All Chapters of 氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜: Chapter 71 - Chapter 80

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71話

「ソニア、今大丈夫?」 それはラウルの声だった。カミリアは安堵しながらドアを開ける。「さっきはお疲れ様。1日の流れについて話していなかったと思ってね」 ラウルはソファに座ると、カミリアに隣に座るように促した。カミリアが座ったのを確認すると、ラウルはコートのポケットから紙を出して広げた。「まず、朝食。その後は2時間だけ鍛錬をする」「本当に!?」 鍛錬という言葉に、カミリアは目を輝かせる2時間は少ないが、覚えなくてはいけないことが山ほどある。贅沢は言ってられない。「嬉しそうだね」「ちょうどさっき、ラウルに鍛錬の時間を作ってもらえるように交渉しようと思ってたところだったの」「はははっ、君らしいね。ちなみに鍛錬だけど、ナイフの使い方を覚えてもらおうと思ってるんだ」「ナイフを?」「そう。会場にレイピアやサーベルは持ち運べないからね」 理由を聞いて納得する。長剣を持った淑女など聞いたことがない。もし仮に居たとしても、殿方は避けるだろう。ナイフならドレスの中に仕込んでも見つかることはほとんどない。「納得した?」「えぇ」「じゃあ早速始めようか。他の予定はここに書いてある。できるだけ早く身体を動かしたいだろう?」 ラウルは予定表を折りたたむと、テーブルの上に置いて立ち上がる。心なしか、ラウルも生き生きしているように見えた。身体を動かしたいのは自分だけではないと知り、嬉しくなる。「僕は部屋の外で待ってるから、動きやすい服に着替えておいで」 そう言ってラウルは部屋から出ていった。カミリアは持参したシャツとズボンに着替えると、髪をひとつにまとめて部屋を出る。ラウルは壁に寄りかかって待っていた。「随分早いね。そんなに楽しみだった?」「えぇ、勿論」 カミリアが即答すると、ラウルは柔らかな笑みを浮かべる。カミリアは今の振る舞いは淑女らしくなかったと反省するも、早く身体を動かしたくて仕方なかった。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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72話

 ラウルに連れられ、中庭に出る。中央は芝生が広がり、それを縁取るように様々な花が咲いている。隅にはベンチも置いてあって、ベンチの上にはナイフと同じサイズの木刀が2本置いてあった。ラウルは木刀を手に取ると、1本カミリアに手渡す。「ナイフの扱いは僕が教えよう。今日は基本からだ。握り方は3つ。逆手に持つアイスピックグリップ、親指を伸ばしてナイフの背に置くセイバーグリップ、親指も握るハンマーグリップ」 ラウルは説明しながら、ナイフを持ち方を次々に変えていく。鮮やかな手つきに、カミリアは思わず見惚れてしまう。「こんなにはやくやる必要はないから、ひとつずつ覚えていって」 今度はひとつずつ丁寧に握り方を変えていく。カミリアはそれを見ながら、ナイフを握り変えていく。最初はアイスピックグリップからセイバーグリップに変えるのに苦労したが、少し練習しただけでスムーズに持ち変えられるようになった。「握り方はほとんど完璧だね。どのタイミングでどの握り方に変えていけばいいのかは、戦っているうちに分かってくるはずだよ。時間が惜しい、早速始めようか。好きなタイミングでおいで」 ラウルは足を肩幅程度に開き、自然体で立つ。カミリアはアイスピックグリップで握ると、ラウルの肩を狙った。ラウルは既のところで1歩横にずれ、カミリアの木刀を弾いた。長剣とは違う衝撃に、カミリアは思わず木刀を手放してしまう。「長剣のことは一旦忘れて。距離感も全然違うからね」「そうね……」 カミリアは木刀を拾い上げると、再びラウルに斬りかかった。 2時間後、カミリアは芝生の上に座り込む。慣れない木刀に苦戦したものの、心は晴れやかだ。「大丈夫?」 差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。「大丈夫。ナイフは難しいけど、楽しかった。ありがとう」「どういたしまして。汗を流しておくといい。僕は書斎で仕事しているから、何かあったらルナに案内してもらうといい」 ラウルは木刀を回収すると、カミリアと一緒に屋敷の中に入る。2階でラウルと別れ、自室に戻るとサージュがいた。テーブルには食器が並んでいる。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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73話

「護身術のお稽古、お疲れ様でした。汗を流したら、テーブルマナーの勉強をしましょうね」「はい……」 カミリアが居心地の悪さを覚えながらも、着替えを持って浴室に行く。少し警戒していたが、昨晩身体を洗ってくれた女性達はいなかった。 安堵して籠に着替えを入れようとすると、小さな紙と、昨日塗ってもらったクリームが入っていた。紙には”傷直しのクリームをお使いください。湯浴みが終わったらベルをお鳴らしください”と、少し下手な文字で書いてあった。 彼女達の気遣いが嬉しくて、頬が緩む。紙を畳んで着替えのポケットに入れると、カミリアは汗を流した。 湯浴みが終わり、クリームを塗って服を着ると、ベルを鳴らした。するとすぐにドアがノックされ、ドアの向こうから彼女達の元気な声が聞こえる。「お待たせしました、ソニア様」「どうぞ、入って」 言い終わるやいなやドアが空き、3人がなだれ込むように入ってくる。彼女達の勢いに圧倒されていると、ひとりがタオルを持ってカミリアを椅子に座らせ、残りふたりはカミリアの手足をマッサージしていく。「護身術を身につけるんですって?」「いいことですわ。ソニア様はお美しいから、多くの殿方に狙われるでしょうし」「強くて美しい女性、素敵ねぇ」 彼女達は口々に思ったことを言いながら、カミリアの髪を拭いたり、マッサージしたりする。賑やかではあるが彼女達の腕は確かで、またウトウトしてしまう。 後ろで手を叩く音で、カミリアは我に返り、寝そうになっていたことに気づく。「ソニア様の髪は、お手入れをする度に綺麗になっていくわ」「また今夜、お手入れするのが楽しみね」「ふたり共、あまり長居してはいけないわ。ソニア様、お勉強頑張ってくださいね」 3人はカミリアに返事をする間も与えずに、浴室から出ていった。カミリアは数秒固まると、自分の髪に触れる。今まであまり気にしたことはないが、少しだけ手触りが良くなっていた。それだけで頑張ろうと思えるのだから、彼女達には感謝しかない。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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74話

 自室に戻ると、サージュが笑顔で出迎えてくれた。「改めて、護身術の稽古お疲れ様でした。早速ですが、テーブルマナーのお勉強をしましょう」「はい……」 今朝のことを思い出すと、胃が痛くなる。カミリアの心情を察したのか、サージュはカミリアの肩に手をおいた。「これは食事をする場ではありませんので、書きながら覚えてもいいんですよ」 テーブルの上には、ノートや筆記用具が置いてあった。カミリアは安堵してテーブルの前に座った。 サージュは流れをひとつひとつ丁寧に教えてくれて、カミリアがノートに書き終えるのも待ってくれた。おかげで今朝のように焦らず、ゆっくり覚えることができる。 何度かノートを見ながら所作の練習をした後、ノートとサージュのアドバイス無しで一通りやることになった。落ち着いて勉強できたおかげで、不安よりも自信が勝った。緊張しながら教わったとおりに食べるフリをしていく。 ナプキンは2つ折りに、食器は外側から。食べ物を口に運ぶ時は、首を前に出さないように、意識しながら食べる。スープはスプーンいっぱいに入れず、半分程度を心がける。 ひとつひとつ意識するのは大変だが、今朝のような失態を犯さないためにも集中する。 最後にナイフとフォークを皿に置き、ナプキンをわざと雑にたたんでテーブルの隅に置く。「素晴らしい! ほとんど完璧でした。ソニア様は優秀ですね」「サージュさんのおかげです」 サージュに褒められ、身体の力が抜ける。気がつけば、サージュへの苦手意識もほとんど消えていた。これならなんとかやっていけそうだ。 外から鐘の音が響き、12時になったことを知らせる。サージュは少しの間窓の外を見て鐘の音に耳を澄ませると、笑顔でカミリアに振り返った。「昼食の時間ですよ、ソニア様。ラウル様に練習の成果を見てもらいましょうね」「はい」 食堂へ向かう途中、カミリアを迎えに来たルナと合い、3人で食堂へ向かった。テーブルの上には今朝と同じくふたつのお誕生日席に料理が並んでいる。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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75話

 ルナが椅子を引き、座りやすいようにしてくれる。カミリアが座るのと同時に、少し椅子を前に出してくれた。「ありがとう」 カミリアが礼を言うと、ルナは会釈してカミリアの後ろに立つ。今朝は気にする余裕がなかったが、人に見られながら食事をするのは居心地が悪い。(どうせいるなら、一緒に食べればいいのに) 使用人が主人達と食事をすることはないと頭では分かっているものの、そう思わずにはいられなかった。 彼らの生活リズムは知らないが、きっと自分達より遅く食べるのだろう。空腹の状態で主人達の食事を見て、後ろに立っていなければいけない。しかも、物欲しそうな顔をしてはいけないのだ。さぞかし辛いだろう。 使用人への勝手な感傷に浸っていると、ラウルが入ってきた。(そういえば、ラウルはどうしてひとりなの?) 自分の後ろには教育係のサージュと世話係のルナがいるが、ラウルの後ろには誰もいない。この屋敷の主人なら、執事やメイドを従えてくるのが自然だろう。「ソニア、どうかした?」「私にはメイドや教育係がいるのに、なんであなたはひとりなんだろうって思って」 素直に疑問を口にすると、ラウルは困ったように笑う。「いつもは執事がいるんだけどね。彼、極度の人見知りで。紹介しようと思ったんだけど、1ヶ月なら逃げ切れるって言ってこの通りさ」 そう言ってラウルは、本来なら執事がいるであろう右を横目で見て苦笑した。 カミリアは呆れ返ってため息をつく。騎士と執事は違う職種ではあるが、人に仕えるという意味では同じだ。人見知りを理由に、主人のそばを離れるなど言語道断。これが自分の部下だったら、昼食抜きで1日中素振りさせていただろう。「ここにいない分、違う仕事をやってもらってるからね。さぁ、冷めないうちに食べよう」 顔に出ていたいのか、ラウルは執事のフォローをしてから手を合わせた。カミリアも手を合わせ食事を始める。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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76話

(ナプキンを2つ折りにして、膝に敷いてから食事をいただく。背筋を伸ばして、料理は文字通り口に運び、首を前に出さないように) 先程学んだことをひとつひとつ意識しながら、少量ずつ食べていく。動きもまだぎこちない上にこうして意識をしないといけないが、料理を味わう余裕ができたことに喜びを感じる。「驚いた。今朝とは大違いだね」 ラウルは目を見開き、カミリアを見ていた。ラウルにも褒められたことが嬉しくて、頬が緩む。「さっき、テーブルマナーを学んだの」「ソニア様は物覚えがとてもいいんです」 サージュにまで褒められ、くすぐったい気持ちになるが、悪い気はしない。「そんな、サージュさんの教え方が分かりやすかったからですよ」 ふたりのやり取りを、ラウルは温かい目で見ていた。ラウルの目線に気づき、少し照れくさくなる。「ふたりが仲良くしてくれて、本当によかった。サージュ、これからもソニアをよろしくね」「もちろんですとも。私がソニア様を立派な淑女にしてみせます」 サージュは誇らしげに胸を張った。カミリアも、ラウルやサージュの期待に応えられるように努力しようと思った。 どうやらラウルの褒め言葉はサージュに効きすぎたらしく、午後から急に目まぐるしくなった。3時まではダンスの練習、3時になればお茶会のマナー。 実際にお茶を飲んでお菓子を食べながらするので少しは楽しめるかと思ったが、些細なことさえ注意され、気疲れする。せっかくのお菓子や紅茶も台無しだ。 お茶会が終わるとまたダンス。ダンスが終われば化粧の練習と、休む暇がない。 それに加え、言葉遣いもいちいち注意されるため、凄まじいスピードでストレスが溜まっていく。「あの、サージュさん。そんなに一気に教えられても、覚えきれません。今朝、テーブルマナーを教えてくれた時のように、ゆっくり教えてくれませんか? いくら知識を詰め込んでも、覚えられなきゃ意味がないと思うんです」「何をおっしゃいますか。交友パーティまであと1ヶ月しかないんですよ? 覚えてもらえないと困ります」
last updateLast Updated : 2026-02-02
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77話

 あまりキツい言い方にならないように心がけながら伝えるが、サージュは聞く耳を持たない。それどころか他に何を教えるべきなのか考え始める。(褒められて調子に乗りすぎるタイプね……) 昼食中、ラウルがサージュを褒めていたのを思い出す。(ラウルに言ったら、少しは落ち着くかしら? けど、あれこれ言いつけるのもね……) 人に言いつけるのは卑怯者がすることのように思えて、躊躇われた。自分で何度か注意して、ダメだった時に考えることにした。 夕食になると、カミリアは安堵する。昼食の時はほとんど言われなかったから、食事中は大丈夫だろうと思った。だが、カミリアの見当は大きく外れてしまった。 昼食の時と同じように意識しながら食べていると、サージュに手を掴まれてしまった。「ソニア様、今のも悪くはありませんが、角度をもう少しなおすと、よりエレガントに見えますよ」 そう言ってカミリアの肘を、少しだけ伸ばした。修正されたまま食べるが、食べづらくて仕方ない。「サージュ、教育熱心なのはいいけど、もう少し力を抜いて。ソニア、さっきの食べ方で問題ないよ」「はい」 ラウルが少し険しい顔で注意すると、サージュはうつむき、小声でボソボソと何か言っている。よく耳を澄ませてみるも、聞き取れない。「テーブルマナーも大事だけど、食事は楽しまないとね」 ラウルはいつもの穏やかな笑みを浮かべると、食事を再開させた。カミリアも食べ始めたが、今度は何も言われずに終わった。 湯浴みが終わって自室に戻り、ようやくひとりの時間が訪れる。日中は自室にサージュやルナが入ってくる。カミリアがいる時にノックをして入ってくるのならまだいいが、鍛錬から戻った時に、当然のようにいられるのはあまりいい気がしない。 常に誰かといることに気疲れして、体力が有り余っているのにくたくただ。 少しでもストレス軽減できればと、汗をかかない程度に軽くストレッチをし、読書をしてから眠った。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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78話

 翌朝、身支度が整った後にソファで寛いでいると、ルナとサージュがカミリアの迎えに来た。ルナはいつもどおりだが、サージュに覇気が感じられない。昨日はまっすぐ目を見て話したのに、伏し目がちにルナの後ろに突っ立っていた。(サージュさん、あの後ラウルに何か言われたのかしら?) カミリアは、ナイフの稽古の時に話を聞こうと決めた。 朝食中、サージュはやはり物静かだった。静かなのはいいことだが、魂が抜けたような顔は、見ていられない。試しにわざと食器の音を立てたが、無反応だ。これにはラウルもおかしいと思ったのか、訝しげな目でサージュ女史を見た。 朝食が終わり、着替えて中庭に出ると、ラウルがベンチに座って待っていた。カミリアはその隣に座る。「サージュさん、今朝から元気がないんだけど、あの後改めて注意したりした?」「いや、あれっきりだよ。彼女、人の言葉に影響されやすいからなぁ……」 ラウルはやれやれと肩をすくめる。どうやらカミリアの予想は概ね当たりのようだ。「参考に聞くけど、昨日はどうだった?」 ラウルに聞かれ、カミリアは昨日のことをすべて話した。ラウルは少し考えるような素振りを見せると、カミリアにナイフの木刀を手渡して立ち上がる。「ちょっとサージュと話をしてくるよ。悪いけど、自主練習してもらえないかな? それは自分でそのまま持ってていいから」「分かった」「それじゃあ、行ってくる」 ラウルを見送ると、カミリアはひとりで基礎の動きを何度も練習した。 少し早めに切り上げて汗を流してから自室に戻ると、サージュがいた。テーブルの上には、皿や食器が並んでいる。「自主練習お疲れ様です、ソニア様。テーブルマナーの練習をしましょうね」 昨日のサージュに戻っていることに安心したが、ラウルが何をしたのか少し気になった。 授業は昨日の午前のように平和に終わり、心の底から安堵する。その後の昼食やダンス、お茶会のマナーなども平和に終わってくれた。おかげでストレスはだいぶ軽減されたが、それでも言葉遣いの指摘や、常に誰かといる1日は疲れる。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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79話

 そんな日々が2週間続き、カミリアはストレスで窒息寸前まで追い詰められた。「騎士団の皆、どうしてるんだろう?」 ハーディやラート、他の騎士達のことを思い出す。せっかく彼らと距離を縮められたのに、離れ離れになってしまって寂しい。ある種のホームシックが、カミリアを更に追い詰めていく。 彼女を追い詰められているのはそれだけではない。ほとんどの授業は上手くいっているが、ダンスだけは思うようにいかない。サージュの教え方は丁寧で分かりやすい。ステップも頭に入っているし、ひとりでやった時はそこそこできているように思う。けど、サージュに相手をしてもらった途端、上手くいかないのだ。「せめてラウルがいれば……」 ラウルの顔を思い浮かべ、ため息をつく。ここ1週間ほど、ラウルの姿を見ていない。食事の時ですら姿を見せないのだ。ルナに聞くと、公務で忙しくて部屋に籠りきりになっているらしい。おかげで数少ない息抜きであるナイフの稽古が出来ていない。 カミリアは今、世の女性達に向かって大声で叫びたい気分だ。「屋敷暮らしも楽じゃないんだから!」と。「こんな日々が、はやく終わりますように」 カミリアは月に祈り、眠りについた。 翌朝、食堂に行くと珍しくラウルの姿があった。彼はカミリアの姿を見るなり、顔をほころばせた。「やぁ、久しぶりだね。ソニア。元気にしてたかい?」「えぇ、元気にしてたわ。ところで、その服装は……」 いつもはシャツにトラウザーズだが、今のラウルは庶民と同じような服装をしている。「朝食が終わったら、ふたりで出かけようと思ってね。ソニアの分も、用意してあるよ」「またお忍びですか? この忙しい時期に」 嬉しそうにくるりと回るラウルに、ルナは呆れ返る。ふたりのやり取りを聞いて、カミリアはワクワクしていた。朝食が終わったら、この屋敷から出られる。行き先が分からなくても、出られるだけで心の救いになる。
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80話

 朝食が終わると、ラウルのエスコートで外に出る。庭には立派な馬車が停まっており、ラウルはドアを開けてカミリアを馬車に入れた。ふかふかの座席には、懐かしいものが置かれている。「ラウル、これって……」「気に入ってくれた? 僕は外で待ってるから、そこで着替えて」 そう言ってラウルはドアを閉める。 カミリアは座席に置かれていた鎧を手に取り、そっと撫でる、懐かしい重みに、目頭が熱くなった。久方ぶりに着ると少し重く感じるが、それが心地良い。着替え終えると、ドアを少しだけ開けた。「入って大丈夫?」「どうぞ」 カミリアが返事をすると、ドアが開いてラウルが入ってくる。ラウルはカミリアを見ると、目を細めた。「うん、やっぱりその格好が1番カミリアらしいね」 久方ぶりに本名で呼ばれるだけで、胸が弾む。正確には聞けてないが、鎧のおかげで目的地もはっきりしたも同然だ。「シャムスの城に行くの?」「あぁ、そうだよ。時々シャムスに行くんだけど、騎士団の皆がカミリアロスでね。今日は副団長に戻って欲しい」「そういう話なら、いつでも待ってるわ」「だろうね。ここ最近ナイフの稽古にも付き合えなかったしね。そうだ、途中でお土産買っていこうか」「えぇ、そうね」 途中、酒やお菓子を買って城に行く。馬車を門の前に停め、そこから歩いて騎士団の宿舎へ向かう。 離れていたのはたった2週間なのに、懐かしく感じる。任務で1ヶ月以上宿舎から離れていたことはあったが、その時だってここまで懐かしいと思わなかった。 一時的とはいえ、この場に戻れたことが嬉しくて、気を抜けば涙が零れてしまいそうだ。「カミリア!?」「ハーディ!」 ふたりはどちらからともなく駆け寄り、抱きしめ合う。久方ぶりに見る友の顔を見れて、騎士としての振る舞いを忘れてしまうほどに舞い上がる。ふたりはしばらく抱きしめ合うと、顔を見合わせる。
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