All Chapters of 氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜: Chapter 91 - Chapter 100

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91話

「あなた、ラウルの執事ね? 話は後。ラウルをベッドに寝かせたいから、布団をめくってくれる?」 男は何か言いかけるが、口を噤み、布団をめくった。カミリアがラウルを寝かせると、男は布団をかけてカミリアに向き直る。「それで、貴女は……」 ドアが開き、男の言葉が遮られる。桶を乗せたワゴンを押しながら、ルナが入ってくる。彼女はベッドの近くにワゴンを運ぶと、男を睨みつけた。「オネスト、ソニア様に向かって失礼じゃない!」「ソニア様? この女が?」 オネストはカミリアを横目で見ると、鼻で笑う。カミリアはこの男が本当に執事なのか疑う。今まで見てきた執事は、裏でどんなに主の悪口を言おうが、見事に忠誠を誓った使用人を演じていた。ここまで傍若無人な執事は、見たことがない。「この女がソニア様なら、どうしてシャムスの騎士なんかの鎧を着ているんだ?」「きっと、何か事情があるのよ。ラウル様を想うのなら、はやく医者を呼んできて。医者の連絡先を知ってるのは、あなただけなんだから」「忌々しいシャムス人め」「オネスト!」 オネストはカミリアを睨みつけ、吐き捨てるように言う。ルナが咎めるが、彼は何も言わずに部屋を出た。「申し訳ありません、ソニア様! オネストは、ラウル様以外に心を開いてなくて……」 ルナは眉尻を下げ、深々と頭を下げた。カミリアは片膝をつき、彼女の肩に手を置く。「いいの、きっと何か事情があるのでしょう。そういえば、馬車の中に紙袋がなかった? あれには薬が入ってるんだけど、ここに持ってきてもらえる?」「ソニア様はお優しいですね。ラウル様が見初めるのも分かります。お薬、取ってきますね」 ルナは顔を上げるなりほころぶような笑顔を見せ、部屋から出ていった。「見初めるって……。あなたは使用人達に、私のことをなんて話したの?」 ラウル以外の人間から彼の想いを聞かされるのは恥ずかしいが、不思議と悪い気はしない。くすぐったい気持ちになってラウルに聞くが、彼はすやすやと寝息を立てるだけ。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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92話

 カミリアは桶に沈んでいるタオルを絞ると、ラウルの顔を拭いた。一通り拭いて桶に沈めると、少し白く濁った。きっとハンカチで取りきれなかった化粧だろう。化粧をしてまで疲労を隠していたラウルを思うと、胸が苦しくなる。同時に疑問に思う。何故彼はそうまでして無理をしたのだろう? 時期国王最有力候補だからというのが思い浮かぶが、いつもヘラヘラしている彼にそんな野心があるのだろうか? ドアがノックされ、カミリアの思考が停止する。返事をすると、ルナが入ってきた。「こちらでお間違いないですか?」 ルナは紙袋を見せながら聞いてくる。それは間違いなく、メディナからもらった薬だ。「そう、それよ。ありがとう」 カミリアは紙袋を受け取ると、サイドテーブルに置いた。「あの、ソニア様……」「鎧のことなら、医者が来てから話すわ」 言いづらそうなルナに察したカミリアが先に言うと、ルナはコクリと頷いた。「ここはソニア様にお任せしますね。私達使用人がラウル様の服を脱がそうものなら、怒られてしまいますので」 ルナは悲しそうに言うと、部屋を出ていった。「どういうこと?」 あれだけ使用人に好かれている彼が何故怒るのか? 彼も使用人達に身体を洗わせているのではないか? だからカミリアも、初日は使用人に洗われたのではないのか? 彼と知り合って日が浅い自分が脱がせてもいいのか? 気になることがいくつも出てくるが、汗をかいたままにしておくのは良くないと思い、シャツのボタンを外していく。シャツをはだけさせ、カミリアは絶句する。 ラウルの右の鎖骨下には、いつかの黒髪の少年と同じ焼き印があった。「どうして……」 震える指先で焼印に触れると、笑い声が聞こえた。驚いてラウルの顔を見ると、彼は薄目を開けて笑っている。「驚いた? 僕、シャムスとフェガリのハーフなんだ」 今ではシャムスとフェガリのハーフは増えてきてはいるものの、ラウルが産まれる頃では考えられない話だ。「驚きはしたけど、それだけ」 カミリアはあえてそっけなく言うと、身体の汗を拭き取る。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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93話

 ボタンを閉めると、その手にラウルの手が重なる。「僕の話、聞いてくれる?」「話は後でいくらでも聞くから、今は休んで」「このまま手を握ってくれるならね」「分かった。握ってるから、休んで」 カミリアが両手でラウルの手を握ると、彼は子供のように無垢な笑みを浮かべ、目を閉じた。ラウルの寝顔を見つめながら、彼が少しでもはやく良くなることを祈った。 夜が訪れる手前になると、誰かがドアをノックする。返事をすると、初老の男性とオネストが入ってきた。服装からして、この男性が医者なのだろう。オネストはサイドテーブルの薬をどかすと、持っていた診察カバンを置く。「この紙袋は?」「シャムスの薬屋で買った薬よ」「こんな忌々しいもの……!」 オネストが薬を捨てようとすると、医者が薬を取り上げた。「これこれ、薬を無駄にしてはいかんよ。どれどれ」 医者は紙袋を開けると、興味深そうに薬を見ていく。「お嬢さん、このお薬はなんの薬かね?」「その薬屋で1番効果があるという風邪薬と、疲れを取る薬です」 カミリアの説明に医者は何度も頷くと、彼はそれぞれの薬をひと舐めした。味わうように口を動かし、時々驚きの表情を浮べながら、何度も頷く。医者は次第に笑顔になっていき、嬉しそうな顔をして薬を置いた。「なるほどなるほど。風邪薬も過労の薬も、理にかなった調合だ。ラウル様の症状が風邪と薬なら、この薬が理想じゃろて」「はい。薬をすぐに飲ませたら、屋敷に着く頃には熱がだいぶ下がっていました」「フン、シャムスの薬なんか……」「オネスト」 眠っていたはずのラウルが目を開け、困り顔でオネストを見る。オネストはラウルの前に膝まずき、深々と頭を下げた。オネストの変わりように、カミリアは呆れを通り越して感心した。どうやら彼の忠誠心は本物らしい。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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94話

「ソニアもその薬をくれた人も、悪い人じゃない。シャムス人全員が、悪人というわけではないよ」「しかし……!」「オネスト」 ラウルに名前を呼ばれると、オネストはうつむく。彼は考える素振りを見せると、ラウルに深々と頭を下げて部屋から出ていった。「お嬢さん、貴女も外で待っていてくれるかな?」「はい。ラウルをお願いします」 カミリアは医者に一礼すると、部屋を出た。オネストの姿はそこにはない。 自室に戻り、鎧を脱いでワンピースに着替えた。いくら鎧でいるのが落ち着くからといって、ずっと着ていると流石に疲れる。 自室で大人しくしようと思ったが、ラウルのことが気になる。彼の部屋へ行こうとドアを開けると、ルナとオネストが立っていた。ふたりは神妙な顔をしてカミリアを見ている。「ソニア様、そろそろ話していただけませんか?」「いくらラウル様が認めた方とはいえ、シャムス人は信用できませんからね」 口々に言うふたりの目には、戸惑いや恐怖が滲んでいた。カミリアは何故彼らが自分に怯えているのか不思議に思ったが、ふたりの髪色を見てひとつの答えにたどり着き、驚愕する。(まさか、このふたりは……) 本人達に確認せずに決めつけるのはよくないが、この答えが正解な気がしてならない。カミリアは気持ちを落ち着かせようと小さく息を吐くと、ふたりに笑顔を向けた。「そうね、話しましょう。どうぞ入って」「お茶をお持ちしましょう」 ルナは上ずった声で言うと、引き返そうとする。カミリアはそんな彼女を優しく呼び止める。「ルナ、お気遣いありがとう。だけど、大丈夫」「はい……」 ルナは目線を泳がせながらうなずき、部屋に入る。きっと話を聞きたいという思いは強いが、それと同等の恐怖があるのだろう。カミリアはふたりの恐怖や疑念が少しでも緩和することを祈りながら、ふたりをソファに座らせる。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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95話

「まずは、騙し続けてごめんなさい。私は生まれも育ちもシャムスのシャムス人よ。騎士団の副団長を務めているの。極秘任務だから詳しいことは言えないけど、ラウルの護衛をするためにここにいる。本名は、カミリア・ケリー。ソニアというのは、ラウルが考えた偽名なの」 彼らが疑問に思っているであろうことをすべていうと、ふたりは顔を見合わせる。「ラウル様は、貴女の素性をどこまで知っているんですか?」 オネストが疑いの眼差しを向ける。先程述べたことですべてを払拭できるとは思っていなかったが、それでも傷つくものは傷つく。同時に、彼らはラウルがシャムスの騎士団長であることを知らないのだと確信する。「私が少し前まで騎士団長であったことまで知っています」「それは何故?」「サウラ王子から聞いたのでしょう」「サウラ王子……。確かに、ラウル様はサウラ王子と親交があるが……」 オネストは煮え切らないといった顔で考え込む。「あの、カミリア様……。貴女はシャムスについて、どう思われますか?」「どう、と言うと?」 ルナはきっと差別について聞きたいのだろうと察するが、勘違いを避けるために聞いた。するとルナはうつむき、口をもごもごさせる。それを見たオネストは、イラ立ちながら口を開く。「質問するなら最後までしたらどうだ? シャムス人は、赤髪や黒髪、女を差別しているだろう? ブロンド髪の人間は、赤髪と黒髪を虐げて楽しんでいる。貴女もそうなのではないか。ルナはそう聞きたいんだろう」「私、そこまで言うつもりじゃ……!」 ルナは叫ぶように言うが、カミリアを見て再びうつむいてしまう。その態度はカミリアの中の答えを確信に変えていった。「間違っていたらごめんなさい。ふたりは、シャムス人なの? ふたりだけじゃない。ここの使用人達のほとんどが、そうなんじゃない?」 そう考えると、辻褄が合う。ここの使用人はほとんどが赤髪と黒髪だ。それに彼らがラウルを見る目は、尊敬や忠誠では言い表せないものを感じる。ラウルが虐げられているシャムス人を使用人として雇っているとしたら、どれも納得がいく。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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96話

「あぁ、そうだ。我々はシャムス人だ。髪色だけで虐げられ続け、働き先も見つからない。生きる希望を失っていたところを、ラウル様に助けていただいた」「私は、孤児院にいました。黒髪だからって院長にも他の子供達にもいじめられていて、辛かった……。埃だらけの屋根の裏に閉じ込められて、飛び降りようとした時、ラウル様が私を引き取ってくれたんです」 ふたりの過去に、胸が締め付けられる。彼らのような被害者をなくすためにも、この任務は成功させなければいけないと、改めて思う。「月並みの言葉しか言えないけど、ふたり共、大変だったのね……。私はふたりほど大変な思いはしてことなかったけど、女だからって好きな勉強を堂々とできなかった。せっかく綺麗なブロンドに産まれたんだから花嫁修業をしてなさいって、やりたくもない家事ばかりさせられてきたわ。ハーディという親友がいるんだけど、彼女は黒髪だから関わるななんて言われてきた。けどね」 カミリアは言葉を区切り、息を整えた。「そんなの馬鹿げてるって、ずっと思ってた。髪色がなんだと言うの? 未婚の子がなんだと言うの? どんな髪色でも、どんな産まれでも、尊い命に変わりはない。だから私はシャムスを変える手助けをするために、ここにいるの」 力強く言うカミリアに、ふたりは顔を見合わせる。カミリアの言葉に嘘はないと判断したのか、ふたりは頷いてカミリアを見つめる。「貴女が鎧を着ている姿は、私とルナ、御者しか見ていません。どういった事情があるのかは知りませんが、ラウル様の顔に免じて、貴女がシャムスの騎士であることは黙っておきます」「ありがとう、オネスト」 安心しきって笑みを浮かべると、オネストはそんなカミリアを睨みつけた。「勘違いしないでください。私は貴女を信用しきったわけではありません。ただ、大事な任務があるのでしょう? それにラウル様も関与している。それなら、邪魔をするわけにはいかないと思っただけです。あくまでも、ラウル様のためですから」「もう、素直じゃないんだから。カミリア様、私はカミリア様を信じます」 ルナはモノクルをかけなおすオネストを小突くと、ほころぶような笑顔を見せた。ふたりの言葉に胸と目頭が熱くなる。なんとしてもこの任務をやり遂げると、心の中でふたりに誓う。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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97話

「そろそろ診察も終わった頃でしょう」 オネストは咳払いをすると、立ち上がって部屋を出る。「オネストはああ言ってますけど、カミリア様のこと、ちゃんと信頼しようとしています。だから、途中で敬語を使うようになったんですよ」 言われてみれば、オネストは途中から敬語になっていた。それが可愛く思えて、ルナと笑い合う。「ありがとう、ルナ。それと、外では私のことは……」「分かっていますよ、ソニア様。さぁ、私達も行きましょう」 ルナはカミリアの言葉を遮って笑ってみせると、部屋を出た。カミリアも後に続き、ラウルの部屋に入る。「シャムスの薬師が言ったとおり、過労と風邪ですな。この薬を飲んでいたら良くなるじゃろうが、万が一治らなかった場合は、この薬を飲ませるといい」 医者は薬が入った違う色の紙袋をサイドテーブルに置くと、カミリアを見る。「その薬師に、いつか会ってみたいものじゃな」「えぇ、是非。黒髪が美しい、素敵な女性です」「ほほう、そうかそうか。シャムスに旅行へ行くのも悪くないかもしれんのぅ」 医者は嬉しそうに言うと、診察カバンを持って部屋を出た。ルナは見送ろうと彼を追いかける。「まったく、無理をするなとあれほど言ったのに……」 オネストは苦虫を噛み潰したような顔で、ラウルの寝顔を見る。「そんなに無理をしていたの?」「えぇ、貴女が来て少しマシになりましたが、頻繁にお忍びに出かけていましたからね。仕事は夜遅くまでしていました。この忙しい時期に、何故お忍びなんかしていたのか……」 オネストはやれやれと肩をすくめ、部屋を出ていった。「本当に、何を考えているの?」 もしラウルが国王を目指しているのなら、シャムスの騎士団に構っている暇などないはずだ。そこまで無理をしてシャムスにいた理由は、見当もつかない。 ラウルが良くなったら色々聞こうと考えながら、カミリアの自室に戻って休むことにした。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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98話

 翌朝、カミリアは朝食を終えるとラウルの看病をしに、彼の部屋へ行く。ラウルはベッドに座り、食後のお茶を飲んでいた。昨日と比べるとだいぶマシになってはいるが、顔色はあまりよくない。「やぁ、カミリア。昨日は迷惑をかけたね。僕はもう大丈夫だよ」「嘘つかないで。ずっと前から無理をしていたくせに」 カミリアにピシャリと言われ、ラウルは目を見開く。表情が見る見る間に曇っていき、大きなため息をついた。「誰に聞いたの?」「オネストから聞いたわ。シャムスの騎士団長になったこと、彼らに黙ってたのね。シャムスとフェガリを頻繁に行き来してたら、倒れるのも当然だわ」「あのオネストがそんなこと喋るなんて。カミリアはすごいね。片道2時間くらいだし、その間にも公務はできたから、割と楽だったんだけどなぁ」 ラウルが苦笑するが、その表情は弱々しく痛々しい。「嘘おっしゃい。じゃあなんで倒れたの?」 ラウルはお茶をひと口飲むと、うなだれる。カミリアは答えを待つが、答えて貰えそうにない。「ねぇ、なんで騎士団に入ったの?」「だから、」「嘘つかないで」 カミリアが縋るように言うと、ラウルは彼女の顔をじっと見つめる。やがて諦めたように笑い、ため息をつく。「敵わないな」「え? 今なんて?」 その声はあまりにも小さくて聞き取れず、聞き返すが、なんでもないと首を横に振る。「いいよ、本当のことを話そう。向こうに座ろう」 ラウルはソファを指さした。カミリアはラウルの身を案じ、その手を握る。「ここでいい。無理しないで」「背もたれがあった方が楽なんだ。それと、ルナに頼んで飲み物を持ってきてもらおう。きっと、長話になるから」 フラフラ歩くラウルに肩を貸して彼をソファに座らせると、ルナを探しに部屋を出る。階段を降りていると、途中でルナに出くわした。「ルナ、ちょうどいいところに。ラウルの部屋に、ふたり分のお茶を持ってきてもらっていい?」「はい、すぐにお持ちします」 ルナは花が綻ぶ様な笑顔を浮かべると、軽やかに階段を降りていった。カミリアが部屋に引き返す途中、廊下を走るルナを叱るオネストの怒声が聞こえた。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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99話

 部屋に戻ると、ラウルはクスクス笑っていた。心なしか、少しだけ顔色が良くなっている気がする。「何が可笑しいの?」 向かいに座りながら言うと、ラウルは笑みを深めた。「ルナがオネストに怒られる声が、ここまで聞こえたよ。皆賑やかで楽しいな」「ラウルは、使用人達のことを本当に大事にしているのね」「当たり前だろう? 彼らがいないと、僕はまともに生活ができないからね。何より、ひとりは寂しい」 そう言ってラウルは寂しそうに笑った。思えば、彼が宿舎でもいつも誰かと一緒にいた。きっと、孤独が嫌いなのだろう。「ルナがお茶を持ってきたら話そうね。あぁ、どこから話すか悩むな」 悩むと言いながらも、ラウルは楽しそうに見える。本当に読めない人だと、ラウルを眺めていると、ドアがノックされた。「ルナです、お茶をお持ちしました」「入って」 ルナはワゴンを押して入ってきた。カップに紅茶を注ぎ、それぞれの前に置く。中央に焼き菓子が綺麗に並べられた皿とティーポットを置くと、一礼して退室していった。「朝食は野菜スープだけだったから、お腹が空いてたんだ」 そう言って、ラウルはマドレーヌを食べて紅茶を飲んだ。「確かあの時、サウラのところに行く途中、騎士を見かけたって言ったね。それはある意味本当だよ」 前触れもなしに、ラウルは話し出す。カミリアは静かにラウルを見守った。「あの時見かけた騎士っていうのはね、君なんだよ」「私……?」 驚きのあまり、声がうわずる。ラウルはそんな彼女を見て、声を上げて笑った。「あははっ、驚いた? 顔に焼印のある、黒髪の男の子を覚えてる? あの子を助けてるところを偶然見たんだ。綺麗なブロンドなのに、黒髪も焼印も差別しない君に、惚れ込んだ。その美貌にはもちろんのこと、心の美しさに惚れたんだよ」 優しい目で見つめられ、どう言葉を返していいのか困る。彼の愛が本物だと分かっているから、尚更だ。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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100話

「前に、フェガリにも差別があるって言ったのを覚えてるかい?」「えぇ、もちろん」「フェガリ人は、シャムス人を憎んでいる。昔、フェガリ人はシャムス人に虐げられていたからね。数百年前、フェガリ人はシャムス人の奴隷だったというのもあるから、尚更ね。だからこそ、シャムスとのハーフである僕には、居場所がないんだ。今はフェガリ人として暮らしているけど、シャムスとのハーフだとバレるのが、怖いんだ……」 笑みを浮かべているものの、ティーカップを持つその手は震えている。カミリアはいてもたってもいられず、彼の隣に座って手を握る。「ありがとう、カミリア。君は本当に優しいね。そんな君だから、ハーフの僕のことも受け入れてくれるかもしれないって思ったんだ。そしたらいてもたってもいられなくて、無理やり騎士団に入った。そしたら君は団長だって言うじゃないか。カミリアに認めて欲しくて、団長になったんだよ」 そう言ってラウルは、カミリアに寄りかかる。カミリアはそっとラウルを抱きしめた。焼印があったということは、ラウルは未婚の子だ。それもフェガリとのハーフとなれば、想像を絶する苦労をしてきたのだろう。当時のシャムスなら、ラウルは産まれただけで罪人だ。理不尽な死刑になってもおかしくはない。 彼がどのような人生を歩んできたのかは知らないが、平坦な道のりでなかったことは確かだ。「大変だったね、ラウル……。私、全力で任務を遂行するから、ラウルを守るから……。だから……」「ありがとう、カミリア。少し疲れちゃった……。午後も、僕の話を聞いてくれる?」 ラウルの声は濡れていた。カミリアは更に強くラウルを抱きしめる。「えぇ、もちろん。いくらでも聞いてあげるから、今は休んで」 ラウルをベッドに運ぼうと腕を解くと、その腕を掴まれる。ラウルは潤んだ瞳でカミリアを見上げた。「おやすみのキス、してくれる? 頬でも額でもいいから。そしたら、きっと安心して眠れると思うんだ」 カミリアは額にキスを落とした。まだ熱があるのか、彼の額は熱かった。「おやすみ、ラウル。良い夢を」「ありがとう、カミリア」 ラウルはカミリアの手を取ると、手の甲にキスをしてベッドに戻った。カミリアも自室に戻る。
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