レベルが違う。 カミリアは手前で戦うラウルを観察する。彼は振り下ろされた剣を最小限の動きで何度か避けると、相手の剣をサーベルで弾き飛ばし、切っ先を目の前に突きつけた。一瞬で終わった試合に誰もが驚くが、カミリアだけは冷静な目で見ていた。(間違いない。私はこの男に負ける……) 戦う前から負けを確信するも、悲観はしていない。ただ、己の未熟さを恨んだ。 副隊長戦が終わると、10分の休憩を挟んで隊長戦が行われる。こちらは勝ち抜いた5人がバトルロイヤルで戦い、勝ち残った4人が現隊長と試合をすることができる。 現隊長戦もバトルロイヤルで、最後に勝ち残った者は、夜に騎士団長と試合をする。騎士団長に勝てば、新団長、負けても副団長になれる。
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