氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜 のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

45 チャプター

31話

「邪魔すんなよ、負け犬副団長。せっかく黒髪女を排除しようとしてたのによ」「そうだそうだ! 負け犬はすっこんでろよ」「貴様ら!」 立ち上がろうとするカミリアの肩に、ラウルの手が置かれる。見上げると、ラウルは穏やかな笑みを浮かべている。「カミリア、ここは僕に任せて」 カミリアが返事をする前にラウルは立ち上がり、彼らの元へ行く。カミリアはハーディが使っていた木刀を手繰り寄せて握った。「ラウル団長も、そんな黒髪女追い出しちゃってくださいよ。ソイツ、絶対に災いを持ってきますって」「しかも女だしな」 ふたりの下品な笑い声に、ラウルの笑い声も重なる。殺意を覚えたカミリアが立ち上がろうとすると、何かを叩く音がしたのと同時に、笑い声が止まる。「なっ……!?」「何するんですか!?」「君達、面白いこと言うね。災いをもたらすのも、追い出されるのも、君達なんだよ?」 ドゥム派達の顔が、見る見るうちに青ざめていく。逃げようとするふたりの首に木刀が叩き込まれ、ふたりは悲鳴を上げる間もなく倒れる。「ふぅ……。ジェイド、ラート、このふたりを拘束して牢獄へ」「はっ!」 ジェイドとラートは気絶したふたりを拘束し、牢獄に連れて行く。ラウルは途中まで目で追うと、カミリアの所に戻ってくる。「さっき、足を挫いただろ? 医務室に運ぼう」「いえ、ひとりで行きます」 木刀を杖代わりにして立とうとするも、激痛で座り込んでしまう。ラウルは苦笑しながら、カミリアを抱き上げる。一瞬何が起きたのか分からなかったが、他人の体温とあまりにも近いところにあるラウルの顔に、お姫様抱っこされていることに気づく。「お、降ろしてください!」「ダーメ。君は無理しがちだろ? ハーディ、リア。悪いけど稽古まとめてくれる?」「はーい」 リアは呑気に返事をするが、ハーディは憂色の瞳でカミリアを見つめる。ハーディの視線に気づいたカミリアは、大丈夫だと言うように、微笑みかける。だが、ハーディの表情は曇ったまま。
last update最終更新日 : 2026-01-29
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32話

「行こうか、カミリア」 ラウルはカミリアに笑いかけると、医務室へ向かう。今すぐにでも降りたいところだが、無理やり降りても立つことすら出来ずにハーディを心配させてしまうから、大人しく運ばれる。「暴れられると思った。大人しくしてくれて、ありがとう」「これ以上、皆に無様な姿を見せるわけにはいきませんから」「ということは、お姫様抱っこは気に入ってもらえたのかな?」「違います」 即答すると、ラウルはクスクス笑う。柔らかで上品な笑みに、思わず見惚れてしまう。男性にしては長い睫毛に、澄んだ青空のような瞳。高く通った鼻梁に薄い唇が、中性的な印象を与える。そよ風に揺れるミルクティー色の髪は、思わず触れたくなるほどふんわりしている。 見惚れていると、ふいに目が合う。ラウルは優しく微笑み、カミリアの顔を覗き込む。「ん? じーっと見てきてどうしたの?」「いえ、なんでもありません」 顔を逸らすと、頭上から柔らかな笑い声が聞こえて来た。我に返り、自分の男性への耐性の無さに情けなくなる。(男なんかにときめくなんて、何考えてるの私ったら! 男なんて皆、女を見下しているんだから) 自分に言い聞かせるも、自分より高い体温と、ほんのり甘い香りに異性だと意識してしまう。なんとなく気まずくて、医務室に着くまで無言でいた。 医務室に入ると、救護組の女性騎士がふたりいた。だがお姫様抱っこされているカミリアを見た途端、意味深な笑みを浮かべて出ていってしまった。「何故出ていくんだ……」「邪魔しちゃ悪いと思ったんでしょ」 ラウルはサラリと言うと、カミリアを椅子に座らせた。壁際に並んだ3つの薬品棚を見て数秒固まり、振り返る。「カミリア、包帯の場所分かる?」「包帯とガーゼは左の棚の上から2番目。捻挫に効く薬は、真ん中の棚の上から3番目の引き出しにあるはずです」 ラウルはカミリアの言ったとおりに棚を開けていく。どうやら無事見つけたらしく、それらを抱えて戻ってきた。
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33話

「失礼」 ラウルはカミリアの前に跪くと、彼女の靴を脱がせて自分の膝の上に置く。カミリアが急いで足を引くも、しっかり掴まれてしまい、びくともしない。「あの、流石に団長の膝に足を置くのは……」「そんなこと、気にしなくていいよ。にしても、本当に驚いたな。男尊女卑が激しいシャムスに、女性騎士がいるだなんて思ってもみなかった。それも、こんなに美しくて強い人だなんてね」 慣れた手つきで手当をしながら褒めちぎってくるラウルに、カミリアは不快になる。 この国では女性騎士はほとんど見かけない。今ではカミリアをはじめ、数人の女性騎士がいるが、彼女達はカミリアに憧れて入団してきたため、カミリアが騎士になるまで女性騎士は存在しなかったと言っても過言ではない。だが、騎士道に男も女もない。まして、容姿など関係ないと考えるカミリアからすれば、差別的発言に聞こえてしまう。「騎士道に男も女もありません。容姿だって、関係ないでしょう。それに、私より団長の方が強いじゃないですか」「僕よりも、カミリアの方がよっぽど強いと思うけど」 柔らかな眼差しを向けるラウルに、憤りを覚える。接戦のフリをして勝たれただけでも腹立たしいのに、強いと言われて馬鹿にされている気分になった。「そういえばこの前部屋にお邪魔した時、軍学書がたくさんあったけど、あれ、全部読んだのかい?」 ”いい加減にしろ”と怒鳴ろうとした矢先、ラウルが話を変えてしまった。急な方向転換にカミリアは怒りの矛先を失い、少し戸惑う。気持ちを落ち着かせようと小さく息を吐き、口を開く。「えぇ、全部読みました」「それはすごい! カミリアは努力家なんだね。足が治るまで、その知識を活かしてみない?」「具体的には、何をすればいいんですか?」 カミリアの問いに、ラウルはいたずらっぽく笑う。彼が何を考えているのかは分からないが、嫌な予感だけはする。
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34話

「教師になってみない?」「はい!?」 騎士とはかけ離れた役職に、さすがのカミリアも素っ頓狂な声を上げる。ラウルはそんな彼女を見てクスクス笑う。「そんなに驚く?」「教師なんて、騎士とかけ離れてるじゃないですか……」「ははっ、それだけ聞くとそう思うかもね。けど、あれだけの本を読んできたカミリアが適任だと思うんだ」 まるで今まで教師を探していたような口ぶりに、カミリアは小首をかしげる。「階級試合を見たり、手合わせしたりして、この騎士団は本当に強いんだって実感したよ。ひとりひとりが軍学を身に着けていたら、もっと強くなるはずだよ。どうかな?」「言いたいことは分かりますが、人に教えたことなんてありませんし……」「大丈夫、授業の手伝いはするよ。それに、やること与えないとカミリアは無茶しそうだから」 図星を突かれて、カミリアは言葉を詰まらせる。子供の頃から今日まで、怪我をしようが具合が悪かろうが、鍛錬を休んだことはない。1日でも休むと、身体が鈍ると思っているからだ。 今回も手合わせなどができなくても、ある程度の鍛錬はするつもりでいる。「……無茶はしません。できる範囲で身体を動かすだけです」「それを無茶と言うんだよ。それに僕はカミリアに聞きたいことがたくさんあるから、いい機会だと思って」 怪我をしたのにいい機会だなんて、不謹慎にも程がある。木漏れ日のような笑みを浮かべるラウルには、これっぽっちも悪気はないのだろう。だからこそ、タチが悪い。 怒る気力をなくし、盛大なため息をつく。「え? なんでそんなため息つくの?」「いえ、なんでもありません。それより、聞きたいことってなんですか?」「騎士団やシャムスについて」「団長もシャムス人ではないのですか?」 カミリアは思わず耳を疑う。シャムスは大陸の海沿いにある。唯一の隣国であるフェガリとは、しばらく敵対関係だった。今は交友関係を結ぼうとしていると聞くが、それでもシャムス人のフェガリ人に対する差別はなくならず、フェガリ人は入国してきたとしてもシャムスに住み着くことはない。そのため、シャムスに外国人はほとんどいない。
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35話

「シャムス人だけど、国境にある田舎だからか、王都ほど差別は酷くないよ。女性を見下す男性は多いけど、ここまでじゃない。一緒なのは、夜に出歩かないっていう風習くらいじゃないかな。だから、正直に言うと少し戸惑ってる」 悲しげに微笑むラウル。彼の話を聞いて、のどかな田舎を思い描く。ここまで醜い差別がない田舎町は、ルチェソラーレよりも心穏やかに過ごせるだろう。 同時に、そんな田舎から差別の激しい王都に来たのなら、心労が絶えないだろうとも思う。ラウルのことは苦手だが、サポートしたいと思った。「分かりました、私で教えられることはお教えします」「ありがとう、カミリア。やっぱり君は優しいね」「仕事ですから」 優しいと言われ慣れていないカミリアがそっけなく返すと、ラウルは小さく笑う。何故笑われたのか分からず、ムスッとするカミリアに、ラウルは更に言葉を続けた。「君のことも色々教えてくれると嬉しいんだけど。例えば、どんな男性が好きだとか」 考えるよりも先に、手が動いた。医務室に、乾いた音が響き渡る。 ラウルは目を見開き、横を向いている。色白の頬には、大きな紅葉。やけに熱い右手で、ラウルを平手打ちしてしまったのだと気づく。カミリアは一瞬だけ反省しかけるも、どう考えてもラウルが悪いと思い直し、彼を睨みつける。「何考えてるんですか、この女たらし」 見開いたままのラウルの目が、カミリアへ向けられる。目が合った瞬間、ラウルはお腹を抱えて大声で笑った「あははははっ! 女性に叩かれたのは、生まれて初めてだよ。でも、仕方ないだろ? 好きな子のことはなんでも知りたいんだから」「まだそんなことを……!」 右手を掴まれ、驚きで言葉が途切れる。ラウルはカミリアの手のひらを上に向け、そっと撫でる。「ごめんね、痛かったでしょ?」「なんで叩かれたあなたが謝るんですか」「申し訳ないと思ったからだよ。さぁ、部屋に戻って休むといい」 ラウルはカミリアを抱き上げようと手を伸ばす。カミリアは咄嗟にその手を払った。
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36話

「自力で部屋に戻ります」 「それならせめて、車椅子を使ってくれないかな?」  ラウルは部屋の隅にあった車椅子を、カミリアの前に置いた。カミリアが車椅子に乗って出ていこうとすると、後ろのハンドルを掴まれてしまった。 「なにするんですか」 「君のこれからの予定を伝えてなかったからね。午前は僕の先生、午後は皆の先生。それでいいかな」 「それで構いませんから離してください」 「それじゃあ、気をつけて」  ラウルが手を離すと、カミリアはいそいそと医務室から出ていった。 「はぁ、嫌になる……」  カミリアは車椅子から降りると、壁に手をつき、びっこを引いて歩いた。痛みはあるが、歩けないほどではない。車椅子を使っているところを見られるより、よっぽどマシだ。他人に弱さを見せるのを嫌うカミリアにとって、車椅子は屈辱でしかなかった。きっと両足の骨折でもしない限り、彼女が車椅子に頼ることはないだろう。  やっとの思いで自室につくと、本棚から適当に1冊取り出して窓際の椅子に座る。パラパラとページをめくるも、読書をする気分になれず、テーブルに本を置く。 「なんでこんなにイライラするの……」  イラ立ちのあまり、髪を掻き乱してため息をつく。ラウルが騎士団に来てから、カミリアは振り回されっぱなしだ。心とペースを乱され続け、ストレスが溜まっている。 「なんであんなのが騎士団に……」  思い返すのは、食堂を騒がしくしたり、軽率に好きな男性のタイプを聞いてくるラウル。剣の実力は確かだが、人間性は最悪だ。 『でも、仕方ないだろ? 好きな子のことはなんでも知りたいんだから』  先程言われた言葉とお姫様抱っこされた時の彼の体温を思い出してしまい、頬が熱くなる。 「何考えてるの、私ったら……。あんな女たらし、なんてことないじゃない」  自分に言い聞かせると、瞼を閉じて深呼吸する。自分に息遣いに集中していくことによって、雑念が消えていく。  気持ちが静まり返った頃、誰かがドアをノックした。
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37話

「カミリア、今大丈夫?」 それは親友の声だった。心が弾み、入室を許可する。ハーディはワゴンを押して部屋に入ってきた。ワゴンの上にはふたり分のココアと、様々なお菓子をのせたケーキスタンド。 ハーディはテーブルの上にそれらを置き、カミリアの向かいの席に座った。「どうしたの、これ……」「ラウル団長が、「カミリアとお茶してきて」って、お菓子をくれたの。これ、高級店のお菓子よ……。あぁ、それと「ごめんね」って言ってたけど、何があったの?」「実はね……」 カミリアは医務室での出来事をかいつまんで話した。話しながら、自分がどれだけ情緒不安定だったのか知り、恥ずかしくなる。「ハーディに話をして、ようやく冷静になれた気がする……。私、団長に最低なこと言っちゃった……。女性騎士がいると思わなかったって言われて、勘違いしちゃってたっていうか……」 落ち込むカミリアの手を、ハーディが包み込むように握った。顔を上げると、ハーディは優しい微笑をカミリアに向けている。「きっとドゥム派とのことがあった直後だから、気が立ってたのよ。さっきは助けてくれてありがとう。カミリアが助けてくれなかったらと思うと、ゾッとするわ……」 先程のことを思い出したのか、ハーディは自分の肩をさする。「本当に、ハーディが無事でよかった。にしても、ドゥム派の連中にも困ったものね」 ため息をつき、マドレーヌを食べる。しっとりしていて食べやすく、ほのかにオレンジの風味がしてとても美味しい。ハーディが時々買ってくるものは、少しパサパサしているが、これならいくつでも食べられそうだ。「しっとりしてて美味しいね。やっぱり高級品は違うなぁ」 ハーディもマドレーヌを食べながら、うっとりする。自分だけがそう思っていたわけではないと知り、少しホッとする。
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38話

「そういえば団長から聞いたんだけど、先生するんだって?」「え? もう話広まってるの?」 驚きのあまり、マドレーヌを口に運ぶ手が止まる。「ええ、それなりに。「カミリアが授業するから、皆楽しみにしてて」って言ってた。どんな授業するつもり?」 好奇心と期待で目を輝かせるハーディに、カミリアは頭を抱える。授業を引き受けたものの、授業内容はまだ決められていない。分からないことだらけで、不安でいっぱいだ。「うーん……。軍学ってことは決まってるんだけど、その中でも何を教えるか決まってなくて……」「軍学かぁ……。私、本開いた瞬間ダメだったなぁ……」 軍学という言葉に、ハーディの表情が曇る。ハーディが副隊長になった時、カミリアの軍学書を借りに来たことがあった。彼女が本棚の前で初心者向けの本を開いただけでギブアップしたのを思い出し、カミリアは苦笑する。「ハーディ、勉強苦手だもんね」「むしろ、カミリアはなんでそんなに勉強できるの?」「好きだから」 即答するカミリアに、ハーディはげんなりしてココアを飲む。「すごいなぁ、カミリアは。強い上に勉強もできる、っていうか、好きでいられるだなんて。私には無理」「人それぞれ得手不得手があるから仕方ないよ。それに、ハーディは美味しいお菓子を見つけたり作ったりできるじゃない。私なんて、ココアも作れないんだから」 カミリアの言葉に、ハーディは吹き出す。「ふふふっ、そうだよね。カミリアってば、鍋焦がしちゃうんだものね」 最初はクスクス笑っていたが、腹を抱えて笑いだした。恥ずかしさでカミリアは耳まで真っ赤になる。「そんなに笑うことないでしょ」「だって、あんなに家事できない人、初めて見たわ」 涙を拭いながら言うハーディに、いたたまれなくなってうつむいてしまう。ハーディを励ますためにある程度笑われることは覚悟していたが、ここまで笑われるとは思っていなかった。「ごめんごめん、笑いすぎた。拗ねないで」「拗ねてないわ」 そう言いながらもカミリアは唇を尖らせている。
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39話

「そう? ならいいけど。明日の授業、楽しみにしてるわ。先生」「もう、プレッシャーかけないでよ。そんなに言うなら、助手にしちゃうんだから」「無理無理。私、目次見ただけで卒倒しちゃう」 ハーディが手をひらひら振って断ると、どちらからともなく笑い出す。それからふたりは他愛のない話をしながら、貴重な親友の時間を満喫した。食べきれないと思っていたお菓子も、夕方になる頃には消えていた。「もうこんな時間、そろそろ行かないと。時間になったら、夕飯持ってくるから」 ハーディはケーキスタンドやカップをワゴンに置く。カミリアは頬杖をつきながら、その様子を眺めていた。お腹も心も満たされて、少し眠い。「こんな時間、なんて言う割には結構ゆっくりしてたけど、大丈夫なの?」「今日は休みなさいって言われてたから、大丈夫」「じゃあ、なんでそんなに急いでるの?」「夕飯の時間が近いから、それまでに洗い物済ませておきたいの。はやく行かないと、大食いの男達に全部食べられちゃう」 あれだけお菓子を食べたのに、まだ食べる気なのかと呆れ返る。「あんなに食べたのに?」「それはそれ、これはこれ。じゃあね、先生」 ハーディはワゴンを押して部屋から出ていった。カミリアの部屋に、再び静寂が訪れる。それでもカミリアの心は晴れ晴れとしていた。ハーディのおかげで苛立ちが消え、やる気が満ちている。「授業の内容決めないと」 カミリアは本棚の前に立つと、基礎について書かれた軍学書をひっぱり出した。何度も読んでいた本だが、1度開くと読み進めるのが楽しくて、授業のことを忘れてしまった。半分近く読み終えたところで思い出し、目次を開き直す。「授業内容決めるために読んでるのに」 夢中になってしまったことに苦笑し、目次を指でなぞり、良さそうなページを開いては書き溜めていった。
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40話

 翌朝、カミリアが身支度を整えていると誰かがドアをノックした。「カミリア、僕、ラウルだけど。開けて大丈夫?」 カミリアは手早く髪を梳かすと、入室を許可した。ラウルはワゴンを押して入室し、テーブルの上に朝食を並べてくれた。「おはよう、カミリア。昨日、車椅子を乗り捨てていったみたいだけど、足は大丈夫?」「はい、大丈夫です。あの、昨日はすいませんでした。ちょっと気が立っていて、団長の言葉を勘違いしてしまって……」 カミリアが謝罪をすると、ラウルはキョトンする。おかしなことを言ってしまったのかと内心焦っていると、ラウルは優しい笑みを浮かべる。「どれのことを言ってるのか知らないけど、僕は気にしてないよ。一応言っておくけど、僕が好きなのは君だけだからね。誰にだって好きって言ってるわけじゃないよ」 恥ずかしいことをサラリというラウルに、カミリアの頬が上気していく。「そのことではありません。シャムスに女性騎士が、という話です。団長の疑問は当然なのに、ドゥム派のことでちょっと敏感になってしまって……。本当に」 人差し指を唇に添えられ、言葉が続かなかった。ラウルを見上げると、慈しむような眼差しを向けられていた。「さっきも言ったけど、僕は気にしてないよ。だから、謝らないで。それに、僕はそんな顔じゃなくて、笑顔が見たいなぁ」 歯が浮くようなセリフにどう対応していいのか分からず困惑していると、ようやく人差し指が離れる。「僕も朝食食べてくるよ。お腹空いちゃった。食べ終わったらここに来るから、話をしようね」 そう言ってラウルは軽やかな足取りで部屋から出ていった。 脱力したカミリアは、ベッドに座り込み、唇にそっと触れる。微かに残る触れられた感覚に、胸が締め付けられる。だが、悪い気はしない。「私ったら、何してるの……。これは、そう、驚いただけで……」 誰もいないのに言い訳している自分に気づき、なんとも言えない羞恥がこみ上げる。「ごはん、食べなきゃ」 自分に言い聞かせて黙々と朝食を食べることによって、羞恥を打ち消した。
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