氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜

氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜

last update最終更新日 : 2026-01-29
作家:  東雲桃矢たった今更新されました
言語: Japanese
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概要

強いヒロイン

甘々

純愛

貴族

一途

隠し身分

初体験

初恋

王族

法や規則でがんじがらめ、男尊女卑が激しい国、シャムスで生まれ育ったカミリア 彼女は女性でありながら騎士団長に成り上がる 「男など女性を見下してばかりでロクな生き物じゃない」と思い込むカミリアを助けたのは、騎士団希望の優男、ラウル 彼は入団した翌日に騎士団長の座をカミリアから奪ってしまう ラウルを目の敵にするカミリア、それでも彼女に優しくし続けるラウル

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第1話

1話

 白レンガで作られた家や店が綺麗に並ぶシャムスの王都、ルチェソラーレ。陽の光の下で人々は汗水たらし働き、笑い合う。活気づいた街の広場で、複数の少年少女が、ひとりの少年を囲んでいる。囲まれた黒髪の少年の頬には、三日月の焼印があった。

「この恥知らず!」

「不徳の子、お前なんか死んじゃえ!」

「黒髪に焼印なんて最低じゃん」

 子供達は心無い言葉を口にしながら、黒髪の少年に石を投げつけたり、太い枝で叩いたりしている。黒髪の少年は口を一文字にし、涙と声をぐっとこらえていた。

 周りにいる大人達は子供達を止めるどころか、黒髪の少年を嘲笑っている。

「君達、みっともない真似はやめないか」

 凛とした女性の声が、頭上から降ってきた。子供達が見上げた先には、銀色と臙脂色の鎧を身にまとった女性が立っている。彼女は長く美しいブロンドの髪をたなびかせながら、子供達を鋭い目つきで見下ろしている。威圧的な彼女の目に、子供達は固まる。彼女の名前はカミリア•ケリー。シャムスの騎士団長だ。氷のような冷たい眼差しと、迷いのない戦い方から、氷の戦乙女と恐れられている。 

「その子が何をしたというんだ?」

「だ、だって、コイツ、黒髪で……」

「そ、そうよ! それに、顔に焼印だってあるわ!」

 少年がおずおずと口を開くと、少女も黒髪の少年を指差しながら、声を荒らげる。カミリアは鋭い目つきを、更に鋭くした。子供達は小さな悲鳴を上げ、尻もちをついたり、立ち尽くしたまま震えたりする。

 大人達はカミリアに冷ややかな目線を投げかけた。

「その子が黒髪だと、君達にどう迷惑がかかる? 顔に焼印があるから、なんだというんだ?」

 カミリアの言葉に、子供達はうつむく。ただひとり、黒髪の少年だけは、彼女をまっすぐ見上げていた。

「髪の色なんて関係ない。焼印だって、この子が罪を犯した印というわけではないだろう。親は親、子は子、別の人間だ。髪色も焼印も、この子をいじめていい理由にはならない。他人を陥れたりいじめたりするのは、卑怯者のすることだ」

「な、なんだよ、身体売って騎士団長になったくせに!」

「っ!」

 少年のひとりが叫ぶように言うと、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

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1話
 白レンガで作られた家や店が綺麗に並ぶシャムスの王都、ルチェソラーレ。陽の光の下で人々は汗水たらし働き、笑い合う。活気づいた街の広場で、複数の少年少女が、ひとりの少年を囲んでいる。囲まれた黒髪の少年の頬には、三日月の焼印があった。 「この恥知らず!」 「不徳の子、お前なんか死んじゃえ!」 「黒髪に焼印なんて最低じゃん」  子供達は心無い言葉を口にしながら、黒髪の少年に石を投げつけたり、太い枝で叩いたりしている。黒髪の少年は口を一文字にし、涙と声をぐっとこらえていた。  周りにいる大人達は子供達を止めるどころか、黒髪の少年を嘲笑っている。「君達、みっともない真似はやめないか」  凛とした女性の声が、頭上から降ってきた。子供達が見上げた先には、銀色と臙脂色の鎧を身にまとった女性が立っている。彼女は長く美しいブロンドの髪をたなびかせながら、子供達を鋭い目つきで見下ろしている。威圧的な彼女の目に、子供達は固まる。彼女の名前はカミリア•ケリー。シャムスの騎士団長だ。氷のような冷たい眼差しと、迷いのない戦い方から、氷の戦乙女と恐れられている。 「その子が何をしたというんだ?」 「だ、だって、コイツ、黒髪で……」 「そ、そうよ! それに、顔に焼印だってあるわ!」  少年がおずおずと口を開くと、少女も黒髪の少年を指差しながら、声を荒らげる。カミリアは鋭い目つきを、更に鋭くした。子供達は小さな悲鳴を上げ、尻もちをついたり、立ち尽くしたまま震えたりする。  大人達はカミリアに冷ややかな目線を投げかけた。「その子が黒髪だと、君達にどう迷惑がかかる? 顔に焼印があるから、なんだというんだ?」  カミリアの言葉に、子供達はうつむく。ただひとり、黒髪の少年だけは、彼女をまっすぐ見上げていた。 「髪の色なんて関係ない。焼印だって、この子が罪を犯した印というわけではないだろう。親は親、子は子、別の人間だ。髪色も焼印も、この子をいじめていい理由にはならない。他人を陥れたりいじめたりするのは、卑怯者のすることだ」 「な、なんだよ、身体売って騎士団長になったくせに!」 「っ!」  少年のひとりが叫ぶように言うと、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
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2話
「君、大丈夫か?」 カミリアは、黒髪の少年に手を差し伸べる。少年は一瞬ためらうも、カミリアの優しい微笑を見て、その手を取り、立ち上がる。 カミリアは片膝をついて少年の目線に合わせると、彼の服についたほこりを叩き落とした。「ありがとうございます、カミリア様」「私は当然のことをしたまでだ、礼はいらないよ」 少年は何か言おうとするが、口を閉してうつむいてしまう。カミリアは少年の顔を覗き込む。「どうした? どこか痛むのか?」「ううん……。あの、カミリア様は、どうしてそんなにお強いのですか?」「幼少の頃から、剣の稽古をかかさずしていたからな」 カミリアが即答すると、少年は困った顔をする。カミリアは自分の回答のどこがまずかったのか考えるも、まったく思いつかず、彼女も困り顔になる。「あの、えっと……騎士としての強さもすごいと思いますけど……。なんていうか、どうして、そんなに堂々とできるんですか?」 少年の言葉にようやく質問の意図を理解したカミリアは、あぁ、と納得して声を出す。この国では昔ほどではないとは言え、男尊女卑が激しい。仕事で上の立場に行くのはいつも男性で、女性が地位を手にすると、体を売ったと後ろ指をさされる。 女は愛想よく笑い、家事をこなしていればいい。大半の国民は、未だそんな考えを持っている。女には勉学など必要ない。ましてや、剣を握るなど考えられないと言われてきた。「答えになるかは分からないが、私は負けず嫌いでね。女は家事だけしていればいいという考えが気に食わなかった。それに、勉強したいのに、女だからという理由で勉強をするなと言われて納得できなくてね。だから誰よりも賢く、強くなろうと必死になった。周りの目や陰口が気にならなくなるほどね」「必死になって頑張れば、いつか報われるんですね? 僕も、カミリア様みたいな騎士になれるかな……?」「痛みを知っている君なら、きっと優しくて立派な騎士になれるさ」 カミリアの言葉に、少年は目をきらきらと輝かせる。少年の尊敬や憧れのこもった眼差しに、カミリアはくすぐったい気持ちになる。
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3話
「僕、立派な騎士になってみせます!」「その時は、心の底から歓迎するよ。それじゃあ」 カミリアは少年の黒髪を撫でると、彼に背を向け歩き出した。「カミリア様ー! ありがとう!」 少年の声を背で聞きながら、カミリアは表情を曇らせる。「この国も、いつまでこんなことを続けるつもりなんだ……」 ため息をつき、臙脂色の肩当てに印された、シャムスの国章である太陽に触れる。太陽の国と言われているシャムスだが、陰湿な習慣や風習、迷信が数多く存在する。 たとえば、先程の少年の頬にあった三日月の焼印。この国は未婚の妊娠、出産を忌むべき行為とされている。結婚していない女性の妊娠や出産が発覚すると、ふたりの馴れ初めを、拷問してまで聞き出させる。 この時点で女性が妊娠していた場合、男性だけが拷問される。 女性が子供を産んだ後、ふたりは磔にされ、間にはふたりの馴れ初めが事細かに書かれた看板が立てかけられる。国民は日頃の鬱憤を晴らそうと、磔にされた者達を罵り、暴力をふるった。そのため、磔期間を終える前に亡くなる者も、舌を噛み切って自害する者も少なくない。 ふたりの間に産まれた子供には、三日月の焼印が押され、少年のように理不尽な目に合いながら生きていく。 太陽を象徴とするシャムスでは月は忌むべきもので、特に三日月はその形から不完全なもの、他人に害をなすものとされている。 シャムスは髪色にもうるさい。太陽の色と言われているブロンドは至高とされ、夜空を連想させる黒髪と、太陽が沈む夕空を連想される赤髪も差別の対象になっている。そのため、ブロンドの髪を持つ者は横暴な態度を取る者が多い。 黒髪や赤髪が経営している店に行き、無銭で商品を持ち帰るということはよくある話だ。 夜空には悪魔が潜んでいるから見てはいけないという風習もあるため、シャムス人は夜になると雨戸を閉め、家で過ごす。 騎士団の戦闘力だけはどの国にも劣らないが、政治は絶望的に時代遅れ。それがシャムスの実態だ。カミリアはそんな自国に心底うんざりしている。
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4話
 カミリアは見回りも兼ねて遠回りをして城に戻った。 訓練場に行くと、副団長のドゥム•モリスが騎士達に稽古をつけている。といっても、参加しているのはドゥム派の騎士ばかり。他の騎士達はそれぞれの武器を磨いたり、会議室で見回りルートを確認したりしている。他にも見回りに行っている者や、貴族の護衛についている者もいるが、彼らがこの場にいたとしても、ドゥムと稽古はしないだろう。 シャムスの騎士団は大陸1の戦闘力を誇っているが、女性でありながら騎士団長にまで成り上がったカミリア派と、5年以上騎士団長をしていたドゥム派で別れている。 カミリア派には数少ない女性騎士全員と、柔軟な思考を持った者、黒髪や赤髪で苦しんでいる者がいる。ドゥム派は女性、赤髪、黒髪などを蔑視する、典型的なシャムス人の集まりだ。ドゥムをはじめ、ほとんどがブロンドの髪で、自分が騎士団であることとブロンドであることを鼻にかけ、街で横暴な態度を取る者が多い。「ケリー団長、おかえりなさい」 大人しそうな顔立ちの、黒髪ショートの女性騎士がカミリアの帰還に気づき、にこやかに声をかける。 彼女の名はハーディ・ディアス。カミリアの幼馴染であり、唯一の親友だ。騎士団の中で、カミリアが1番信頼している人物でもある。「あぁ、今帰ったよ。街は今日も平和そのものだった。そちらは……」「これはこれは、カミリア•ケリー騎士団長殿。お買い物は終わりましたかな?」 ドゥムはカミリアの言葉を遮り、皮肉たっぷりの笑みを浮かべながら声をかける。「モリス副団長、君は相変わらず器が小さいな。いつまで性別や髪色で人を差別し続けるつもりだ? だから私に負けるのだ。それに、私は買い物ではなく、門番に話を聞きに行ったついでに見回りをしただけだ」「以前買い物をして帰ったのは、どこの誰でしたっけ?」 カミリアの正論に眉をひそめるも、ドゥムはすぐに憎らしい笑み浮かべ、揚げ足取りをしようとする。カミリアはそんなドゥムの心の底から哀れみ、ため息をついた。
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5話
 ドゥムが言っている”お買い物”は、会議室で騎士団皆が使っているインクのことを指している。以前インクが切れかかっていることに気づいたカミリアは、見回りのついでにインクを買ったことがある。ドゥムはそれを”買い物好きの女が、仕事中に買い物をした”と嫌味を言い続けているのだ。「いつまでそのことを言っているつもりだ? インクがないのに気づいたら、買うのは当たり前だろう。それに、君だって私が買ってきたインクを使っているじゃないか」「フン、次から次へとよくもまぁ言い訳が出てくるものだ。女は口ばかりで嫌になる」 やれやれと肩をすくめるドゥムの喉に、カミリアはレイピアの切っ先を突きつけた。一瞬の出来事にドゥムは何が起きたのか理解するのに数秒かかり、カミリアの殺気に冷や汗を流す。「男のくせに、随分と口が達者だな? ドゥム•モリス副団長。女でもそんなにねちっこく、ベラベラ喋っている者はいないぞ」「くっ……! このアマ!」 不敵な笑みを浮かべるカミリアに、カッとなったドゥムは本音を零す。騎士団長の座を奪われた恨みがこみ上げ、額に青筋を立てる。「お、おふたり共、どうか冷静になってください……」「私は冷静だよ、ディアス」 緊迫した空気にあたふたするハーディに、カミリアは穏やかな声で話しかける。余裕のあるカミリアに斬りかかろうとドゥムが大剣に触れると、見回りをしていた騎士が慌てた様子で戻ってきた。「だ、団長! 大変です、西の鉱山にトロール数体が出没しました! トロールを見かけた鉱夫が、命からがら逃げてきたとのこと」「トロールが? ……分かった、すぐに討伐隊を編成しよう」 カミリアは不審に思いながらも、今いる騎士で部隊を作ることにした。西の鉱山は比較的魔物が少なく、いたとしてもコボルトやインプなどの低級モンスターだ。それらは鉱夫でも簡単に退治できるほど弱い。 トロールの様な強い魔物が出たという話は、滅多に聞かない。それでも万一のことがあってはいけないというのが、カミリアの考えだ。
last update最終更新日 : 2026-01-29
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6話
「ディアス、今いる騎士の半数をここへ。救護組を最低ふたりと……」「団長、俺達もお供しますよ。トロールなんて力任せに動く連中、女じゃ太刀打ちできないでしょう?」 ニタニタ笑うドゥムに殺意を覚えるが、大剣使いのドゥムがいると助かるのも事実。カミリアは殺意を押し込んで彼を見上げる。「あぁ、頼んだ」「仰せのままに。おい、お前達、仕事だぞ!」 ドゥムが声を張り上げると、稽古をしていた約10人のドゥム派騎士が集まる。これにカミリアが集めた騎士と救護組を足せば、立派な討伐隊の出来上がりだ。「ケリー騎士団長、お待たせしました。馬も間もなく到着するでしょう」 ハーディは8人の騎士と3人の救護組を連れてきた。カミリアはざっと彼らを見回すと、確認するように頷く。「ではさっそく行くとしよう。残った者は、城の警備を怠らないように」「はっ!」 警備を任された騎士達は、敬礼をする。彼らを頼もしく思いながら策を練っていると、数人の世話係が人数分の馬を連れてきた。どの馬もたくましい体つきをしており、毛並みも艷やかだ。カミリアは白い愛馬をひと撫ですると、世話係に向き直る。「君達のおかげで、いつも状態のいい馬に乗れているよ。ありがとう。きっと馬達も喜んでいるだろう」「もったいないお言葉です」 最年長の男は、深々と頭を下げる。そのやり取りを馬の上から見ていたドゥムは、舌打ちをする。「おしゃべりもいいですけどねぇ、女騎士団長! さっさと行きましょうよ」「私にできることがあったら、なんでも言ってくれ。アレのことは気にするな」 カミリアはドゥムをチラリと見上げて言うと、愛馬に跨った。「相手は屈強なトロールだ。いつも以上に気を引き締めるように」「はっ!」「あのー……」 士気が高まり張り詰めた空気を、若い男のユルい声が台無しにする。苛立ちながら声がした前方を見ると、美丈夫がカミリアを見上げている。腰に2本の剣を携えており、片方はシャムシールという曲剣だということが分かる。初心者には扱えない剣を所持していることから、手練だと容易に想像がつく。 だが、持ち主の男はミルクティー色のウェーブがかかった髪に、青空のような美しい瞳を持つ優男で、とても剣を扱うような人間には見えない。
last update最終更新日 : 2026-01-29
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7話
「君、そこをどきなさい」「騎士団の方々ですよね? 僕、ラウルといいます。騎士団に入団したくて、遠い街から来ました」 ラウルと名乗る男はカミリアの気迫に気圧されることなく、にこやかに自己紹介をする。落ち着き払ったラウルの態度は、一刻も早く鉱山に行きたいカミリアを苛つかせた。(ここで怒ったら、ドゥムに何を言われるか分からないな……) カミリアは大きく息を吐くと、ラウルを見下ろす。「私達は今からトロールの討伐に行かなくてはならない。悪いが日を改めてくれないか?」「そうですか」 ラウルも諦めただろうと思ったカミリアが退くように言おうとした途端、ラウルは笑顔を浮かべる。「それじゃあ、僕を連れて行ってください。それで僕の実力を見て、入団させるか決めたらどうですか?」「何を言っているんだ! そんなこと、できるわけないだろう」「いいじゃないですか、連れてってやりましょーよ。たったひとりの入団希望者のために時間を割くのも、もったいないでしょ」 ドゥムは悪意に満ちた笑みを浮かべながら言う。(何か企んでいるな……。ドゥムなら、この青年を殺してまで私を陥れても不思議じゃない)「断る。素人を連れて行って、何かあったらどうするつもりだ?」 ドゥムはカミリアが断ることを見越していたのか、笑みを深める。「おやおやぁ? 女騎士団長様は、たったひとりの民を守りながら戦うことすらできないのですか?」「……分かった、連れていけばいいんだろう? ドゥム副団長、君の馬に彼を乗せてやるといい。確か、君の馬は何人乗ってもスピードが落ちることはない、とか言っていたな」 安い挑発だと分かってはいるが、女ということを強調されると、引き下がれない。ラウルを連れて行く代わりに、ドゥムの馬に彼を乗せる。乗馬中なら、ドゥムもラウルに何かすることはないと考えた。何より、忌々しい男と同じ馬に乗るなんて考えられない。「はっ、イヤミ返しのつもりか? ほらガキ、後ろに乗れ」「はい、ありがとうございます」 青年はドゥムの手を借りず、軽やかに馬に乗った。意外と筋力はありそうだと横目で見ると、カミリアは出立の合図を出して馬を走らせた。
last update最終更新日 : 2026-01-29
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8話
 馬で約10分のところにある鉱山に着くと、麓で馬を休ませる。鉱山は人が出入りしているため道は整備されているが、魔物と戦闘になった際、馬から降りる時間が命取りとなる。「ラウルといったな。君は私から離れないように」「はい、分かりました」 ラウルが返事をすると、討伐隊は鉱山に入っていく。なだらかな坂を少し登っていくと、開けた場所に出る。ここは鉱夫達の休憩所にもなっており、簡易的に作られたベンチや、焚き火の跡がある。「来るぞ……」 魔物の気配を察したカミリアは、レイピアを抜く。「ここは僕に任せてくれませんか?」 ラウルはレイピアを握ったカミリアの手を軽くつかむと、シャムシールを引き抜いた。それとほぼ同時に、3体のゴブリンが飛び出してくる。ゴブリン達はこん棒を振り回しながら、こちらに向かって突進してくる。「せめて違う方向から襲ってくればいいものを……」 ラウルはやれやれと肩をすくめると、大股で走って距離を縮める。 瞬間、殺意が弾けた。ラウルはシャムシールを横に振り、ゴブリンは悲鳴を上げる暇もなく、首を切り落とされてしまった。 ラウルはシャムシールを振って付着した血を飛ばすと、鞘に収めて振り返る。彼の優しい笑顔とその足元に転がるゴブリンの首に、数人の騎士は吐き気をもよおす。「どうです?」「はんっ、ゴブリンなんざを倒していい気になんな」 ドゥムは鼻で笑うが、カミリアはラウルの剣技に圧倒された。ドゥムの言うとおり、ゴブリン3体を倒すことなど騎士からすれば造作もないことだ。だが、3体同時に首を切り落とすのは至難の業だ。(この男、ドゥムなんかよりよっぽど強い……!) カミリアはとんでもない新入りが入ることに喜びと恐怖を覚えながらも、顔に出さずにラウルに声をかける。「やるじゃないか。さぁ、先に進もう」「はい」 討伐隊は更に上へ登っていく。途中、ゴブリンやコボルト、インプなどの低級モンスターが襲ってきたが、すべてラウルが斬り捨てて行った。
last update最終更新日 : 2026-01-29
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9話
 中腹辺りまで来ると、道が3本に別れている。「俺達はこっちの方行きますね」 ドゥムは崖に沿った道を勝手に進む。ドゥム派の騎士が、その後についていく。「いいんですか、勝手に行っちゃいましたけど」「いつものことだ。半分はディアスと、残り半分とラウルさんは、私と行動すること。私達は真ん中の道を行く」 カミリア達はふた手に別れると、それぞれの道を行った。 カミリア達が進む真ん中の道はあまり使われていないらしく、整備されていない。岩が転がる道を進んでいくと、緑が徐々に増えていく。さらに進むと森になっていた。 森には多くの魔物達が生息している。彼らを刺激しても、お互いにいいことはない。ゴブリンのような低級モンスターならまだしも、バジリスクやコカトリスに遭遇しては厄介だ。「この先は危険だ。引き返すぞ」「はっ!」 カミリア達が引き返すと、ハーディ達がすでに戻っていた。「ケリー騎士団長、ご無事で何よりです。こちらは行き止まりで何もありませんでした」 ハーディは敬礼をすると、簡潔に報告をした。「そうか。こちらは森だったので引き返してきた。あとは……モリス副団長か……」 ラウル以外の表情に翳りが見える。ここにいる騎士は全員がカミリア派だ。ドゥムはカミリア派の人間にも風当たりが強く、特に女性騎士には厳しい。「皆さん、副団長のこと嫌いみたいですね」「え? いや、そんなことは……」 正直に言うと嫌いだし、はやく辞めてもらいたい。だが、そんな本音を口にするのは騎士としてというより、人としてためらわれた。どう答えようか考えあぐねいていると、ドゥム派の騎士がひとり、慌てた様子で戻ってきた。「ケリー騎士団長、大変です!」「どうした?」 ドゥム派の騎士の丁寧な呼び方に違和感を覚えるも、緊急事態でそんなことをいちいち問い詰めるわけにはいかない。騎士は息を整えると、敬礼をする。
last update最終更新日 : 2026-01-29
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10話
「細道をしばらく進んだ先に洞窟があって、そこから獣の唸り声が聞こえたんです。止めたんですけど、ドゥム副団長と他の騎士達が入ってしまったんです」「まったく、困った人達だ……。では皆、そちらに行こうか」「あ、あの!」 ドゥム派の騎士は、慌てて声を張り上げる。彼の行動に、カミリアはますます不審に思うが、証拠もないのに疑ってはいけないと自分に言い聞かせた。「どうした?」「向こうの道は崖沿いでして、副団長達と歩いた時に少し崩れました。それに、人ひとりがやっと通れるくらい細い道ですので、えっと……」「つまり、大人数で行かないほうがいいと?」 しどろもどろに話す騎士に少し呆れ、結論をカミリアが代わりに言うと、彼は何度も大きく頷いた。「は、はいっ! そういうことです! なので、団長ひとりで向かわれたほうがいいかと……」「分かった、私ひとりで行こう」「ケリー騎士団長!」 ハーディは声を荒げ、伝達に来た騎士を睨みつける。彼女が言いたいことを察したカミリアは、落ち着かせようと微笑みかける。「大丈夫だ、ディアス。君の言いたいことは分かるが、あれでもモリス副団長も、彼について行った騎士達も、大事な部下だ。彼らを見捨てるわけにはいかないだろう?」「ですが……!」 食い下がるハーディの肩に手を置くと、これ以上何を言っても無駄だと察したのか、口を噤んでうつむく。「ディアス、君が心配してくれるのはとても嬉しい。君の忠告を胸に、慎重に行動する。だから。君は彼らと一緒に、先に山を降りてくれ。必ず、全員連れて帰るから」「……分かりました。どうか、ご無事で」「あぁ、行ってくる。君、案内を頼めるか?」「もちろんです!」 騎士は敬礼すると、崖沿いの道へ向かう。カミリアはその後をついて行く。「何もなければいいんだけど……」「……」 ハーディは不安げな目でカミリアの背中を見つめる。その隣で、ラウルは険しい目でふたりを見つめる。
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